シャーペン回しと矢回しのついでに

 見えないものが見えてくる話の続きです。
 ハネは指で触れば分かります。曲がりはシャフトの上を転がせば音をたて、手のひらでまわせば感じます。(ただしこれはポイントのセンターがずれていたりしても起こります。) となると、素人に一番見えないものは、ノックの曲がりです。
 射つごとにすべてのノックを点検することは、実は曲がりだけではなく破損や割れ(ひび)の発見につながります。余談ですが、個人的にノックは必ず透き通った色(素材)のものを使います。理由は、的面で光るので見やすいこともあるのですが、それ以上にひびを見つけやすいという大きな利点があります。(ただし、好きな色であることや、他のアーチャーがあまり使っていない色という理由で選ぶことも重要です。) ひびや傷みは実際にストリングにつがえて初めて見つける場面も多いのですが、昨今の早射ち合戦競技ルールでは時間のロスや精神的動揺を生みかねません。
 そんなわけで、必ず的から抜いた後にはすべての矢、すべてのノックを点検するわけですが、実際に後の矢がノックにヒットしたりしない限り、ノックが曲がることなど考えてもいないアーチャーが多いでしょう。その1つの理由が、現在採用されている「差し込み式」のノック形状です。これによってアーチャーはノックをシャフトに差し込みさえすれば、真っ直ぐ取り付くものと錯覚しているのです。
 これは最初の差し込み式ノックともいうべき、初期ACE用に作られたノックです。EASTONも当初は真っ直ぐ付くようにシャフトのカット面からの長さを短くしていました。しかし分かるように、これでは後の矢がヒットした時にはシャフトへのダメージが大きくなるため、今のように長く、そしてピンノックをはじめとするアダプターなどが登場しています。(テストを頼まれたのですが、この結果です。) ではそんな完成矢を見て驚かされるのは、矢を回すことをしない学生たちにあっては2〜3ダースに1本程度はノックが曲がって付いているのです。ただしそれはシャフトがコロコロと音をたてるのと同じ程度に、実際に的面で10点が9点や8点に外れるような曲がりではありません。誤差であり、気分の部分ではあります。しかしともかくは、見える人には曲がりが見えるのです。
 ではどうやって見るのか。つめの先でシャフトを回します。その時ノックの輪郭(色)が分かり易い背景にノックをかざします。あとは回してノック全体の輪郭とノックの先端を見ます。いろいろな矢を何度も何度も回して見ていると、輪郭ははっきりとした線に、先端は点に見えてきます。それが見えるようになれば、曲がったノックは線も点もぼやけているはずです。ただし、これは左右対称形のノックであり、バイターノックのような非対称形ノックでは、さらに訓練が必要です。ともかくは何度も何度も見ていると、見えてきます。
 ところでノックが真っ直ぐ付かない理由は、ノック自体の精度(品質)が悪いのは論外として(そんなノックもあります)、それでも曲がる理由の1つとしてノックを入れるシャフトのカット面の状態があります。学生に聞いてみると、多くの学生やショップまでもがシャフトのノック側をカットすることなく使っているのです。メーカーにすれば、シャフトは長さを合わせて機械的に自動的に裁断していきます。実際に矢を作る時のように、1本1本丁寧にシャフトを回転させてきれいに切っているわけではありません。そのため切り口が真っ直ぐでない場合もあります。またEASTONの樽型シャフトでは、ノック側を切るとスパインが変化するという思いがあるのかもしれませんが、数ミリは誤差の範囲であり(2インチ以上切れば1サイズほど硬くはできるでしょうが)必ず両端共にアローカッターで丁寧に切り、バリ取りなどの処理は行うべきです。
 そのうえで矢を回し確認しながらノックは装着すればいいのですが、アダプターなどを間に付ける場合、それ自体が真っ直ぐに付けられていないのです。
 そしてノックが曲がっていることが原因とはいいませんが、ノックが真っ直ぐに付いていないのと同じくらいの割合で、普通に使っているにもかかわらずこのように高価なシャフトにひびが入っている矢を見かけます。これも多くの場合、シャフトのノック側をカットせずに製作した矢です。(海苔巻き製法のシャフトの場合、ヘタが製品に残っていることがあります。)
 ともかくは、どんな製法のシャフトであっても、必ず両端を少しでもいいので丁寧にカットして面取りやバリ取りを行ったうえで、真っ直ぐ付いていることを確認しながらノックは装着しましょう。そしてシュートのたびに確認することを習慣づけましょう。そうすれば見えないいろいろなものが、見えるようになってきます。

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