左射ちへの一考察

 先日ウチの学生と合宿をした際、ミーティングの講習会ネタのひとつに、こんなことを聞いてみました。
 まずはこの先を読まずに、考えてみてください。あるいは今パソコンの前でしょうが、ちょっと立ち上がってやってみてください。
 
1)目の前にサッカーボールが転がっています。それを蹴ってみてください。
     右足で蹴りましたか? 左足でしたか?
 
2)では次です。あなたの目の前にシューティングラインとその先に3mラインが引いてあります。これを3m幅の小川だと想像してみてください。ではシューティングラインから下がって、助走を付けてこの小川を飛び越えてみてください。思いっきりです。
     どちらの足で踏み切りましたか? 右足ですか、左足ですか?
 
 これを練習場で学生たちにやらせてみたのです。
1)ボールを右足で蹴る学生31名(91%)。左足で蹴る学生3名(9%)。
2)小川を右足で踏み切る学生15名(44%)。左足で踏み切る学生19名(56%)。
 
 このネタ(テーマ)は、論文の1本や2本は書けるくらいの深い話で、修士論文でお悩みの大学院アーチャーの方にはぜひ取り組んでいただきたいのですが、、、ここでは、少し浅く語ってみます。
 細かいデータはさておき、ボールを蹴るのも小川を飛び越えるのも「同じ足」という学生は14名(41%)。「違う足」の学生は20名(59%)でした。意外ですか? 予想通りですか?
 このボールを蹴る(扱う)のを「技巧」と考え、踏み切るのを「パワー」と考えてみるとどうでしょう。細かい作業をするのと力を発揮するのでは、左右異なることが一般的なことなのです。今回も半分半分に分かれています。このことは、足に限らず腕でも同じです。
 今回このネタを思い立ったのは、先日来この→「アンケート」を設けて、たくさんの皆さんにご協力をいただいていたことがあります。その回答のいくつかが、気になっていました。中でも特に気になっているのが、↓この部分です。
 気になりませんか?  右射ちか左射ちかについては、問い合わせを受けたり、講習会でもよく聞かれることです。そこで学生の回答を基にもう少し語ります。
 34人の学生の中で、「左射ち」は3名います。昔に比べて、本当に左射ちのアーチャーが増えました。ジェイ・バーズとセバスチャン・フルートのお陰です。では、この3名が全員「左利き」かというと、2名は左利きでしたが、1名は右利きなのに左射ちでした。その理由は、高校の時指導者から「マスターアイ」(利き目)が左だから左射ちにさせられたとのことです。
 では逆に、右射ち31名は全員右利きかと思ったら、3名が左利きなのに右で射っていました。その理由は2名がマスターアイが右という理由で、もうひとりが「左用の弓具は値段が高いから」との理由で右射ちをさせられていました。これらの学生は全員、高校の時にアーチェリーを始めた連中でした。
 ここで迂闊にも、先のアンケートの気になる部分が、設問の曖昧さにあることに気付きました。生まれながらの「左利き」5名全員が「お箸」は左手で持つのに、そのうち3名は「鉛筆」は右手で持って右手で字を書いているのです。弁当を食べながらノートも取れるのです。その理由を聞くと、全員が箸は強制しないが字は右手で書かないと紙を汚す、などの理由で親が小さい時からそのように躾けているのです。聞いてみないと分からないものです。
 では最後に、「マスターアイ」に反して射っているアーチャーを聞いてみたところ、34名中4名が左目がマスターアイにもかかわらず、右で射っていました。1名は高校からの経験者でした。
 ということで、あとは研究者の方にお任せするとして、指導者としての個人的考え(指導方法)を述べるなら、「左利き」であっても「マスターアイが左」であったとしても、よほどの何かがない限り「右射ち」を指導します。ここでいう「よほどの何か」とは、右目の視力がマスターアイ云々よりも極端に悪くメガネでの補正も不可能な場合などです。
 その理由は、対象34名でも分かるように、「左右で技巧とパワーは必ずしも一致しない」「マスターアイは後天的に訓練によって変更できる」もそうですが、それ以上の理由があります。
 「イメージ」です。今でこそ左射ちアーチャーは珍しくなくなりましたが、それでも右射ちアーチャーから見て左射ちは違和感を感じます。それは自然に腕組みした腕を逆に組み替えた時程度の違和感かもしれません。しかしアーチェリーは、例えば野球、テニス、サッカー、等などのようにサウスポーによるタクティクス(作戦)やアドバンテージが得られる競技ではありません。それゆえ「イメージ」が不可欠であり、それを駆使することこそが上達の道だからです。左射ちに違和感を感じる以上に、左射ちが左射ちのイメージを組み立てるのは、右射ちが右射ちのイメージを組み立てるよりはるかに難しいことです。
 そんなわけで、合宿の一夜は講習会とともに過ぎていきました。

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