カーボン○×△(FRP)の作り方

 先日、1本5万円のカーボン/セラミックの最新センタースタビライザーを買ったのですが、使っているうちにロッドの中でカラカラと音がするのです。それで気になって、意を決してネジを外してみると、中から出てきたのは茶碗のカケラでした。
 って言う小噺はどうですか。で、文句を言いにショップに行くと、このカラカラが振動吸収に効果を発揮すると丸め込まれ、リムセーバーも買わされたってオチが付けば、笑い話ですかね。結構ありそうな話ですが。。。。 (^^ゞ
 別に3万円のアルミロッドの中からカーボン紙が出てきてもいいんですが、あなたは大丈夫ですか。アーチェリーの世界、本当に最新のハイテク先端素材が使われているのも事実ですが、その中身をわかって使っているアーチャーは少ないのではありませんか。それにモノには相場なり相応というものもあります。何でも難しい名前が付いて、高ければよいというものではありません。お金を使うことに満足しているならよいのですが、お金をどぶに捨てるだけでなく、せっかくの点数も無駄にしているのならちょっと考えなければなりません。
 
 カーボンシャフト、カーボンロッド、カーボンリム、カーボンエクステンションにカーボン○×△。カーボンが付けば高くて軽いのかぁと変に納得する前に、言葉の整理をしておく必要があります。
 我々が言う「カーボン○×△」のカーボンはカーボン(炭素)繊維を表していますが、○×△が付いて製品となった時そこにカーボン繊維が直接巻き付けてあるのではなく、FRPと呼ばれる繊維で強化されたプラスチック(aiber einforced lastics)が使われている場合がほとんどです。その使われる繊維がガラス繊維(グラスファイバー)ならGFRP、カーボン繊維だけが使われているならCFRPになるわけです。ただしそこに使われる繊維の質(性能)や量、向きや弾性率は性能や性質を決定付けるうえで非常に重要です。しかしアーチェリーの場合、例えばオレンジ果汁100%の飲み物しかオレンジジュースと名乗れないように、法律で定めてあるとよいのですが悲しいかなそれがないために最初の小噺のようなことがまかり通ってしまいます。悪く言えば、ユーザーの目を誤魔化すためにほんの少ししか入っていなくても、それがすべてのような名称を付けたり、性能とは無関係でも入っているだけで高い値段が付けられている商品もあるということです。例えばCFRPがそこに使われる理由は何なのか。強度向上なのか、振動吸収なのか、軽量化なのか、反発力アップなのか、それとも単に飾りとしてのデザインなのか。それを見極める必要があります。
 たしかに最近では、「コンポジット」や「ハイブリッド」と呼ばれる複合材が使われだしたのも事実です。これは複数の強化繊維が混ぜ合わされたり、重ね合わせて使われることで単独では補いきれない欠点をカバーしたり、より一層の高性能を引き出そうというものです。カーボン繊維の欠点でもある圧縮強度を増すためにケブラー(芳香アラミド)繊維やガラス繊維を併用することもそうです。あるいはヤマハのリムにあったカーボン/セラミックなどはセラミック繊維ではなく、セラミックウィスカーと呼ばれるセラミックパウダー(結晶の粉末)をCFRPを貼り合わす接着剤の中に入れることで剛性を高めるべく使われたものです。
 
 そこでここでは一番元になる、繊維強化プラスチックとしての「FRP」の作り方を説明します。
 我々が一般的に目にするFRPの成型品といえば、ガラス繊維を使用したバスタブやそれを収めるユニットバス、あるいはモーターボート等が大きいものではあります。ところが最近は阪神大震災以降、高速道路や新幹線のコンクリートで出来た柱の周りなどにもカーボン繊維で強化されたFRPが使われるようになってきました。しかしそこまで大きくなると手におえないので、ここではアーチェリーに使われる、アローケースに収まる程度のFRPの成型方法を見てみましょう。
 
1)オートクレイブ法
 サンドイッチやラザーニァをイメージするとよいでしょうか。積層材を何枚も重ね合わせて、上から熱と圧力をかけて成型品を作る方法です。この時、強度を上げるために繊維の向きや種類が異なる材料を積層させることもできます。
 
