物理の時間

 矢に「アーチャーズパラドックス」という蛇行運動が起こらないと仮定して、もし宇宙の無重力状態の中で矢を射ち出したとしたらどうでしょう?
 この場合、矢は弓から与えられた初速度によって、果てしなく初速に等しい一定の速度で毎秒一定距離を直線状に進みます。これを「等初速度直線運動」と呼びます。
 中学か高校で習った物理の公式を思い出してください。 s = vt です。矢は弓から与えられた初速度 v (m/秒)によって飛行します。 t は時間(秒)、 s はその間に矢が進む距離(m)です。仮に90mの距離で初速60m/秒で矢を射てば、発射から矢がゴールドに到着するまでの時間は1.5秒です。しかしこれは宇宙における机上の計算であり、地球上で試合が行われる限りこうは行きません。なぜなら、そこでは矢は「重力」と「空気抵抗」という2つの目に見えない大きな力と戦わなければならないからです。

 そこで最初に「空気抵抗」を無視して、「重力」だけがある状態を考えてみます。
 矢を地面と平行に10点に向けて真っ直ぐに発射します。矢は垂直方向に「自由落下運動」をしながら放物線を描いて進みます。そのため10点までの距離が長いほど、的中点は10点から遠くなります。
 矢は10点に向かって「等速運動」をしながら、垂直方向に重力加速度 g (9.8m/秒) の「等加速度運動」をするわけです。その時の落下量 (H) はこの物理の法則に従います。
 H = 落下高(量)、g = 重力の加速度(9.8m/秒)、t = 落下時間(秒)です。矢は1秒後には(9.8×12)÷2=4.9m、2秒後には(9.8×22)÷2=19.6m、3秒後には(9.8×32)÷2=44.1m・・・と落下していきます。
 しかし、このように矢が最初の時点から真っ直ぐに10点に向かうなら、時間の経過とともに10点から離れて行くわけで、アーチャーはサイト(照準器)を手掛かりとして一定の「照準角」をとり、矢に「発射角」を与えてやらなければ10点に的中させることはできません。

 では、どれだけ上を向けて発射すればいいのか。
 その発射角 θ(°)、水平到達距離を D(m)とすると、こんな式になります。前述の条件で90mで10点に的中させようとするなら、水平面から7°の角度で射ち出すことになります。
 この時、弾道として描かれる矢の通り道は言うまでもなく「放物線」です。これは水平面からもっとも遠くなる点を「頂点」として、そこに上がって行く矢と、そこから10点に向かって降りて行く矢の道が「対称形」を描きます。そのため矢をもっとも遠くまで飛ばすための発射角θは45°となります。

 では、これに「空気抵抗」が加わったらどうなるでしょう。
 この場合には矢の形状や重さ、初速その他多くの要素が絡み合うために一概には言えませんが、90mで矢を10点に的中させる場合、実際には8°〜10°の範囲で発射角を調整してシュートします。最長飛翔距離を得る場合は、発射角を36°〜38°の間でとります。
 この時、弾道の形状は対称形の放物線ではなく、頂点が 3:2 と少しターゲット側に近づいたものになり、その弾道のもっとも高い位置はターゲットから35m付近です。このことは、いかに空気抵抗が矢に影響を及ぼしているかを示すものです。

 しかし、このようなムズカシイ式などを知らなくてもアーチェリーは当たります。
 なぜなら、矢の方向性は「発射角」で決まるもの(客観的事実)ではあっても、実際にアーチャーはシューティングラインでは発射角を考えることなど一切なく、サイトピンを手掛かりとしての「照準角」(エイミング)によって矢の方向性や的中位置を認識(主観的事実)しています。これは矢の初速や減衰率を知らなくても、サイト位置でその性能を確認したり議論するのと同じことです。
 このように理論と実際、あるいは机上とシューティングライン上ではまったく異なる基準が使われます。

 とは言っても、ムズカシイことも知っていて損はない時もあるのも事実ですが・・・・。

copyright (c) 2008 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery