ハネのピッチ

 ピッチとは矢にハネ(ベイン)を貼る時に、シャフトの長さ方向に対して角度を付けることです。その目的は飛翔中の矢に回転を与えるためです。独楽(コマ)が廻っている時は倒れないのと同じで、矢にも独楽の原理が働き、回転することでより以上の安定が与えられるのです。
 しかし、この回転は多ければ多いほど良いというものではなく、1秒間に7回転が必要十分条件といわれています。そして必要以上の回転はそれが外部からの空気抵抗によるものだけに、逆に「失速」という悪影響生み出してしまいます。とはいっても、ノーピッチ(角度を付けないハネの貼り方)の矢を射っても矢はきれいに飛ぶように、実はフィンガーリリースの場合、リリース時の指の動きやストリングの蛇行が潜在的に矢にある程度の回転を生み出すのも事実です。

 最近、ハネにあまりピッチを付けなくなってきました。昔アルミアローの頃はハネの接着面がシャフトから浮き上がらない程度にピッチを付けることが、1秒間に7回転程度の空気抵抗を作り出す条件と合致していました。ところが、カーボンアローが主流になることでシャフトの直径が極端に小さくなり、昔のようなピッチを付けたのでは接着面が小さくなり、ハネが浮き上がり満足な接着が出来ないという物理的要因が生まれてしまいました。ピッチを大きく付けたのでは、ハネが剥がれ易いのです。しかし、幸いなことに7回転の必要条件はカーボンアローの初速の速さなどによって、小さいピッチでも確保できるようになったのもまた事実です。
 もうひとつ、ピッチをあまり付けなくなった理由があります。「スピンウイング」と呼ばれるフィルム製のカールしたハネの場合、昔からある「3枚バネ」に代表されるハネに比べて大きい回転量を生み出すのです。それは回転を生み出す方法が異なるからですが、形状からも容易に想像できるようにノーピッチであっても回転が起こるのです。そして、この種のハネにピッチを大きく付けると必要以上の大きな回転が生まれ、失速を含んだ悪い条件ともなります。そこで特にこの種のハネではあえて危険を冒さず、無難な選択としてノーピッチかそれに近い小さなピッチを推奨しているのです。
 一般にスピンウイングも通常の3枚バネ同様に120度の角度で1枚のハネがプランジャーチップとは逆に向くように取り付けるように言われますが、スピンウイングの場合、それでは上側にくるヴェインがチップやレストに当たり傷んだり、矢飛びに悪影響がでることがよくあります。これはスピンウイングが高回転を生み出すためにノックがストリングから離れてレスト部分を通過するほんの短い距離の間にも回転が始まり、上側のハネがレスト側を向いてそこを通過するためです。スピンウイングの場合はノーピッチであってもこの種のトラブルを発生するアーチャーはこの回転を予測したうえで、ハネを貼った後の矢のノックをほんの少し回転(ひねってヴェインに対する向きを変更する)させておく配慮が必要です。

 最近一般にはあまり語られることのない、「右ピッチ」か「左ピッチ」かの問題です。語られない最大の理由は大昔から右射ちは右ピッチ、左射ちは左ピッチと相場が決まっていたからです。なぜそうなったのか、それは多くの右射ちアーチャーが潜在的に生み出す矢に与える回転が右回転だからです。それに加えて右回転の方がハネ部分がレストを通過する時に下側のハネがレストのツメを回避するのに都合が良いからです。例えば、潜在的に右回転を生み出すアーチャーの矢を、飛翔中にピッチの空気抵抗によって左回転に修正することは空気抵抗やエネルギーロスを考えれば無駄なことです。では、アーチャーが潜在的にどちらの回転を持っているかを知る方法ですが、それは調子の良い時にマキワラかタタミから1M程度離れて近射を何度も繰り返せば、刺さった矢のノックの溝の向きがノッキングポイントにつがえられた時とほんの少し角度が付いているのを発見できるはずです。多分多くの右射ちアーチャーの場合は少し時計回りに回転が起き出しているでしょう。しかし、何度もそして何日かおきに試しても、稀に左回転を起こす右射ちアーチャーもいます。そのような場合は左ピッチの矢を作るべきです。

 ただし、スピンウイングは左ピッチ用はその形状からして完全にレストのツメをヒットするような形をしています。右射ちアーチヤーで左回転用のスピンウイングを使用することは適しません。このことも、左右のピッチの議論をあまり起こさせない原因になっているのかもしれません。

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