奇妙なルール2004

第116条(服装規定)
1(前略)
 ハーフパンツは、競技者が腕を体側に沿って垂らして指を伸ばしたとき指先より短くてはならない。
 
 アーチャーの憲法ともいうべき「競技規則」に奇妙なルールが登場したのは、個人的思いとしては1997年から日本でも実施されたこの服装規定からです。指先より長い半ズボンです。なぜ「スラックスを着用しなければならない。スラックスは指先より長い物に限る」ではいけないのでしょうか。そして来年2005年には同じ服装規定に、「長袖あるいは半袖シャツ(襟付きが望ましい)の着用が求められる。」という曖昧規定が盛り込まれます。しかし少なくとも良識ある審判から選手がこのカッコ付きの一言によって失格や直接不愉快な思いをさせられることはないと思いますが(切望します)、「望ましい」にどれほどの効力と意味があるのかは、はなはだ奇妙な話です。
 
第205条(リカーブ部門の用具の通則)
10 次の用具は使用することができる。
 アームガード、チェストガード(ドレスシールド)、ボウスリング、ベルトクイーバー、グラウンドクイーバー、タッセル、地上から1cm以下の高さのフットマーカー、リムセーバー、電気または電子によらない風向表示装置(軽いひも状のもの)を用具に付着してもよく、ウエイティングライン後方では電子風向表示装置を使用しても良い。
          (2000〜2001年版 全日本アーチェリー連盟競技規則)
 
 この奇妙さは、世紀末に「リムセーバー」なる商品名(商標)が突然ルールブックに登場することで、一気にアーチェリーの本質へとかかわってきました。そしてこの弓の付属品であるリムセーバーが何たるかは、2004年においても定義されていません。
 
第205条(リカーブ部門の用具の通則)
6 弓に取り付けたスタビライザー(複数)およびTFC(トルクフライトコンペンセーター)(複数)は使用することができる。
 ただし、以下の条件に適合すること。
・弦のガイドにならないこと。
・弓以外のものに触れていないこと。
・シューティングライン上で他の競技者の障害とならないこと。
 
 なぜそれまでのスタビライザーの一種として解釈せずに、アメリカ製の商品名を公式ルールブックに登場させ、放置されているのかが奇妙です。

 FITA(国際アーチェリー連盟)では世界選手権開催のたびに、世界各国の代表が参加する全体会議がもたれます。1990年代に入るまで、そこでは毎回アメリカからコンパウンドボウを認めるべく議題が出されるのですが、いつもヨーロッパ勢の反対にあって却下され続けるという歴史がありました。ところが1995年世界選手権からの正式参加によって、この機械式の弓もやっと市民権を得るに至りました。時代の流れといえばそうなのでしょうが、アメリカを除く多くの国がコンパウンドに違和感を感じたのは、やはりそれが人類誕生の古来から続く弓本来のスタイルとは異なっていたからでしょう。現にオリンピックでコンパウンドボウを認めないのは、それが旧来のアーチェリーとは異なる「ニュースポーツ」としての位置付けを持っているからに他なりません。
 ではそんな機械式の弓や機械式の発射装置は別にして多くの人が頭に浮かべる弓と矢、アーチェリーとはどんなものでしょうか。
 あなたは一般通念および語義に適合した、弓や矢はどのようなものと考えますか?
 実はこれも当然、「競技規則」で規定されています。ところがなぜか最近、これが奇妙なのです。その昔、人類が木の棒に蔓を張って弓を作り出した時から最近まで、それは非常にわかり易くシンプルでした。誰もが頭に思い描くであろう弓矢だったのです。ところが1989年、EASTON社長Jim EastonがFITA会長に就任してからのアーチェリーは変わりました。コンパウンド云々ではなく、弓と矢そのもののカタチが奇妙になってきたのです。
 
第205条(リカーブ部門の用具の通則)
 リカーブ部門では、以下の用具を使用することができる。
1 弓は、ターゲットアーチェリーで使用される弓という一般通念および語義に適合している限りどのような形式のものも使用することができる。
 すなわち、弓は、ハンドル(グリップ)、ライザー(シュートスルータイプは不可)、および両先端にストリングノックが設けられた2本の弾力性のあるリムによって構成される器具である。
 弓は、リムの最先端に設けられた2個のストリングノックの間に、ただ1本の弦を直接掛けるように張って使用し、引くときには、一方の手でハンドル(グリップ)を握り、他方の手の指で弦を引き、保持(ホールドバック)し、リリースする。
 多色に塗り分けたハンドルおよびアッパーリムの内側に商標のある弓は使用することができる。
 
