飛距離と的中精度

   こんな写真を見たことがありますか?
 これは1971年に Unlimited Footbow 部門 において、ギネスブックにも載った2028 yard の飛距離世界新記録を Harry Drake が樹立した時のものです。2028ヤードは約1854.4mです。しかし、飛距離と的中精度はイコールではないのです。
 
(10月24日カリフォルニア州アイヴァンパ乾湖)

 普通のアーチャーが使う弓では、キロを超えて飛ぶことはないでしょうが、カーボンアローを使うようになってからは200〜300mは飛ぶでしょうか。では、あなたが今使っている弓と矢で飛距離を競うとして、どうすればより距離を伸ばすことができるでしょうか。 発射角度は物理の時間に任せるとして、道具でできることはなんでしょうか。
 まず、発射する側の弓のエネルギーを増大させることが簡単に思い付く方法です。しかしリムの強さが同じなら、エネルギーを増やすにはストリングでの操作しかありません。より軽い素材のストリングでハイトを下げるのがもっとも手っ取り早い方法です。しかしストリングハイトを低くすれば初速はアップしますがリムの形状(たわみ)を考えれば限度があり、当然スパインの問題も起こってきます。初速が上がっても、矢飛びが悪くなれば(蛇行が大きくなれば)空気抵抗が増大し、エネルギーロスも発生します。
 ではこれ以外の方法ではどんなことができるでしょうか? 次は発射される側の、実際にその距離を飛行する矢の操作です。カーボンアローに代表されるより軽く、より細い矢の使用が思い付くでしょうが、ここでは今使用しているシャフトでの操作を考えてみてください。しかしその場合ではハネしか考える余地がないので、もう少し幅を広げて考えてみましょう。
 参考として飛距離を競うスポーツとして、スキーのジャンプ競技をイメージしてみてください。ジャンプでK点越えの大ジャンプが出た時の、ジャンパーのフォームや態勢を思い出してください。実際にはジャンプ競技では踏み切った瞬間から着地までジャンパーが飛び「揚がる」ということはなく、ただただ落下し続けて行くのです。その時いかに着地を遅らせ飛行時間を延ばすために空気抵抗を利用し、重力と戦い「空気に乗り続けられる」かがひとつのポイントとなります。そのための姿勢があの落ちて行く(飛んでいる)格好だということです。

 このイメージを矢の飛びと弾道に重ね合わせると分かり易いのですが、飛距離を延ばすためには弾道の頂点(矢が一番高い位置に達する時)から落下し、的(地面)に的中するまでの姿勢としてはポイントの先端が真っ直ぐ的に向かうというより、ノック側を低く保ちシャフトの側面全体で空気を捕まえ乗って、空気の上を滑るように空気にシャフトを運んでもらうようにすることが一番重要であることは分かるはずです。
 ということは、矢で飛距離を伸ばすにはシャフトの重心位置を後方(ノック側)に移動させることが有効なのです。この逆はトップヘビーな矢ということになります。もし同じシャフトを使用するなら、ポイントを軽くするしかありません。それによって図の位置↓での矢の反転を遅らせ、空気に乗ろうというのです。

 ポイントの重さを変えることができなければ、どんな方法があるでしょうか? ハネを重くすればいいのです。もしそれがだめなら、他に方法が思いつきませんか?
 そう、ノッキングポイントを低くすればいいのです。極端に下げることはマイナス効果ですが、適度に低いノッキングポイントは飛距離を伸ばせるのです。これはサイト位置が高いのと同じことです。

 こうやって考えてくると分かってくるでしょう。飛距離を伸ばすことと、限られた距離で的中精度を高めることでは相反するチューニングが要求されるのです。サイト位置が高いから、速く飛ぶからといって自慢しても、それは的中精度を犠牲にしての結果なのかもしれません。
 ストリングハイトを下げれば、矢とストリングの接触時間は長くなりエネルギーは多く与えられても、弓やストリングの影響をより多く矢に伝えます。例えどんな軽い重量のポイントを使用しても、矢の重心位置がシャフトの中央より後方にくることがないのは的中精度を考えてのことです。矢速を犠牲にしてでもヘビーポイントを使用するには理由があるのです。矢速を犠牲にしない方法ならハネを軽くするしかありません。フィルム製のベインにも理由はあるのです。もしノッキングポイントの最適な位置が分からなければ、少し高めに付けておけば無難です。例えサイト位置は低くても、シャフトに抑えの効いた安定した飛びと的中が得られるはずです。
 ターゲットアーチェリーは飛距離や飛型点を競う競技ではありません。当たれば勝ちの競技です。くれぐれも矢のスピードやサイトの位置に騙されないように注意しましょう。フライト競技をするなら別ですが。

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