オレオレサギ

 いやーっ、実は先日。国体予選70mダブルの本番6本射ったところで、リムが折れてしまいましたぁ。6射目にぺシっと嫌な音がして右下4点に飛んだので、ウエイティングラインに戻った時一応弓は確認したのですが異常はありませんでした。で、2回目1射目のフルドローで折れました。、、、昔のような情熱も本気もなく、折れるとも思っていなかったので、スペアリムを持ってきていませんでした。お陰で、タタミ片付けもせず、とっとと帰らせていただきました。すいませんでした。
 ところで、40何年やっていて、テストも含めれば優に100本は超える弓を使ってきましたが、試合中に折れたのはこれが初めてです。長くやっていると、いろいろなことがあるものです。とはいえ、テストや練習でも折れた記憶はほとんどないので、折れたのは2〜3本程度でしょうが、唯一鮮明に覚えているリム折れの記憶があります。
 1977年世界選手権。2等賞になった時ですが、この時は本番で使うリム以外に2ペアの予備を持って行っていました。それらは市販品ではなく、特別に作った自分用のプロトタイプリムで、スペアリムも本番用とまったく同じポンド、同じティラー、同じ精度のいつ交換してもサイトを変えずに同じ的中位置が得られるように作ってもらったリムです。確か公開練習の前々日の練習だったと思うのですが、いつもの思いつきで普段使っているリムからスペアリムに替えて射ってみました。ところが、当たる外れるではなく何か気に入らないのです。そこで結局は最初のずっと使っているリムで試合に出るのですが、日本に帰ってきてこの時のスペアリムを射ってみた時、その日に折れたのです。もし本番で使っていれば、確実に試合中に折れていました。
 この時使っていたリムの仕様を一部変えたものが、1978年に世界初のカーボンリム(プロトタイプはありましたが、市販品では初めてです)としてヤマハから発売されます。しかしヤマハに限らず、あの頃のリムはよく折れました。折れた理由は、1975年のケブラーストリング(伸びない)登場と1977年からのカーボンリムへの移行です。新素材と新しい道具の登場であり、今に至る過渡期でした。
 そんな時代に比べれば、今は折れなくなりました。ただし、多分皆さんが思っている以上に実際には、知らないところで折れているような気もしますが、、、それはさて置き、アーチェリーのリムほど過酷な条件で使われる道具はないでしょう。炎天下や雨や雪の中というだけでなく、スキーにしてもテニスやゴルフでも反復する回数は同じであったとしても、リムほどに変形は伴いません。それに力を受けての変形ではなく、変形からパワーと性能を生み出します。それを思えば、あれだけ曲がってあれだけ反発して、折れたりねじれたりしない方が不思議です。だから、折れて当然とか、反発力が大きければ寿命が短いなどと言っているのではありません。そんなに過酷な条件下であっても、折れないリムを作ること自体はそんなに難しい仕事ではありません。
 
 
 と、↑ここまで書いてそのままになっていたのですが、また折れました。それもまた試合でです。最初が6月17日。メーカーに連絡して写真を送ったところ、7月5日に新しいリムが届いて、それが折れたのが7月15日。今度はちゃんとスペアリムを持っていたので、シングルラウンド70m32射目でしたが、そのまま最後まで射つことはできました。それにしても、、、ですが、
 ただ、折れないリムを作ることは簡単ですが、そこで言えることは、「性能」との兼ね合いです。例えば、折れない曲がらないハンドルを作るのも簡単です。太いしっかりしたハンドルを作れば、折れることも曲がることもありません。しかし重くなります。重さやバランスと耐久性の兼ね合いが重要なのです。ハンドルにおける性能はバランスと軽さを大前提とした、全体の完成度です。
 では、リムの性能とは何か? 確かに「スピード」(反発力)は重要です。しかし、スピードの速いリムを作ること自体も、そんなに難しいことではないのです。では何か? それは耐久性もスピードも備えながら、なおかつエネルギー効率が良く、美しいF-X曲線を持つことです。フルドローで同じ40ポンドの負荷を感じていても、速い矢飛びのリムと遅いリムがあります。近年、カーボンアローの登場で、このことに注目が払われず、またアーチャーも低ポンドでも70mを矢が飛ぶので、比較や実感が難しくなっているのは事実です。しかし同じ条件なら、エネルギー効率が良いことは非常に大きなアドバンテージです。ましたや非力で体力の劣る日本人にとっては、必要不可欠な条件です。では、速ければそれでいいのか、というとそうではありません。速いだけでは矢飛びの安定や的中精度は得られません。また、アーチャーの技術が伴いません。奥のスムースさや適度な緊張が必要です。それが良いシューティングや安定した精神力を支え、より小さなグルーピングを矢に与えます。ここでも耐久性と反発力を前提とした、全体の完成度が非常に重要なのです。
 
