これに対して、ヤマハは弓のポンド調整のために「ダブル
アジャスト」という方式を採用しています。これは微調整(リムバランスの調節など)には、他メーカー同様にネジを締め込んでおこないますが、基本性能に影響をおよぼす大きな角度の変更が必要なポンド調整には、リムとハンドルの間に取り付けられている「スペーサー」という接合板(樹脂でできた3サイズ用意された板)を交換することで対応するものです。ここで重要なポイントは、#1のもっとも分厚い(リムがもっとも起きた)接合板において基本設計を設定していることです。輸入品は基準からリムを起こしてポンドアップできるのに対して、ヤマハは基準からリムを寝かせてポンドダウンできるような設計になっているのです。(ダブルアジャストシステムは私のアイデアです。) |
これはチューニングのし易さと分かり易さ、そして安定度という点で非常に優れたコンセプトです。特に初めて弓を購入する初心者においては重要です。初心者が最初から40ポンド近い弓で練習を始めるわけではありません。まずポンドの低い弓から徐々にポンドアップして、最終的に求めるポンドと性能を自分のものとするのです。(低ポンド時には、特に性能を求めません。) |
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では基本性能が発揮される設計上の基準位置から、1回転以上のリム角度変更を行うとします。(本来設計上の数値で言うならハンドルの中心線に対してのリム角度で語るべきことですが、ここでは設計者の視点ではなくアーチャーにもっとも分かり易い方法として角度を締め込み量に置き換えて話しています。) 1回転とはどの弓においても「1ミリ」のリム角度変更を意味します。ヤマハの締め込みネジにおいても同じですが、接合板での変更では#1→#2=-2ミリ、#2→#3=-2ミリ
と接合板を薄くするごとに倍の2ミリリムが寝ることになります。(#2を取り付けて、ネジを2回転締め込めばリム角度としては変化していないことになります。) |
1回転以上とは、設計者が意図するものとは異なる性能を意味します。あえてそれを承知で行う時、リムを起こすのと寝かせるのとでは何が違うのか。1ミリは約2.5%のポンドアップかポンドダウンをもたらすため、40ポンドの表示リムで1ミリ締め込めば約41ポンドになり、1ミリ寝かせれば約39ポンドのリムとなります。その矢速の変化は当然のことですが、最大の問題はリムの「安定度」の変化です。特に問題になるのは、リムを起こした場合です。この時リムはバタツキ易くなり、シュート時の収まりの悪さだけでなく、発射時の不安定さは的中精度にも影響を及ぼします。それに対して寝かせた場合は、矢が飛ばないなどの問題はあっても、リムとしては安定の状態を確保します。 |
もしアーチャーがポンド変更を求めるなら、この程度の知識と理解は持ったうえで行いましょう。それがメーカーと設計者に対する礼儀です。 |