世界のはじめの次
いろいろな意見はあるでしょうが、どんな競技であってもその世界一を決める大会は「世界選手権」です。歴史、伝統、参加国数、参加人数、競技方法、、、どれをとっても競技者の視点に立って世界一を決めるに最もふさわしい大会であり、商業主義に則った意外性や即決性やテレビ映りを中心にした観客の視点で作られるオリンピックとは一線を画します。国の代表であることや動く金、話題性などからくるプレッシャーがあるというでしょうが、それは見る側の問題であって競技者にとっての世界一は「世界選手権」の方が遥かに価値が大きいのです。アーチェリー競技も然りです。 |
そこでこんな一枚の写真があります。バレーフォージの西さんの写真の次に、世界に憧れ、世界を目指したいと高校生が感じた写真です。 |
1969年バレーフォージ世界選手権男子個人チャンピオン ハーディー・ワード(USA)です。胸に付けているのはアーチェリーの世界における勲章、最高の栄誉と栄光を称え贈られるメダルです。すでにオリンピックのおかげで忘れられつつありますが、現在のオリンピックのように30分12射でチャンピオンが決まるのではなく、世界選手権ではその100年を超える歴史の中で近代アーチェリーは4日間288射で世界一を決めてきました。それは過酷であると同時に、意外性もラッキーも存在せず競技者の技術と体力、そして精神力によって真のチャンピオンを決める方法でした。(だからこそオリンピックでこの競技方法は採用されなくなったのです。) |
個人ゴールド、団体ゴールド、90mゴールド、70mシルバー、50mシルバー、30mシルバー、合計6個。世界チャンピオンの胸のメダルこそがその証です。 |
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世界選手権で与えられるメダルは表記される西暦こそ違えど、基本的なデザインは毎回同じで、ピンで留められるようになっています。大会終了後に行われる表彰式ではこのピンにリボンが付けられていて、表彰台でFITAの会長から首に掛けられます。そして夜に行われるレセプションでは、リボンははずしドレスアップされた胸に直接飾られるのが習慣となっています。そこで世界を目指し集まった多くの仲間たちの祝福と羨望を受けるのです。この時FITAや開催国、開催地からの記念品やプレゼントも授与され、チャンピオンはスピーチも行います。同じ競技に身を置く者にとっては、表彰台に立つのと同じ至福の時間なのです。 |
ハーディーは前回1967年、アマースフォート世界選手権ではほとんど無名で大会に参加しました。当時のヒーローはノークリッカー最後の偉大なアーチャー、レイ・ロジャース(USA)。ところが世界一を決する場でハーディーはレイと対等に渡り合ったのです。それも最終日の30mまで。しかし結果はレイのキャリアとパワーが勝っていました。 |
それから2年、レイ同様に全米選手権も制したハーディーの時代がやってきたのです。しかしここでもドラマは展開されます。同じアメリカ代表であるジョン・ウィリアムスの鮮烈なデビューです。ハーディーがレイを苦しめたように、今度はジョンがハーディーを最終日まで追い詰めます。しかしここでも高校生のキャリアはメダリストの前に屈するのですが、その後のジョンの偉大さは、1971年ヨーク世界選手権と1972年ミュンヘンオリンピック・世界フィールド選手権制覇で十分に証明されます。(ちなみにジョンは同い年です。) |
そしてこのジョンの記録を超えて次の時代を築くのが、1975年インターラーケンで世界チャンピオンとなるダレル・ペイスなのです。 |
アメリカには脈々と金メダルの歴史が受け継がれているのです。それはレイが最初ではなく、1957年のO.K.スマサーズにまで遡る歴史です。しかし誰が一番かは関係ありません。彼ら一人ひとりが時代を築き君臨した、偉大なるチャンピオンたちです。 |
アメリカ人がメダルを取るのはそれが金であったとしても、なんらプレッシャーではないのです。なぜなら彼らは新たに世界チャンピオンの歴史の中に名を連ねるだけのことだからです。しかし我々は違います。銀までは世界選手権でもオリンピックでも手にしています。銀にプレッシャーはありません、アメリカ人同様に。しかし1976年以降、我々が目指していたのは金であり、今もそれは変わっていなかったはずです。なぜなら持っていないのは金だけだからです。 |
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24th World Championship Tournament
July 25. - 28. 1967
AMERSFOORT, HOLLAND |
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1. |
R.Rogers |
218/36 |
287/4 |
299/2 |
336/3 |
1140/2 |
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|
USA |
237/11 |
299/1 |
296/2 |
326/15 |
1158/2 |
|
|
|
455/18 |
586/1 |
595/1 |
662/6 |
|
2298 |
2. |
J. I. Dixon |
237/8 |
