アルミアロー + 鳥羽根 の作り方

 アーチェリーに限ったことではないのですが、強くなりたい、勝ちたい、当てたいと言っても、そこには努力や才能は不可欠なのですが、それだけですべてが満たされるかというとそうでもありません。実はそれ以外に幸運や偶然といった自分だけではどうしようもない出来事も必要になってくるものです。人との出会いなどもそんなひとつです。
 昔、伊吹さんという矢作りの名人と呼ばれる人が某アーチェリーショップにいました。最近では悲しいかな、名人と呼べる技術や誇りを持つ人は見うけられなくなってしまいましたが、昔はそんな職人さんがたくさんこの世界にもいたのです。そして偶然、アーチェリーを始めた時からその名人に矢を作ってもらう幸運にめぐり合いました。当時1970年代はアルミアローの時代であり、ハネもアウトドア用でも鳥羽根からプラバネと呼ばれるプラスチック製のハードベインに移り変わる頃でした。そしてアルミアローも今のようなアルマイト処理されたシャフトが登場する前で、「X7」は錆びませんでしたが「24-SRT」や「Swift」「24-SRT」と呼ばれる矢はアルミの表面が錆びてすぐに真っ黒になるような頃でした。そのため矢を作る時もハネを貼る部分に下地として塩化ビニールやラッカーなどの塗装を施す必要がありました。またそれと合わせて、クレストと呼ばれる模様を名前と一緒に矢に書くこともルールで決められていました。
 そんな頃のアーチャーしか知らないでしょうが、こんな日の丸のクレストがあったのを覚えていますか。クレストはクレストマシンと呼ばれる、シャフトを回転させる機械に矢をセットして細い筆を当てて帯状のリングを何本も書いていくのですが、この画期的(?)な日の丸クレストは伊吹さんが考え出して作ってくれるものでした。アーチェリーを始めたばかりの生意気な高校生は、この矢が欲しくてたまりませんでした。そこで自分も日の丸の矢を作って欲しいと頼むのですが、伊吹さんの答えは「この矢は世界に行く人にしか作らない。弱いアーチャーには作らないよ。」と言うのです。それから日の丸の矢を手に入れるまで、5年が掛かりました。とはいえ、それまで、それ以降も何10ダースという矢を伊吹さんに作ってもらえたことは本当に幸運でした。目に見える飾りではなく、一本一本の矢を完璧に仕上げてくれたのです。お陰で、真っ直ぐな矢も知りました。ノックを真っ直ぐ付けることも、ハネをきれいに貼ることも、当たる矢と外れる矢があることも、市販されているシャフトに当たり前のように良くないシャフトが混ざっていることも、すべて作ってもらった矢から学ぶことができました。

 ということで、久しぶりに当時のようなアルミアローに鳥羽根の矢を作りました。当然、今はインドア用の矢としてですが。
 正直なところ、鳥羽根の矢を自分で作るのは今回が初めてなのです。インドアでしか使わないということで、今回ダメになった古い矢も10年近く前から冬になると物置から持ち出してきては使うという年季の入った矢で、それも誇りを持った人に作ってもらった名品でした。しかし今度だけは、そんな人もいないので自分で作ることにしました。既製品の材料を使ってです。
 シャフトはもっと太くて薄いシャフトもつかえるのですが、やはり使い慣れた名器と呼んでも差し支えないであろう「X7 2014」です。が、昔はノックを付ける側はシャフト自体にテーパーが付けられていたのですが、今入手できるシャフトには「UNI ブッシング」というパーツが最初から装着されていました。その他、多少のこだわりがあるのですが、それは順を追って話します。
 