 「2000〜2001年版 全日本アーチェリー連盟競技規則」には、弓をこのように定義していました。
 例えば、ここにある「多色に塗り分けたハンドル」の一文言は、ヤマハが世界で最初に商品化し、FITAにお伺いを立てた時にはルールとしては当初簡単には受け入れられませんでした。多色に色分けされた弓を作り海外の公式戦に持参したのは1980年頃のことです。世界選手権の場合は、弓具検査で確認のうえ認められても、このようにルールの一部で明記されるようになるのは、ヤマハに追随するHOYT社を含め多くのメーカーが出現したからのことであり、リムセーバーのように数年でルール化されたものではありません。
 そこで、先のルールですが、「2002〜2005年版 全日本アーチェリー連盟競技規則」になると、次の文言が加えられます。
 
第205条(リカーブ部門の用具の通則)
 リカーブ部門では、以下の用具を使用することができる。
1 弓は、ターゲットアーチェリーで使用される弓という一般通念および語義に適合している限りどのような形式のものも使用することができる。
 すなわち、弓は、ハンドル(グリップ)、ライザー(シュートスルータイプは不可)、および両先端にストリングノックが設けられた2本の弾力性のあるリムによって構成される器具である。
 弓は、リムの最先端に設けられた2個のストリングノックの間に、ただ1本の弦を直接掛けるように張って使用し、引くときには、一方の手でハンドル(グリップ)を握り、他方の手の指で弦を引き、保持(ホールドバック)し、リリースする。
 ブレース付きのハンドルは使用することができる。ただし、そのブレースは競技者の手または手首に接してはならない。
 多色に塗り分けたハンドルおよびアッパーリムの内側に商標のある弓は使用することができる。
 
 「ブレース」とはHOYT社が1999年頃から発売したAXISというモデルから登場、今はその後継モデルに採用されているHOYT独自のハンドルのアーチ型構造を指します。HOYTにしかないハンドルです。これが商品化された背景は、その前のモデルであるAVALONが折損という重大なクレームを抱え、その改良モデルであるAVALON Plusにおいても問題は改善されなかったという事実があります。仕方なくコンパウンドボウの技術転用という形で開発されたモデルがこれなのです。リカーブボウの必然からではなく、ハンドルの強度、耐久性向上を目的に作られた構造です。
 ここまで言うと、反論される方もいるでしょう。ならば聞きます。この弓が最初の文言、「弓という一般通念および語義に適合」していると思いますか、このハンドル形状が? 
 もし適合するなら、わざわざこんな文言を付け加える必要などないのです。それだけではありません。このハンドルが常識的に認められるとするなら、「シュートスルータイプ」も可とされるべきです。シュートスルータイプを認めても、リカーブボウの場合はフィンガーリリースでは必ずアーチャーズパラドックスが発生するため、カタパルト式レストに代表されるように矢が空間に置かれることはありません。ところが、明確にシュートスルータイプを不可としながら、一方でこのアーチ型を公認したのです。
 こんな一般通念および語義に適合しない弓を作り出す行く末がベアボウ部門でしょう。ベアボウも1980年代まではすべてのアーチェリーの原点として存在し、一般通念で理解できる弓の基本形でした。ところがクッションプランジャーもスタビライザーまでも認めた弓は、本来のBareボウ(裸弓)にはほど遠い姿になってしまいました。あるべき弓の姿がどんどんメーカーの論理によって崩されているのです。ここまでするならリカーブ部門のサイトとクリッカーを認めない部門にすればいいと思うのですが、どう考えても、奇妙な話だらけです。
 2002年、ヤマハがアーチェリーの世界から完全撤退するまでは、リカーブボウの世界ではこの2大メーカーが切磋琢磨することでバランスと向上と常識が存在していました。ところが独占は平気で掟破りを行います、常識も節操もなくです。
 メーカーは決められたルール、与えられた条件で、より高性能、高品質な商品を作り出すのが責任です。しかしそれをルール変更によって責任放棄したり、安易な選択をすることは決して許されることではありません。ヤマハがこのハンドルを作っていたら、たぶんHOYTはクレームを付けたでしょうし、このような文言は盛り込まれなかったはずです。あるいはヤマハが生きていたなら、必ずこのことに異議を申し立てました。FITAもこんな判断や文言化はしなかったと信じます。それ以前に、両メーカーともこんなハンドルは作らなかったはずです。なぜなら、どう見ても一般通念および語義に適合した弓とは思えないからです。
 
