スナップオングリップ (アーチェリー殿堂)

 「スナップオン」グリップ。最近、あえてこんな呼び方はしなくなりました。
 今でこそ当たり前のように使っている「テイクダウンボウ」(ハンドルとリムが分解式の弓)ですが、これがリカーブボウの競技に登場したのは、1972年のミュンヘンオリンピックです。しかし、この時にまだスナップオンの言葉はありません。この言葉が使われだすのは、世の中の大勢がテイクダウンへと移り変わる1975年以降です。
 それ以前は、ほとんどすべての弓が「ワンピースボウ」の時代です。ワンピースボウとは、木でできた分解できない1本ボウのことです。そんな時代に生まれたテイクダウンは革命でした。
 あれから40年。今は分解できることは、イコール「リムが代えられる」という認識です。しかし、昔は同じことではあっても、アーチャーの認識は「同じグリップが使える」であり、最大のメリットでした。なぜなら、ワンピースボウの時代に同じポンドの弓は見つかっても、それが同じグリップとは限らなかったのです。今の予備リムは、昔では予備の弓1本全部が必要だったのです。同じグリップの予備弓を見つけるのは簡単ではなかった時代です。なぜなら、、、、

□ワンピースボウのグリップ
 
 当時、グリップ部分も弓全体と一緒にコピーマシンで削って作るのですが、現在のような複雑な動きができる機械ではありません。まずは、単純に幅面や全体の大雑把な形状を削り出す程度です。後は職人技の世界です。特にグリップの仕上げは手作業であり、角度やアールの取り方が1本1本微妙に違いました。型にはめて作ったり、機械が勝手に作ってくれるのではありません。それに作業をするのは、アメリカ人です。

□テイクダウンボウのグリップ
 
 多くのメーカーが1970年代中頃には、それまでのワンピースボウから最新のテイクダウンボウへとモデルチェンジをします。しかし、現在の「スナップオン」と呼ばれる「はめ込み式」のグリップを最初から装備したモデルは皆無でした。それにそれまでのメーカーの発想は、まずは木製です。テイクダウンに新しい素材として金属のハンドルを持ち込むのは新参者でした。
 しかし、どちらもまずはそこにグリップを掘り込むことから始まりました。木製ハンドルのテイクダウンはワンピース同様のレベルであり、金属ハンドルであってもそれはハンドル一体の金属グリップでした。
 ただし、NCマシンのない当時は、すべてがダイキャストです。金型に溶けた金属を流し込んで作るため、ワンピースボウの頃のような微妙な違いはなくなり、とりあえずは同じモデルなら、同じ形状のグリップを手に入れることができるようになりました。
□金属のグリップ
 
 金属のテイクダウンは、ハンドルと一体の金属グリップです。となれば、それを個人で成型(削る)する場合、ハンドルの最も細い部分に手を加えることになります。相手が金属だけに削るのも大変ですが、それ以上に強度に対してメーカーとしては認められない改造になります。
 しかし、それ以前に冬を迎えたアーチャーは、グリップの冷たさに気付きました。最近ではコンパウンドボウでこの種のグリップが残っていますが、リカーブで手袋をすることはほとんどなく、冬場のグリップの冷たさは尋常ではありません。

□樹脂のグリップ
 
 最初にスナップオンらしきグリップを登場させたのは、Bear社でしょう。1973年頃です。しかし最初のそれは、ゴム製でした。それでも冷たさは回避されたのですが、素材として柔らかいために変形を伴いました。
 Hoytも最初のモデルは、ハンドル一体の金属グリップでした。それを追いかけたヤマハの最初のモデルは、ゴム製でした。どちらもマイナーチェンジによって硬い樹脂製スナップオングリップを登場させたのは、1974年のことです。これによって、世界は樹脂製スナップオンへと変っていきます。
□木製のグリップ
 
 近年、樹脂製ではなく木製のグリップが一般化しています。しかし、勘違いがあるようです。
 木製のグリップが一般化するのは、1990年代になってからです。それまでにも木製のグリップはあったのですが、市販品というよりは、一品ものの手作りグリップでした。当然、非常に高価で入手も困難でした。
 ところが最近は、これらの木製品を加工するマシンの登場により、1個ずつではあっても非常に簡単に安くで作れるようになったのです。それも昔のような後加工を必要とせず、金型のように同じ形状で何個でも作れるのです。それでいて、天然木=高級品のイメージまで備わっています。
 実は樹脂製グリップは、高品質な金型で製作する場合、金型だけで何百万円もの先行投資が必要になります。当然、それを回収するには、大量のグリップを製作し、売り切ることを必要とします。その間のモデルチェンジはできません。
 樹脂から木への移行は、アーチャーの必然ではなく、メーカーの都合に過ぎません。ダイキャストハンドルからNCハンドルへの移行と同じなのです。パソコンのデータ変更だけで、在庫を持たずに希望する個数の同じ形状のグリップが簡単に作れる時代なのです。
 ところで、Fred Bear を知っていますか? ↑
 Earl Hoyt も知らないアーチャー諸君。そんなことは知らなくても、弓は射てますが、、、それは野球をやる人間がベーブ・ルースを、ボクシングをする人間がカシアス・クレイを、ゴルフをやる人間がジャック・ニコラウスを知らないのと同じことですよ。
 アーチェリーの「殿堂」入りしている、誰を知っていますか?  「殿堂」があることを知っていますか?
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