2)引き抜き法 (プルトルージョン製法
 ところてんを突き出すイメージでしょうか。ただし、どちらかというと引き抜く感じなので、熱いピザを切り分けた時のチーズが糸を引くイメージの方がわかり易いかもしれません。元になる繊維(他の方法もそうですが、ここでカーボン繊維だけを使用すればCFRPにはなるのですが、使われる繊維の性能や樹脂に対する繊維の量によって出来上がるCFRPの性質は大きく異なってきます。)を樹脂(母材)の中を通して、ガイドから金型へと抜いて硬化させます。この時の金型の形状によってリムに使うような板状のFRPや中が中空のパイプなども作り出すことができます。ただしこの方法では、基本的に強化材となる繊維は一方向(引っ張る長さ方向)だけのロービング素材になります。
 
3)シートローリング法
 これは手巻き寿司をイメージすればよいでしょう。手作業が中心のこの方法は、マンドレルと呼ばれる芯になる棒に引き抜き法などで作られたFRPを巻き付けて作ります。ただしこの時巻き付けられるFRPはプリプレグと呼ばれる半硬化状態の素材です。これはカーボンコンポジットハンドルを作る時などにも使われる材料で、ちょうど生八橋(京都などで売っている)を思えばよいでしょう。それを巻き付けて乾燥炉で硬化させ心棒を抜き出せば硬い八橋が出来上がるのです。この方法では巻き付ける素材にクロス(編んだ)繊維を使ったり、ロービング繊維であっても斜めや直角に配することも可能です。
 
4)フィラメントワインディング法
 これは引き抜き法とシートローリング法との併用のようなやり方です。芯になるマンドレルに樹脂に浸した繊維を機械で巻き付けていきます。どちらかといえば、大口径のパイプや圧力容器の成型などに使われる方法ですが、設備投資としてのコストが結構高いものになります。
 
 以上がアーチェリー用品を作る時に使われるFRPの成型方法ですが、これらは単独で使われるとは限りません。例えば引き抜き法で作られた板状のFRPは繊維が一方向であるため、それをオートクレイブ法で向きを変えて重ね合わせたり、パイプ状のものなら引き抜き法で作ったパイプにシートローリング法でクロス繊維を巻き付けたり、フィラメントワインディング法で強化したりといろいろな方法があります。
 
