個人的な「感じ」−弓の長さのこと

 いつも言うように、上手くなるには経験の積み上げとしての「経験則」が必要であり、それを得るには「授業料」が掛かるものです。仕方がありません。今回も、少し余分に授業料は掛かってしまいましたが、いくつかの面白い経験をさせてもらいました。個人的には「いい感じ」です。
 やっと使ってみたいリムが届きました。2モデル各1ペアの特注の白いリムです。
 早速レンジに持って行き、ストリングを張ろうと、、、ところが。今回作ってもらったリムは、たぶん皆さんが使っているリムと同じような「オーソドックス」なもの1ペアと、ちょっと「変わった」リム1ペアです。「Border」という、1940年から昔のHoyt同様にガレージか町工場のようなところ(?)で作っている、イギリス(スコットランド)のメーカーです。オーソドックスなリムはまだカタログに載っていない最新モデルの「CXB」(ウッドコアです)と、変わったリムは最上級モデルの「HEX5H」というフォームコアの最新仕様モデルです。「変わった」というのは、普段目にするリムに比べて「極端に」リカーブ部分が反り返っているからです。この独自の形状以外には、特に一般的なリムとの違いはありません。
 そこで、まずはオーソドックスな「CXB」に68インチのストリングを張ろうとしたのですが、張る前にまったくストリングの長さがあいません。普通ならリムによってストリングハイトの調整は捩ることで行えば使える範囲ですが、このリムはどう考えても経験則では「66インチ」です。しかしリムには2ペアともに、頼んだとおり「68”−40#」と書かれています。25インチハンドルにセットして「68インチ」になる「Mリム」のはずです。
 そこで、使っていた一般的な68インチリム(Nプロ「NXX」)とこれらの新しい2モデルのリムを合わせてみたのです。写真のとおり、今回の2モデルが極端に短いことが分かります。
 この時点でこの日の初射ちは断念したのですが、、、いろいろ考えて、翌日同じストリングを「HEX5H」に張ってみたのです。するとどうでしょう。「CXB」には68インチのストリングは長すぎて張れなかったのが、見かけ上は同じような「HEX5H」にはぴったりの長さで張れたのです。ストリングハイトまで希望の高さです。
 そうなんです。確かに弓の長さは昔の「AMO」、現在の「ATA」が規定するように「図面上での展開長さ」です。この団体に属さないメーカーも多くありますが、一応ほとんどのリムはこの規格に準拠しています。となれば、ストリングを張った時にはリカーブやリム全体の形状、リカーブ部分の強さによって見かけ上の長さは当然異なってきます。しかし、これまで経験的に68インチの弓は「きをつけ」の状態で地面にチップを着ければ、上のチップはほぼ目の高さでした。66インチは鼻、64インチは唇とほぼ同じです。多少の長い短いはあっても、これが身長176センチでの経験則です。
 ところが、ここまでリカーブが強く反り返って作ってあるリムだと当たり前のことかもしれませんが、同じ68インチのストリングを使っているにもかかわらず高さは普通の64インチと同じ口のところまでしか来ないのです。とはいえ、フルドローではそんなに短いわけでもありません。リカーブが伸びるからでしょう、特にストリングが鼻から離れるわけでも、薬指がきつくなるわけでもありません。ただ張った状態の見かけ上だけが短い弓なのです。
 面白いと思いませんか。少し話はそれますが、皆さんの中にはリムはモデル、長さによってすべて違う機械やジグで作っていると思っているアーチャーもいるでしょう。しかし実際にメーカーがそれらを作る時には、素材の構成や素材自体を変えることはあっても、リムを圧着する際のプレス型やジグはほとんど共通で使っている場合が多いのです。例えば、同じモデルの同じ長さの表示で38と40と42ポンドの3ペアのリムは、同じプレス型で成型されています。使われている素材も構成も多分、同じはずです。同じ型で同じ材料を使って、なぜポンドが異なるのか。それはメーカーの経験則(ノウハウ)であり、ここでは述べませんが。。。
 ちょうど1年前に「うんざり」の話を書きましたが、これなどは非常に分かりやすい例です。リムもハンドルも同じですが、まさか成型する時に手で押さえて削っているわけではありません。必ず基準になる台にリムの原型はしっかりと固定されたうえで、機械によって成型されます。そのためには必ず台に固定するための穴(ボルトで締めるかピンで押さえるかなど方法はいくつかあります)と基準になる面が必要となります。設計の基本です。
 では最新最高と銘打った、これまでとは互換性をなくしたリムがどれほど最新なのか。この接合部分の長さが違うリム(接合方式は基本的に同じです)をこれまでのリムと合わせてみれば、一目瞭然です。最新のダンパーが付けられるという穴の位置はこれまでのピンが付いていた位置と同じです。実は、この穴を使うことでこれまでと同じようにリムを台の上に固定しているのです。多分このジグだけでなく、プレス型も同じではないでしょうか。違うのはリムの根元側の切り落とし長さを変更して、リムの全長を伸ばしただけです。黒塗りのリム同様、良識ある技術屋ならリムの根元のもっとも強度と剛性が求められる部分を薄くして、その真ん中に大きな穴を開けることは躊躇するでしょう。しかしこれは、新型ダンパーのために穴を新しくあけたのではなく、そこに穴があったから、ダンパーを取り付けたにすぎないのです。新しいアイデアありきではなく、リムを作る(押さえる)ための必然とコストダウンに対する、オマケにしかすぎないのです。宣伝文句は営業マンが後から考えたことです。
 このように元は同じでも、その後工程での切り方や削り方で異なってくる(異ならせる)ことはメーカーとすれば一般的なノウハウです。そのため、これまでにも多少の長い短いはありました。はっきり言えば、最近のリムの方が昔のリムより心持ち短くなってきています。その方がメーカーにすれば、なんの苦労もなく「矢速アップ」をカタログに謳えるからです。
 しかし今回の「HEX5」は、まったく異なるコンセプトをもって、最初からプレス型をこれまでとは違う形で製作しています。となれば、単に切り落とし部分を変えた、小手先の最新リムとは異なります。まったく新しい(というか大胆な)発想のリムです。
 このリムを68インチに分類するか、64あるいは66インチとするかは、ちょっと考えても面白いかもしれません。コンパウンドボウが「軸間長さ」という滑車の軸と軸の間を弓の長さに称していることから考えれば、今後リカーブボウにおいても何か異なる基準ができてもよさそうな気がしませんか。
 そんなこんなで、66インチのストリングを用意してオーソドックスな「CXB」に張ってみると、ぴったりでした。こちらはメーカーにも確認中ですが、多分作り間違いでしょう。普通の66インチは自分にとっては、短かすぎます。 (続く)

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