ストリングの作り方

 自分でストリングを作ったことがありますか? あるいは、作ろうと思ったことはありますか?
 個人的には多分何百本というストリングをこれまでに作ったことはあるのですが、実は最近ほとんど作ることはありません。その昔、ダクロン繊維のころは出来上がったストリングの音が気になって・・・。そしてケブラー繊維の時代になってからは、週に一本は切れてしまうという必要に追われて・・・。作り続けてきたのですが、特に近年「テクミロン」や「ファーストフライト」「ダイニーマ」などといった超高密度ポリエチレン繊維の登場によって、切れないストリングが当たり前になってしまってからは、本当にストリングを自作するということはほとんどなくなりました。その善し悪し以前に必然性がなくなってしまったのです。
 昔は「ストリング作り」と「ハネ貼り」はトップを目指す(?)アーチャーにとっての必須科目であり、ここから得られる知識も多くありました。そのこと自体は今も変わってはいないのですが、しかしストリング作りだけは「切れない」現実の前でコスト(金と道具)と手間(時間)を考えると、買った方が安いのは事実でしょうし、長い目で見ても初期投資(道具や素材)と満足のいくストリングができるまでの試行錯誤と努力を考えると躊躇してしまいます。
 そこでここでは、一般的であろう超個人的なストリングの作り方を簡単に紹介します。本心はストリングくらい自分で作ってほしいのですが・・・ともかくは超簡単・超低コスト製作術です。

 必要な道具は、当然「素材」としての「原糸」(ストリングとなる繊維)と「サービング糸」(原糸を保護するために上から巻く糸)です。
 これらはストリング一本分として売っているものではないので、糸巻きに巻かれた状態で購入するしかありません。そのため残りがでればコスト的には高いものになるのは当然で、クラブで購入したり知人の物を借用するのも方法でしょう。
 あとは実際にストリングを作るための「道具」です。ここで知識として「ストリングメーカー(ストリングジグ)」などと呼ばれるたいそうな道具を思い浮かべるアーチャーがいるかもしれません。原糸の最初の長さを決めたり、サービングを巻く時に使う、長いレールのようなものにピンが立ててあるだけの道具です。しかし、これこそがクラブの備品として持つのであればともかく、個人では値段もそうですが、それ以上に家に置くには大きすぎる道具です。そこでここではこれを使わない方法でストリングを作ってみます。実際には個人使用のストリングとして考えるなら、これからお話する方法の方が簡単で安く、場所もとらず便利だと思います。そして十分満足のいくストリングが作れるはずです。
 それと「サーバー」と呼ばれる、原糸にサービング糸を巻き付けていく道具は必要です。これにも種類はあるようですが、シンプルで安いもので十分です。
 
 まず、ストリングの長さを決める必要があります。そこで必要なのが、今使っているストリングと金槌と釘が2本。
 わざわざストリングの長さ程度の棒を探してくるのもいいのですが、どこか部屋の中で怒られない釘の打てる場所を探してみてください。そこにストリングのループ間の長さの距離で2ヶ所釘を打ち付けてください。
 この釘の間の長さを「○○○センチ」とかいう人がいますが、実際には目安にしかなりません。なぜなら、同じモデルのリムでも長さが微妙に異なります。また、原糸の材質や太さによっても出来上がりの長さが違ってくるだけでなく、それ以上に最初に原糸を巻き付ける時の強さや、作る人のクセ(コツ)によってストリングの長さは大きく左右されるからです。ともかく一本は試しとして作ってみるしかありません。その結果によって釘の位置を動かします。ただ、短すぎるストリングはどうしようもありませんが、長すぎる分には出来上がった後でねじりを加えれば、1/4インチ程度ストリングハイトを高くすることはできます。
 
 次にこの2本の釘に作りたい太さの分だけ原糸を掛けていきます。
 18本弦(18ストランド)なら9回輪を掛けます。そして原糸を張った状態で、結びたい位置にペンで印を付けます。この位置で正確に結ぶ方法その他は、「ストリングの話」も参考にしてください。ここまでで注意しなければならないのは18本の糸すべてに同じテンション(張力)を掛けるように努力することです。
 最近市販されている原糸はほとんど「Waxed」という、原糸に最初からワックス処理が施されているものです。これは繊維が毛羽立たないという点では良いのですが、巻いた原糸を最後にさばく段になって、糸同士が引っ付き合うのでうまくできないという欠点があります。仕方がないといえばそれまでですが、そのためにも最初9回巻き付ける段階で、それぞれの糸が同じ強さで張られるよう特に注意してください。もしそれができないと、特定の糸にだけ力が掛かり切れ易くなってしまいます。糸を結び終わった後はそれらを簡単にほぐす(修正)程度で、緩みのない均一なストリングができるようにしましょう。
 