277/13 |
287/7 |
328/10 |
1129/3 |
|
|
England |
238/10 |
288/6 |
294/6 |
334/6 |
1154/3 |
|
|
|
475/7 |
565/8 |
581/5 |
662/4 |
|
2283 |
3. |
H.Ward |
228/21 |
268/24 |
280/12 |
327/12 |
1103/16 |
|
|
USA |
264/1 |
287/7 |
302/1 |
326/19 |
1179/1 |
|
|
|
492/3 |
555/13 |
582/4 |
653/12 |
|
2282 |
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25th World C hampionship Tournament
August 11-20, 1969
VALLEYFORGE PARK, USA |
|
1. |
H.Ward |
269/1 |
305/3 |
305/4 |
341/1 |
1220/1 |
|
|
USA |
267/7 |
307/1 |
300/5 |
329/11 |
1203/2 |
|
|
|
536/1 |
612/2 |
605/2 |
670/2 |
|
2423 |
2. |
J.Williams |
256/9 |
314/1 |
299/13 |
336/9 |
1205/2 |
|
|
USA |
277/3 |
306/2 |
300/4 |
332/6 |
1215/1 |
|
|
|
533/2 |
620/1 |
599/6 |
668/5 |
|
2420 |
3. |
G.Telford |
260/4 |
290/8 |
305/5 |
339/2 |
1194/3 |
|
|
Australia |
265/9 |
286/19 |
310/1 |
326/18 |
1187/7 |
|
|
|
525/4 |
576/13 |
615/1 |
665/6 |
|
2381 |
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26th World C hampionship Tournament
July 18 - 31, 1971
KNAVESMIRE YORK, ENGLAND |
|
1. |
J.Williams |
266/5 |
294/4 |
316/1 |
343/1 |
1219/1 |
|
|
USA |
284/1 |
317/1 |
310/1 |
315/17 |
1226/1 |
|
|
|
550/1 |
611/1 |
626/1 |
658/3 |
|
2445 |
2. |
K.Laasonen |
262/7 |
290/9 |
306/6 |
343/2 |
1201/2 |
|
|
Finland |
261/17 |
304/3 |
296/4 |
319/6 |
1180/4 |
|
|
|
523/7 |
594/6 |
602/4 |
662/2 |
|
2381 |
3. |
R.Pullen |
261/9 |
294/6 |
312/3 |
331/12 |
1198/3 |
|
|
Canada |
260/19 |
296/11 |
296/6 |
316/12 |
1168/6 |
|
|
|
521/10 |
590/3 |
608/2 |
647/8 |
|
2366 |
|
20th Olympic Games
August 1972
MUNICH GERMANY |
|
1. |
J.Williams |
281/1 |
319/1 |
322/1 |
338/8 |
1268/1 |
|
|
USA |
291/1 |
311/6 |
308/4 |
350/1 |
1260/1 |
|
|
|
580/1 |
630/1 |
630/1 |
688/1 |
|
2528 |
2. |
G.Jervil |
262/13 |
306/8 |
317/2 |
344/1 |
1229/2 |
|
|
Sweden |
288/2 |
322/1 |
303/5 |
339/8 |
1252/3 |
|
|
|
550/3 |
628/2 |
620/2 |
683/3 |
|
2481 |
3. |
K.Laasonen |
266/8 |
305/4 |
307/7 |
335/14 |
1213/6 |
|
|
Finland |
276/12 |
320/2 |
313/1 |
345/2 |
1254/2 |
|
|
|
542/6 |
625/4 |
620/3 |
680/4 |
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2467 |
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お金や名誉はあとについてくるものです。そこで射ちたい、そこで競技がしたい、という憧れこそが原動力なのです。世界の頂点を目指す者にとってのステイタスとはそんなものです。 |
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