どうやって射つの?!

 「さぁ、アーチェリーやってみようか!」 という、あなた。 どんな練習をするのか? 「簡単に弓は引けるのかなぁ?」「すぐに射てるのかなぁ?!」 と心配もあるでしょう。
 そこで、ここではトレーニングとかは除いて、単純に弓を射つために初心者がする練習を簡単に説明しましょう。とは言っても、アーチェリーは狩猟としての武器が競技になったスポーツのため、「安全確保」は本人にとっても、周りの人にとっても最優先事項です。そして弓も結構強いので、最初の練習から突然矢を放せるわけではありません。
 そのため、弓を引き矢を射つまでにはいくつかのステップがあるのですが、日本の場合そのスタートにおいて「和弓」を手本とした関係から、呼び名や名称に弓道と共通する部分が多くあります。指導者や伝統、しきたりなどによって異なることもあるでしょうが、だいたいは次のような流れで練習は進められて行きます。
 
 
■ 素引き (すびき)
 最初から強い弓が引けるものではありません。特にアーチェリーで使う筋肉は特別で、力があったり体格がしっかりしているから引けるというものでは決してないのです。やってみると分りますが、力のある男性よりキャシャな女性の方が力がないなりにコツのようなものを心得て、キレイにうまく引くことは一般的に目にすることです。ともかくは、最初にしっかりと基礎になる基本のフォームを身に付けなければ弓は引けないばかりか、そこから先の上達が望めません。
 そのため初心者が最初にすることは「素引き」と呼ばれる、弱い弓(引きも弱く、重量的にも軽い練習用の弓)で、矢もつがえずに引き方、構え方を教わることです。ここで基本となるのが「正十字」と呼ばれるフォーム(射形)です。
 しかしいくら弱い弓であっても、初心者や非力なアーチャーにとっては簡単なことではありません。そのため実際には弓を引くことと並行して、「シャドーシューティング」「イメージトレーニング」などと呼ばれる、弓を持たないでフォームを繰り返す練習も行われます。また、徐々に力を付けるために、「ゴム引き」などの練習を行うこともあります。
 弓を持たない練習は、矢を放さないのと同じくらいに退屈かもしれません。しかし、基礎を身に付ける段階では、このような練習の繰り返しが非常に重要であることを忘れてはいけません。
 ある程度基本の引き方ができるようになると、次は素引きを矢をつがえて行うようになります。これは同じ素引きであっても実際にやってみると、初心者は指先や手首にまだまだ力が入り、そう簡単にできるものではありません。まだまだ射てる段階ではないのですが、ここでは矢を引いては戻す繰り返しで、矢を放すための準備をしていくわけです。
 ただしいくら射たないからといっても、矢をつがえだしてからは必ず的(畳)に向かって弓を引くことになります。いくら初心者であっても弓は武器であり、扱いを間違うと大変なことになってしまいます。安全第一なのです。

■ まきわら (巻藁)
 いよいよ「実射」です。実際に矢を近い距離から射つ練習を「まきわら」と言います。この言葉も和弓からきています。アーチェリーで矢を受けるバットとして使われるのは、「畳」(タタミ)が今では一般的です。しかしちょっと前まで練習場では巻藁でした。今でも和弓では藁をちょうどタワラのように硬く束ねた巻藁という道具を使うのですが、近年稲刈りにコンバイン(機械)をつかうようになってから藁の長さが短くなり、そのような藁では巻藁が作れなくなってしまったのです。そんなわけで、手刈りの藁を使う高価な巻藁ではなく、練習では畳を使うようになったのです。しかし巻藁を使って非常に近い距離から射つ練習を、その名残で「まきわら」と呼ぶのです。だいたい弓から畳までが1〜2mでのシューティング練習のことです。
 ちょうど素引きからまきわらに移る頃になると、弓の強さも徐々に強いものに変えていきます。また進捗状況によっては軽いスタビライザー(安定装置)を弓に取り付けることもあります。しかしこの段階ではまだまだマイボウを使うのは早いでしょう。練習用の弓で十分です。ただし矢については、練習用のマイアローを持つことはあります。

■ 近射 (きんしゃ)
 実射で「まきわら」を繰り返し、フォームや力が付いてくるのに合わせて、基本的に「まきわら」と同じ練習ですが、その射つ距離を徐々に伸ばしていきます。目の前の畳を射つ「まきわら」ではなく、数mから20m程度までの距離を射つシューティング練習を「近射」と呼びます。
 そして実際にはある程度距離も離れて、フォームも安定してくると的(この場合は得点が分けられた的紙ではなく、狙うポイントと考えた方がよいでしょう。畳に直接●印などを書くこともあります。)を畳に取り付けて、「エイミング」という動作(テクニック)を身に付ける練習もします。そろそろ実際に30mで的を射つ時の予行演習となるのです。またこの頃になると、マイボウで一般のアーチャーと同じくらいの強さの弓が使えるアーチャーも現れます。