 ここまでできたら、後はサービングを巻く作業です。ただ問題はこの大きな束ねた輪にどうやってサービングを巻くかです。本当はここで「ストリングジグ」があると便利ではあるのですが、ないとなれば代用品を使うしかありません。そこで登場するのが「弓」です。それも普通ストリングを張るのとは逆側にストリングを引っ掛けるのです。昔のワンピースボウだと使い易かったのですが、テイクダウンボウになってからは少し使い勝手は悪くなります。それと短めのストリングだといいのですが、多分使用したい弓では少し短すぎて使えないでしょう。そこでこれは誰かに借りるしかありませんが、66インチ用のストリングを作るなら68インチの弓、68インチ用のストリングを作るなら70インチ程度の弓を使用するしかありません。それでも「ストリングジグ」を買うより安くで簡単にできます。
 弓の逆側に、うまくほぐした(均一なテンションの)原糸の輪を掛けます。そしてまず「ループ部分(リムのチップに掛かるところ)」を巻きます。これは原糸の結び目から始めて18センチ程度巻きます。それが出来たら、今度はその巻かれたサービングを片方のチップ部分に持ってきて両端を揃えます。そして逆側のチップ部分にサービングを巻く長さと位置の印を付けます。そしてまた原糸をずらして上下のループ部分のサービングを完成させます。
a+b=9cm
 ここで注意するのは、最近のサービング原糸が結構強度(摩擦に対して)があるかわりに細くなっていることです。サービングを硬く(強く)巻いた時もそうですが、このループ部分が細いと結構弦音が高くなったりします。また、そう心配することはありませんが稀にリムのチップ溝を傷めたり、逆にサービング糸が簡単に切れたり、緩んでくることがあります。そこで好みですが、もう一度上から2重に巻くのも良いでしょう。(サービング糸の種類によっては、3重に巻いて適当な場合もあります。)
 
 次はこれをループ(輪)にします。
 その時、巻いてあるサービングの位置を揃えずに少しずらしておきます。そうすればできあがりで、あまり段ができずにきれいに仕上がります。
 巻き出すのはチップ側(先端)からで、最初のところはしっかりと締め付けるようにします。また、糸の端は結ぶ必要はなく、巻き付けるサービング糸の下に短くても1センチ程度巻きこんでおけば十分です。
 ここで巻く長さはb+c=14cm程度です。
 ループ(輪)の大きさは上リム側はストリングを外す時のために、下リム側より心持ち大きく作ります。リムのモデルによって異なりますが、だいたいa=3~4cm程度(輪の円周はこれの2倍の長さです)で作ってみましょう。
 
 これで上下ができれば、後はセンターサービングを巻いて完成です。
 ストリングを自分で作るということは当然そこから得られる知識や経験もありますが、なによりも大切なのはそこに「安心」が生まれることです。これによって突然切れることはないにしても、試合中にサービングが緩んだり切れたりすることへの不安はなくなるでしょう。あるいはもしそのようなトラブルがあっても対処することが簡単にできます。
 しかし、このような手間をかけても自分の作り方の方が不安だというアーチャーもいるかもしれません。そんな時は市販のストリングを購入するしかありませんが、それらもやはり手作りですから知識を持って吟味するようにしてください。その時に作り方とは別に「長さ」が問題になりますが、もし可能であれば自分の弓に張ってみて、捩らない状態で希望するストリングハイトより1/4インチ程度低いハイトが得られるものを購入するのが良いでしょう。長目のものは短くできますから、数回弓を引いたり弾いたりしてこの程度の長目のストリングを選ぶのが使い易いと思います。

 最後に「超私的」ということで今回の個人的データを付け加えると・・・。
 これまで「ファーストフライト」も「ダイニーマ」も18本弦を使っていたのですが、今回は「ファーストフライト2000」という素材(製品)を使いました。少し原糸の太さが太いため「テクミロン」もそうですが、16本弦で完成時に同等(少し太いかもしれませんが)の太さになります。
 サービング糸も「ファーストフライト Spectra」という新しいものを使い、センターサービングだけはノッキングポイントの接着剤がつき易いのと、好みで昔ながらの「ブローネル」のナイロン製をあえて使い分けました。なお、Spectra はこの後使っていて、雨などで色落ちすることが分かりました。
 長さは68インチのリムなのですが、少しリムが長いのか(市販品とは異なる仕様のため)これまでずっと使っていたストリングではハイトを9インチより低くできなかったため、今回は少し長目のストリングを作りました。できあがりでストリングを約25回ネジって8 3/4インチになる長さで、釘の間隔は「165.3cm」でした。
 ともかくは、非常に気に入ってます。射った感じも満足です。
 
追記: この後、2本目のストリングを作りましたが、16本弦ならループ部分は8本になります。この太さでファーストフライトのサービングを巻くなら、ループ部分に限って3重に巻いても平気です。ループはそれくらいの太さの方がいいかもしれません。チップ部分の保護だけでなく、音も静かになります。
追記の追記: リムを新しいものに代えたところ、ストリングハイトが8インチまで下がってしまいました(リムが少し短くなった)。これを捩って9インチ程度までもっていくのは少し無理があるので、釘の間隔を変えて新しいストリングを作りました。14mm 短くしてちょうど良い長さになりました。
追記の追記の追記:最初に書いた「ストリングメーカー(ストリングジグ)」を使ってみました。(ここも必ず参照してください。)

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