矢を同じ方向に向けたり、同じエネルギーを与えるといっても、矢(シャフト)はどこで支えられているのでしょうか。これも当たり前のことですが、矢は2点によって支えられ、そこから方向とエネルギーを伝達されます。1点はレストであり、横にはクッションプランジャーがあり、その下にはピボットポイントを中心にグリップがありアーチャーの押し手となるわけです。もう1点はノッキングポイントであり、そこには3本の指でフックが掛けられ、そこにつながったロープが肘の先端をとおり背中に結び付けられています。アーチャーの引き手です。この接点をアーチャー側から言えば、「グリップ」と「フック」によって矢の的中精度は決定付けられるということになります。しかしこれが金属でできたシューティングマシンによって行われるなら何の問題もないのですが、生身の人間が行うということであれば多少事情が違ってきます。アーチャーがミスを犯すという前提に立つなら、そのミスも確実にこの2点を介して矢に伝えられるからです。特にグリップやフックといった指先の細い筋肉に依存する部分では、この種の問題は確実に発生します。それにオリンピックラウンドなどの過度の緊張は確実にこの2個所をめがけて襲いかかります。 |
アーチャーは理想のフルドローが作り出された時、弓の力は腕全体の太い筋肉で支え、両手首には最小限の筋肉参加でその役目を遂行されるようにしてやらなければなりません。また、そこに意識を置いてはいけません。意識は力を生みます。例えばフルドローでアーチャーがフックのズレを感じ、それを止めようとフックに意識を注いだ瞬間にはすでにその指には力が発生します。その力は確実に矢に伝わり、方向とエネルギーを変えてしまいます。仮にそのような場面に遭遇した時は、指のズレよりも早く肘全体を張ることに意識を注ぎ、手首のリラックスを確保した状態でクリッカーを早く鳴らすことに全力を傾けるべきです。 |
発射台を精度の高い物とするためには、頑丈でなければなりません。それには安定した形とともに骨を軸として、太い筋肉で構成されたフォームでなければなりません。このことの裏返しとして特にグリップとフックにおいてはリラックスが最大不可欠の条件となります。「手首のリラックス」こそがフルドローにおいて最後に作り出されなければならない、もっとも重要なポイントなのです。このためにこれまでのすべてのチェックポイントが存在しています。 |
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「技は力の中に」という言葉があります。近年、多くのアーチャーがテクニックという言葉を良いことに、本来身に付けなければならない基本的な部分をおろそかにしながら、目先の的中を追い求めてきました。しかしどんな高度なテクニックもそれ単独で存在することはないのです。弓を支える力のない初心者にリリースの技術を解くのが無意味なように、優れた技であればあるほどそれを支え発揮する土台を確実に築かなければなりません。 |
フルドローは発射台であり、アーチャーが作り出すものです。後にくる「リリース」という多くのテクニックが語られる動作のために、まず弓を持たずに(弓の力に支配されるのでなく)自分の理想を作りだしてください。すべてはそこから始まります。 |