 下準備から。まずは、カッターナイフでブッシングにノックを付ける位置の印を入れます。多分多くのアーチャーはしないのでしょうが、これをしておけばノックが壊れて付け替える時、試合場でもどこでも、同じ位置に付けられるので便利です。もしノックの位置が違うと、ハネを貼り替える時など、ずれてしまって結局3枚とも貼り替えるはめになってしまいます。カーボンアローの場合は同様にはできませんが、カーボンシャフトに小さな傷を付けるか、ペンで書く方法もあります。
 次にこれもアルミシャフトだからしないというアーチャーが多いようですが、カーボンシャフト同様にアルマイトの表面をサンドペーパーで荒らすことをお奨めします。昔、羽根を貼るためにこの部分を塩化ビニールなどの液に漬けて塗装したのですが、その時でも塗膜の付きをよくするために表面を荒らしました。塗装なしで直接シャフトにハネを貼る場合でも、接着力が全然違います。(アルマイトは硬いので、表面に細かい傷が付く程度を目安に。)
 では、矢作りにかかります。ノックをつけて羽根貼りですが、まずノックを下準備で付けた線(傷)に合わせて取り付けます。ところが今回初めて使うUNI ブッシングなのですが、ノックの挿入が簡単にはできませんでした。予想以上に入れるのが硬かったのです。ちょうどこんな道具を持っていたからよかったのですが、ノックが曲がらないように真っ直ぐ取り付くように注意してノックを挿入してください。またブッシング自体が最初から曲がって付いている場合もあります。必ず挿入後、真っ直ぐ付いていることを点検してください。付けばOKではなく、必ず真っ直ぐに付いていることをチェックしましょう。
 次はいよいよ羽根貼りですが、これもカーボンシャフト同様にアルコールでの脱脂を忘れないでください。ただし、鳥羽根の場合は羽根側の脱脂は不要です。とはいえ、接着部分をあまり触らないように注意しましょう。
 羽根貼りはカーボンシャフトと同じなのですが、実はこれまで鳥羽根を自分で貼らなかったのには理由があります。それは、今回「カットフェザー」と呼ばれる既製品の鳥羽根を手配したのですが、最近のアーチャーの皆さんはこれが鳥羽根の矢と当たり前のように思っているのでしょうが、違います。昔、鳥羽根はほとんどが七面鳥の羽根で、カットフェザーもあることはあったのですが、多くの場合(?)カットしていない大きなフルサイズの羽根(1枚の鳥の羽根を半分に裂いたもの)を希望の長さに切って、それを3枚貼りあげた後で「フェザーカッター」という電熱線を羽根に当てて切る道具で最後に形を仕上げました。だから、これまでは自分でデザインした長さ、大きさ、形のフェザーの矢を作ってもらっていたのです。(電熱線を曲げて自由に羽根の形を作ることができました。) 余談ですが、そんな羽根だからこそ和弓もそうですが、鳥羽根にはカットフェザーを含めて右ピッチ用と左ピッチ用が存在します。一羽の鳥の半分は右ピッチで、半分は左ピッチなのです。だからスピンウイングと同じようにどちらのピッチで貼るかで、使う羽根が異なってきます。
 接着材は「フレッチタイト」を使用しますが、1枚の羽根を貼るのに少なくとも20〜30分は要するので、1ダースを貼るには結構時間(日数)が掛かります。貼りあがったら接着剤で羽根の両端をしっかり止めて、シャフトカットです。羽根を貼る前にカットしても同じなのですが、今回は事情があって、羽根を先に貼りました。
 羽根を貼る時の注意ですが、カーボンアローに貼る時とはシャフトの太さがだいぶ異なるので、シャフトのセンターに直角に、接着面がシャフト表面から極端に浮いたりしないように貼る角度や位置を調整しなおす必要があります。場合によっては試し貼りをした方がいいかもしれません。また、最近のフレッチャーも同じですが、基本的にほとんどのフレッチャーは細いシャフトから太いシャフトまで使用できるように作られています。そのため、神経質なアーチャーは場合によってはシャフトを受ける部分などに工夫をする必要があるかもしれません。
 ところで、このフレッチャー(ビッツェンバーガー社製)も大学生になって初めて購入する時に、伊吹さんが選んでくれた1台です。作りやクリップの精度などを選んで、最後に油まで注してくれたのを覚えています。クリップはバイターノック用に削ったりはしましたが、もう30年以上使っています。
 シャフトをカットした後は、カーボンシャフトであればササクレたりしないように外側をサンドペーパーでバリ取りするのですが、アルミシャフトの場合は外側のバリ取りに加えて、こんな道具で内側のバリ取りを行います。
 ここまでできたら、後はポイントを取り付けて完成なのですが、実は今ある砲弾型のポイントはどうしても納得がいかないので(詳しくは別のページに書いたような・・・)、今は無き屋根型のそれもヘビーポイントを使うために古い矢から取り外して再利用するために、ポイントの装着を後回しにしました。
 ポイントを取り外す場合、カーボンシャフトではシャフト部分を直接加熱することはできないのですが、アルミシャフトの場合は可能です。そんなに温度を上げる必要はありませんが、ポイントから加熱しだしてシャフトを持つ手に熱さを感じない程度が目安です。
 取り外したポイントは洗浄して、再度新しいシャフトに装着するのですが、ここで使う接着剤が問題です。カーボンシャフトの場合はシャフトを直接加熱できない事情から「ホットメルト」が一般的であり、アルミシャフトでもそれを多くのアーチャーが使います。ところが昔、少なくとも日本においては「ゴム系接着剤」(写真の商品以外にも何種類かの黄色い接着剤があります。)が普通に使われていました。その理由は当時フレッチタイトがあまり日本にはなかったのと高価であったこともあるのですが、ゴム系の接着剤を使うのには大きなメリットがあります。値段も強度も使い勝手もホットメルト以上ですが、それに加えて挿入時に加熱の必要がないために、最後の部分で少しずつポイントを回転させて手の上でシャフトを回しては、最もよい位置を決めてポイントを装着できるのです。シャフトも曲がっているものが当然ありますが、ポイントの精度の誤差もあります。それらを一本一本調整しながら、ベストの状態で矢を組み上げることができるのです。できないことはないのでしょうが、最近ではカーボンアローで、そんな職人技を使う人はあまりいないでしょう。
 これで完成です。後は実射で点検すればOKです。インドア競技も昔のように同じ的に何本も射つことはなくなったので、シャフトや羽根を傷めることもほとんどありません。これであと10年はフェザーの矢を作ることもないでしょう。試合の時には名前かイニシャルを書くのもお忘れなく。
 ところで、日の丸クレストを書く方法は秘密ですが、、、ヒントは「セロテープ」です。(^^ゞ

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