 そこでもう少し詳しくみてみましょう。
 まずサイトの「エクステンションバー」や「Vバー」(なぜFRPで作るのか個人的には???)といった部品は、ほとんどがオートクレイブ法で作られています。もっともコストが安く、平板やこのような形状のものを量産するのに適した方法です。
 そしてこれも参考までにですが、最近よく「カーボン風」と呼ばれる模様(デザイン)があります。自動車部品や家電など高級感を付加する時に使われる黒い繊維が縦横に編み込んだような模様です。実際のカーボンクロスを意識的に表面に貼ることもありますが、多くの場合そういう模様を印刷したシートを一番上の層に貼り付けています。カーボンクロスが使われている、という雰囲気を出すためにオートクレイブ法でも同様の手法がよく使われます。ともかくは、デザインと性能は区別するべきです。
 では同じ棒状でも円筒形はどうでしょう。矢の軸になる部分を「シャフト」と呼びます。スタビライザーの棒の部分は「ロッド」と呼びます。しかしどちらも中が中空の円柱をしている「パイプ」であることには変りはありません。このパイプはどのように作られているのか。
 その昔、矢もスタビライザーも木や竹の時代もあったのでしょうが、一世代前といえばそれはどちらもアルミニューム製のパイプでした。ではアルミのパイプはどのようにして作られていたのかというと、繊維こそ通っていませんが同じ引き抜き法と呼ばれる溶けたアルミを機械に通して引っ張リ出していく方法です。この製法の特徴は、比較的簡単に均一で精度の高い製品が安くで作り出せることです。これはアーチェリーのハンドルを作る時の、NC製法(アルミニュームを1本1本機械で削り出す作り方)に対するダイキャスト製法(溶けたマグネシュームなどの金属を型の中に流し込んで固めて取り出す作り方)のようなものです。タイ焼きを作るように、同じものをどんどん作り出せます。ただし、ひとつ条件は、ある程度の数なり量を作ってはじめてコストダウンと高精度が可能になる点です。昔、EASTON社のアルミアローが100%のシェアを占めている時、日本でも住友軽金属などがシャフトを作る計画を持っていました。しかしその時断念した理由は生産量でした。ある程度の数量を作ってはじめてEASTONの価格と精度に太刀打ちできるということです。それは日本にシャフト、それも高精度、高品質のものを生産する技術力がないのでは決してありません。問題はタマゴが先か、ニワトリが先かと言うことだけです。そして素材がカーボンになってからも日本の生産力、技術力の優位性は変わってはいません。
 そこでまずロッドですが、製造方法としては引き抜き法かシートローリング法です。引き抜き法だと繊維が一方向のため割れ易い欠点があるので、ネジ部分の両端だけシートローリング法で強化したりする方法もとられます。またシートローリング法の場合でも、繊維が一方向だけでは割れ易いので、繊維の向きが異なった複数の素材を巻き付けることが一般的です。この時、繊維の向きやその割合によって、ロッドの性質を変えたりすることもできます。表面の繊維を見るとフィラメントワインディング法のように巻き付けたような模様があるものもあるのですが、この製法はコストが高いので、ほとんどはシートローリング法で、表面の処理を見た目に良いものにしている場合がほとんどです。
 では一番知りたいアローシャフトの作り方です。これは具体的に製品名を出した方がわかり易いでしょう。
 矢の場合、EASTON社が現在では市場のほとんど(ハンティングなどを含まない分野)を独占しています。そのため中核商品であるACEやX-10が、アルミコア(アルミのパイプを芯にした)にカーボンを巻き付けた製法であるためにこれらの「アルミ/カーボン」シャフトに対して、他のものを「オールカーボン」シャフトと呼んで区別しています。
 そこでまずオールカーボンシャフトですが、これはプロセレクトアローに代表されるもので作り方は引き抜き法です。EASTON社のオールカーボンシャフトを含め、それ以外のアメリカをはじめとするほとんどすべては引き抜き法と思って間違いないでしょう。この製法はともかく量産することでコストダウンと均一性が確保できるのです。アルミアローと同じで、高品質、高精度、低価格、そして同じ物が作れる製法といえます。このことは矢に限っては非常に重要なポイントです。例えばゴルフクラブでもテニスラケットでも同じブランドであってもそれぞれの1本の品質がよければそれでよいのですが、アーチェリーの場合は少なくとも12本が同じ品質、おなじ性能、同じ仕様でなければなりません。このことの大変さはアルミ/カーボンシャフトを見ればわかります。
