コンポジット(カーボン)ハンドル

 なぜEASTON社はカーボンアローにコア(芯)材としてアルミチューブを使うのか? 個人的にその必要性はそんなにも感じてはいません。
 1984年ロサンゼルスオリンピック。この大会EASTON社は自社のアルミシャフトが100%のシェアを持つ中、あえてACEの前身であるプロトタイプ(試作)カーボンアローA/C(アルミ/カーボンの略)で初めて世界を制したのです。カーボンアローの実質的、世界初デビューでした。ところが世界を制したカーボンアローにもかかわらず、価格の問題だけではなく品質や仕様上の問題からアルミを駆逐するにはまったく至りませんでした。ところが1989年ローザンヌ世界選手権でフランスのBEMAN社オールカーボンアローが10年ぶりにアルミアローによって作られた世界記録を更新してから事情は一変します。世界はアルミからカーボンアロー、それもBEMANのカーボンアローへと一気にシフトしたのです。この時独占を続けてきたEASTON社が初めてその地位を奪われ、後発メーカーとして屈辱を味わいます。(その後BEMAN社はEASTON社に買収されます。)
 前置きが長くなりましたが、EASTON社はアルミニュームを扱う専門メーカーでありスポーツの世界ではアルミバットや、これもカーボンの時代になるまではPrince社のテニスラケットなどを量産していました。アルミが本業なのです。だからこそ矢がカーボンになってからも、EASTONはアルミにこだわるのです。
 では、YAMAHAは何が専門なのか? 1959年、川上源一氏がアメリカから一本の弓を持ち帰り、その製造を思い立った時、それを支えるのはピアノの木工技術でありバスタブのグラスファイバーでした。今ではアーチェリー同様ヤマハからは消えてしまいましたが、ヤマハのスキーもラケットもそれらはアーチェリーより後に参入し、それぞれの世界で先進の技術を提供し続けたのです。それらの技術の核にあるのは、現在唯一残るゴルフでもわかるように「コンポジット(複合)」なのです。ゴルフクラブのカーボンヘッドもそうですが、一般的には近年のテニスラケットが分り易い例でしょう。アーチェリーではパワーリカーブに代表される「たい焼き製法」がそれです。

 1987(昭和62)年、ヤマハは会社設立100年を記念して、「センチュリー モデル」と呼ばれる特別限定モデルをピアノをはじめとするすべての部門で発表するよう指示が出されていました。(この年ヤマハは社名をそれまでの「日本楽器製造(株)」から「ヤマハ(株)」に変更しました。) その時アーチェリー部門から発表されたのが、世界初の「カーボン(コンポジット)ハンドル」です。なぜ、金属ハンドルでなかったのか。答えはこの技法こそがヤマハのもっとも得意とする分野であり、もっとも多くのノウハウを持っている技術だからです。そして何よりもこの製法がアーチェリーのハンドルには適していると考えていたからです。しかし、残念なことに2002年ヤマハが撤退に至るまで、新たなコンポジットハンドルは発表されませんでした。そしてもっと残念なことは、ヤマハまでもがコンポジットハンドルを発表しながらも、NCハンドルの流れに追随しなければならなかった現実です。(確かにヤマハはパワーリカーブと呼ばれるコンポジットリムを製品化しました。しかし実際この技術を駆使しアーチェリーの的中精度向上に寄与したかったのはハンドルでだったのです。コンポジットハンドルの後にコンポジットリムが存在する予定だったのです。)
 当時で¥400,000。受注生産で木箱に入り、ハンドル1本、リム2ペアとスタビライザーとクリッカー付き。アーチャーの名前入りでグリップはアーチャーが加工後に一体塗装。ネジ部分とクリッカー、スタビライザーのウエイトは金メッキ(これは勘弁ですが、アーチェリーバブル終焉の頃です。)。どうですか?
 それにしても残念です。実際にNCアルミハンドルよりダイキャストマグネハンドルがリカーブボウには適するように、コンポジットカーボンハンドルはそれ以上のメリットと可能性をアーチェリーに提供できるからです。(現状、マイナーなリカーブボウの世界はそれとは逆方向に流されていますが。。。)
 簡単な例を挙げるなら、ハンドル本体の重量が軽ければその重さをスタビライザーにまわすことができます。(極端に細い形状であっても折損しないハンドルを作ることも可能です。) より効率的なセッティングやアーチャーの負担を軽減させることが可能なのです。同様にコンポジットハンドルなら同じ総重量でその重さをグリップ付近に集中させることも、上下に配分することも可能です。あるいは、こんなことを考えたことがありますか。ハンドル自体をリムのようにしならせて、ハンドルとリム両方の反発力で矢を飛ばすことも可能になります。また、まったく逆にハンドルを鉄やステンレスより硬くし、リムのエネルギーをまったく逃がすことなく矢に伝えることもできるのです。(現在のNCやマグネシュームハンドルでもドローイング時にハンドルがたわんでいます。)  コンポジット(カーボン)ハンドルは、設計の自由度が非常に高く、強度や耐久性において圧倒的に金属ハンドルに勝るのです。

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