アーチェリーというどちらかといえば静的なスポーツの中で、唯一動きのある部分がこの「リリース」に代表される動作です。それにこれが弓を「射つ」という行為に直結しているだけに、アーチャー本人だけでなく第三者的に見ても注目を集め、もっとも大切なように扱われます。しかし、実はリリースはこれ以前に作られているのです。リリースは単独で存在する動作ではなく、積み木を積み上げてきたひとつの「過程」、もっと正確にいえばひとつの「経過」にしかすぎません。 |
例えば輪ゴムを両手の指で左右に引っ張ります。その状態でゴムの真ん中にハサミを入れるとどうなるでしょう?
輪ゴムは左右に飛び、両手も同じように左右に弾かれて開きます。これがリリースなのです。ハサミがクリッカーだと思えばよいでしょう。リリースはクリッカーの後に新たな力や技術をもって作られる動作ではなく、それ以前の延長にしかすぎないのです。もし、左手を固定しながら右手だけで輪ゴムを引っ張っていたならどうでしょう。リリースと同時に右手は引っ張っていた方向に解き放されますが、左手は止まったままです。ここで新たな力や方向を手や腕に加えたならどうでしょう。せっかく真っ直ぐに引かれていた輪ゴムは違った方向に弾かれ、その瞬間はぎこちない動きとなってしまいます。アーチャーは弓の張力に対抗してサイトピンを手掛かりに、矢を真っ直ぐにゴールドに向けて引き絞っています。それが正しく積み木を積み上げてきた結果なら、後はその方向に自然に無理なくストリングを解き放してやることを考えればよいのです。それは新しい技術や異なった方向の力などでは決してありません。すべてはそれまでに作られているのです。 |
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リリースには動く距離によって2つの形があります。「デッド(Dead)リリース」と「スライディング(Sliding)リリース」です。前者は1970年代までのおもにグラスリムやダクロンストリングが主流であった時代の技術であり、後者はそれ以降の近代アーチェリーとも呼べるハイテク素材を駆使した弓具が発展しだしてからの技術といえます。数年前の一時期、韓国の女子選手が高得点を記録した時にはそのリリースの距離が短いことから「コンパクト」という形容でデッドリリース復活のようなとらえ方をする傾向がありましたが、それも忘れられたようです。たしかにデッドリリースやそれに近い動きの小さい(距離の短い)リリースは身体のブレを抑え、安定しているように見受けられます。しかし、実際には現在のようにハイテク素材が多用されてくると、昔に比べストリングの返るスピードが極端に高速化しています。極めつけはカーボンアローの使用です。このような状況の中ではデッドリリースは人間の目では認識できないフック(指先)の不安定さを生み出してしまいます。一般に言うリリースの「取られ」や「弾かれ」が見えないところで起こっているということです。引き手がストリングの発射スピードと同等に動くことはもともと不可能です。しかし、より速く逆方向にストリングを解き放すことによって、発射の瞬間のロスを軽減し安定をもたらすのです。このことは今後もリリースのスピードが速くはなっても、昔へ逆戻りすることはないことを意味しています。 |
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