 アルミ/カーボンシャフトの代表、ACEもX-10も製法はシートローリング法です。(EASTON社のオールカーボンアローもシートローリングになぜかこだわっていますが。) 意外ではありませんか。EASTON社がアルミコアにこだわる理由は、現在も金属バットなどで有名ですが元々アルミを扱うのを本職とするメーカーだからです。仮にアルミコアが本当に良い製法だとしても、あれだけ薄く精度の高いコアとなるパイプを他社では供給できないという事情があります。そんなわけでEASTONはマンドレルの代わりにアルミシャフトを心棒にしてしまったのです。性能は別にして、製法として見た場合、それは決して優位なものではありません。なぜなら、これはほとんど手作りに近い製法であるがために、決して量産向きで均一品質向きの製法ではないからです。昔、最初にACEを発表した10数年前、EASTON自身が歩留まり(出来上がったものの中で製品として市場に出せる数の割合)は40%も難しいと言いながら商品化に踏み切ったのです。10本作って4本がやっと商品になるということです。残りの6本は捨てるしかなく、それらはコストに跳ね返ってきます。普通では商売になり得ない状況であえてEASTON社を参入させたのは、1987年オールカーボンアローでBEMAN社(このあとEASTONの傘下に吸収されましたが)に100%のシェアを誇る寡占メーカーが苦汁を舐めさせられた屈辱の結果です。(この時から矢はアルミからカーボンへと変わっていったのです。)あれから新しい設備も導入され、仕様も大きく変わりました。ACEの初期の製品はポイント側の端にシートローリング法によってわざわざ別にカーボンクロスを巻き付けてあります。これなどは今ならV字回復とでも言うのでしょうが、いくらアルミアローで世界一のメーカーであっても、カーボンアロー時代に乗り遅れた後発メーカーとしては採算を無視してでも過剰品質を含め、世間にアピールする特徴と独自性が不可欠だったのです。中央が膨らんだ樽型形状やそこに記されたセンターマークも、そして多種多様のポイントやノックもそうです。何がなんでも市場を奪還したかったのです。
 ところがそれでは価格でも品質でも勝てないことを知ったのです。その時からあれほど誇っていたセンターマークも先端部の強化もポイントシステムも均一性までもが消えていったのです。考えてみてください。シートローリング法は竹輪を作る最初のように、芯を持ったのり巻き寿司を考えればよいでしょう。まったくそんな作り方です。芯のアルミコアは専門家です。精度も品質も問題ありません。ではそれに半硬化状態(プリプレグ)のCFRPを均一に巻くことができますか。当然、硬化段階では型で押さえるので一見きれいな手巻き寿司は出来上がります。では海苔と海苔の重なったところ、境目はどうなりますか。職人なのでうまく処理はします。しかし繊維や樹脂の偏りが起こらないとはいえません。
 ところが、実はここでもう1工程入るのです。センターレス研磨と呼ばれるものです。普通円柱を削り出すなら、旋盤に棒の中心を押さえさせて外側に刃を当てて削っていきます。しかしアローシャフトはいくらコアに金属があるといっても中空です。中心を押さえられません。そこでセンターレス研磨とは字のごとく、周りを回転する複数のローターに押さえさせて、高速で回転させることで周りを削って円柱にしようという方法です。(そのため購入したシャフトには黒い粉が残っています。) しかしここにも樽型というやっかいな特徴があります。結果、外形寸法や曲がり精度では規格内に収めたとしても、カーボン層の厚みや繊維の偏りまではチェックできません。これがアルミ/カーボンシャフトがウォーターテストなどで均一性を疑われたり、どうしても外れる矢があったりする理由です。
 メーカーもチェックの努力はします。ところが次には重さも含めてバラツキが多く出るのです。となれば品質を維持して歩留まりを犠牲にするか(当然コストは上がります)、それとも歩留まりのために品質を犠牲にするかです。ところが少なくともリカーブという分野において、再び独占メーカーにのし上がったEASTON社はとんでもないことを考えついたのです。歩留まりを維持するために、出来上がった製品の重さとスパインを測定して、同じ程度のものを12本ずつパックにして売り出したのです。だからそれぞれの矢には固有の記号が記されていて、同じサイズの矢でも後で混ぜて追加すると的中位置が異なってしまうのです。それでも同じ商品というわけです。ちなみに、世界のトップ選手が使っている道具が皆さんが入手できるものと同じなどとは決して思わないでください。世界チャンピオンが使っているのは、もっと精度の高い選別方法で選びぬかれた数10本の同じシャフトを、実射の中からなお一層選び抜いた6本なり1ダースのシャフトなのです。

「シートローリング製法」に対する「プルトルージョン製法」については、こちらをご覧ください。

 
 少しはイメージが湧いてきましたか。それでは最後にYahooでもGooでも検索サイトに「カーボン繊維」と入力してクリックしてみてください。世の中には汎用の出来上がったFRPの既製品は、リム用でもロッド用でもいくらでもあることがわかります。アーチェリー用に使われているFRPが、前述のような方法でアーチェリー用に作られているとは限らないのです。今は亡きヤマハが凄かったのは、例えばリムに使うFRPの板を引き抜き法を含めた様々な方法で自社生産していたことです。アーチェリーに最も適したFRPを素材から作っていたのです。そんなノウハウや設備や資金を持つアーチェリーメーカーはもうありません。今、どこのリムもあるいはカーボンロッドに至っては、ほとんどが汎用の市販されたFRPの既製品を転用したり、ほんの少し加工するだけでブランド名を入れて売っているのです。カーボン製と書かれていて、その中身や性能で素人がわかることといえば軽いことぐらいでしょうか。
 笑い話のネタにされないためにも、そろそろちょっとは賢い消費者になりませんか。
 
資料等ご協力 : 新日本石油株式会社 CF事業室

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