■ 30m (距離)
 近射でフォームが身について、弓の強さも強いものが使えるようになってくると、いよいよ「30m」デビューです。特に30mに意味があるとすれば、この距離がアウトドア競技としての最短距離であり、その距離ですべての矢が的に当たるようになれば初心者の試合にも出ることができ、一般のアーチャーと同じシューティングラインに並んで射つ練習が出来るようになるからです。そのためには、安全のためにも的に当たる技術(フォーム)と30mを飛ばせる弓の強さが使えることが必要になります。
 ここまでくると、マイボウ(自分の弓)やマイアロー(その弓に合った自分の矢)を使い、的紙を狙い、得点も付ける練習になっていきます。

 ところで、この段階に限らず非常に重要なことですが、多くの指導者や初心者は一旦上ったステップを戻ることを嫌います。また30mを射ちだすと、初心者を卒業したような錯覚にとらわれてしまいます。
 しかし例えば30mでフォームが崩れたり、的に乗らなくなった時に、もう一度近射やまきわら、場合によっては素引きに戻って基本を再確認するように、これらのステップは何度でも行ったり来たりするものだと理解しなければなりません。確実にその段階の技術を身に付けるまでは、先を焦らず基本を覚える努力を繰り返すのです。点数を出すことや矢を集めることは、30mが射てるようになり、自分の矢と弓で狙ったところにキレイに矢が飛ぶセッティング(チューニング)ができてからのことです。ここまでは、当てるための練習ではなく、フォームと力を身に付けるための練習です。

 
 以上が初心者の一般的な練習ステップです。
 では、「アーチェリーしたいっ!」と思って、初めて弓を持ってから30mが射てるようになるまで、どれくらいの期間がかかるのか?
 これは難しい質問ですが、安全に確実に基本を身に付けるためには、ちゃんとした指導を受けることが前提になります。初心者教室に通ったり、大学や高校ならクラブに入ると言うことです。そうなると、それぞれの指導方針や目標、練習量や練習日数などが異なるために一概に何回の練習あるいは何ヶ月掛かるとは言えないのです。
 週に一回の練習で6回程度の教室のコースなら練習用の弓で近射までであったり、学校のクラブならもっと多くの練習量をこなしているのに4月に始めても、夏までは30mを射たせない、といったシキタリがあったりさまざまです。また当然、本人の情熱や努力、そして素質も重要な要素になります。
 そのため、ともかくは始めたいなら近くの初心者教室やクラブを探して、電話をするかちょっと足を運んで実際にアーチェリーというスポーツを見てみましょう!
 
 ところで昔、まだ銀座のヤマハビル屋上にアーチェリー場があった頃、初心者教室の指導を定期的にしたこともあります(今でも初心者に教えることはありますが・・・)。 そんな時、初心者の技術習得や向上にもっとも寄与するための最大の条件は何かと考えます。答えは「備品の豊富さ」です。たしかに安全が確保された広い練習場の存在も決して無視はできません。しかし第一は、初心者が使う道具がいっぱい揃っていることです。備品が多くあるということは、初心者の状況に応じて、もっとも適した弓や矢が使えるということです。そのうえで指導者の技能や情熱、知識があれば完璧なのです。
 ではそんな恵まれた条件が揃ったとして、初心者はどれくらいで30mが射てるのか? 矢が的に乗るのか?
 30mで必ず的に乗るようになるのは結構難しいことです。しかし、一応30mが射てるようになるのには一生懸命やれば、「一週間」で十分です。毎日射つなら道具が揃っていれば、数日で30mの実射まで進めます。確実に基礎をマスターさせるというより、アーチェリーの楽しさや射つことのオモシロさを体験させることに重点をおいた指導です。クラブなどでの指導方針とは異なるとは思いますが、射つ楽しさを中心において道具や環境が整っている場合、最短で 2〜3回の練習で30mは射とうと思えば射てるということを参考までに言っておきましょう。(必ず的に乗せるには、回数にもよりますが一ヶ月はかかるでしょうか。) ぜひ、やってみてください。頑張ってみてください。射って初めて、アーチェリーのおもしろさや楽しさが分るはずです。

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