 とはいっても、ハンドルもリムも試合中に折れたのでは話になりません。では、どれだけなら納得できるのか。例えば5年前のリムを出してきて使ったら折れた、と言われれば、仕方がないねと言うでしょう。2年前であっても、傷だらけなら、使い方が悪いわ、と言うでしょう。10年前の新品でも、家といっしょで住まなきゃ傷むよねと答えるでしょう。どんな射ち方でも当たるリムがあって半年しかもたないというなら、1年に2ペアでも3ペアでも買うでしょう。
 リムが折れる原因は大きく分けて3つあります。設計の段階で、すでに強度不足や無理があったり、接着剤の選定を間違っていたりという根本的な部分に問題がある場合です。基本性能以前の問題です。もうひとつは、設計上は問題がなくても、使う素材や品質に問題がある場合です。強度不足のカーボンや品質の悪い発泡材や木芯を使えば、想定される性能や耐久を得ることはできません。あるいはそんなちんけな素材が紛れ込む場合や温度や圧力が不安定なこともあります。それに作る職人の技能の問題もあります。これらを品質管理や製造技術というのでしょう。そして最後が、劣化や疲労、傷みです。
 それにしても、昔ヤマハやニシザワといったメーカーが日本にあった時代、外国選手もそうですが、それ以前に当然のこととして発売前に日本で日本の選手が実射によるテストをしていました。機械や実験室でのテストとは別にです。今年はちょうどヤマハが完全撤退してから10年目にあたります。ヤマハが消えて出てきた韓国製品ですが、これも当然と言えば当然でしょうが、日本で「性能」に対するテストをすることがほとんどなくなりました。高い金を払って市販品で耐久テストに協力する日本人はいっぱいいますが、残念なことです。
 ちょうど今日、「Newsweek」を見ていたら、こんな記事に目が止まりました。そう、1996年アトランタオリンピック。その前年でしょうか、今のフォームと呼ばれる発泡材を使ったリムがアメリカのHoyt社から世界初で発売されます。ところがそれと同じデザインのリムですが、アメリカチームは木芯のリムで高温多湿のアトランタを戦うのです。他国の選手がアメリカ製最新フォームコアのリムを使う中でです。
 道具に依存する割合が高い競技において、その道具のメーカーが自国にない意味はいつも考える必要があります。それはアドバンテージを得られないだけでなく、大きなハンディを最初から背負っていることです。
 ところで、今回折れた2本は市販品ではありません。まったく新しい特別なプロトタイプです。耐久性に欠けるという致命傷はまだありますが、アドバンテージを感じるからこそ試合でテストしてみました。折れるのは予想外でしたが、授業料と経験則によってノウハウは積み重ねられます。それはアーチャーもメーカーも同じであり、それがまっとうな対価として戻ってくることを祈りつつ、、、です。
 しかし、弓が壊れるということでは同じなのですが、それを見ていて「折れ、折れ!」と大きな声で叫ぶのはどうでしょうか。たしかにこのページでも使えないという意味で「折れ」に言葉は統一していますが、メーカーやテストシューターにとっては、リムの「折れ」と「剥がれ」あるいは最近は減りましたが「ねじれ」はまったく違う現象であり原因です。また、一見折れていても、剥がれたために折れることもあれば、逆に折れて剥がれる場合もあります。ということで、適当な一言で片付けるのはやめましょう。サギじゃないんですから。。。