 そしてもうひとつ。掟破りは、アーチェリーの根幹をなす得点(的中)そのものにかかわることにも踏み込んできます。
 2000〜2001年版 全日本アーチェリー連盟競技規則
第205条(リカーブ部門の用具の通則)
7 矢は、ターゲットアーチェリーで使用される矢という一般通念および語義に適合している限り、どのような形式のものも使用することができる。
 ただし、標的面またはバッドレスに不当な損傷を与えるものであってはならない。
 シャフトの最大直径は11mm(2001年4月1日以降は9.3mm)を超えてはならない。
(後略)
 
 2004〜2005年版 全日本アーチェリー連盟競技規則
第205条(リカーブ部門の用具の通則)
7 矢は、ターゲットアーチェリーで使用される矢という一般通念および語義に適合している限り、どのような形式のものも使用することができる。
 ただし、標的面またはバッドレスに不当な損傷を与えるものであってはならない。
 シャフトの最大直径は9.3mmを超えてはならない。矢の直径が9.3mmの場合、そのポイントの直径は9.4mmあってもよい。
(後略)
 
 矢の太さを制限するルールができた背景は、1980年代後半に入りインドア競技においてそれまで太くとも21径か22径であったシャフトが高得点を求める結果、23径を超えて巨大化しだしたことがあります。その背景はアルミシャフトを独占生産しているEASTON社が、より肉厚の薄い大口径シャフトを生産しだしたことです。しかし太さ制限自体は、インドア競技の40mmの中心円の大きさとの比較から考えて理解はできます。
 問題はポイントとシャフトの外径が異なることです。
 その昔、アウトドアでもアルミアローの時代。アルミシャフトより大きなポイントを使用することを確認したところ、「不当な損傷を与える」ことを理由に認められませんでした。ジャッジを呼んでオンラインを確認する場面を考えればわかり易いでしょう。ハンティングのようにブロードヘッドを使用すれば当然不当な損傷であり無効ですが、シャフトより大きなポイントを使用することは明らかに「損傷」によって採点判断に影響を及ぼすことは必至です。それを考えれば不当であるかは別にして、長年そうであったように本来ターゲット競技においては、ポイントの外径はシャフトの最大外径を越えるものであってはならないはずです。
 シャフトの外径よりポイントが大きくなったのはカーボンアローの出現からです。しかしそれは1987年のBEMAN社の世界制覇からではありません。実際にはBEMAN以前の1984年、EASTON最初のカーボンアローA/Cからであり、それでも後塵を拝したEASTONが巻き返しを図って投入したACEからそれは恒常化、既成事実化します。
 アルミアローにおける独占企業EASTONも、カーボンアローにおいては後発メーカーでした。そこで付加価値を付けるためと強度向上を目的に、シャフト先端部分にわざわざカーボンクロス繊維を巻き付けました。しかしそれでも不安だったEASTONは、ポイント径を大きくすることでシャフト本体の保護を図ったのです。
 しかし疑問もあります。EASTONはアルミ素材メーカーである優位性を生かして、唯一アルミコアにカーボン繊維を巻き付けたシャフトを供給しています。他社はオールカーボン製の引き抜き製法です。そのため他社がオーバータイプ(被せる形式)のノックに対し、EASTONはピンノックなどの差し込むタイプのノック形式を使えるのです。それを考えれば、本来EASTONこそが簡単にシャフトと同径のポイントを生産供給することができるのです。にもかかわらず、なぜこのアドバンテージを放棄してまでも掟破りをするのか。
 多分その理由は、独占状態における強度と耐久性の不安でしょう。現にアルミコアに巻いたカーボンにカット面から発生するクラック(割れ)を安易に回避したいのです。そして樽型形状という均一の太さでないシャフトの特徴も関係しているでしょう。
 ではそんなひねくれた考えはやめにして、「アーチャーの安全のため」と置き換えたとしましょう。そこで問題になるのはルールの表記方法です。これはたかだか「0.1mm」ポイントが大きいのではないのです。このルールでは6mmのカーボンシャフトに9.3mmのポイントを装着しても、規定上問題はないのです。(1級審判員もそう回答しました。) あるいは0.1mmはOKで、0.2mmは不当な損傷と言うのでしょうか。そんなことはしないと言うかもしれませんが、あなたの手作りポイントやマイナーメーカーのポイントは多分弓具検査で使用を認められないでしょうが、EASTON社製の製品は問題にもならないはずです。今までの経緯がそうであり、現にEASTONの元で弓も矢もこんなに奇妙なカタチに変わってきたのです。
 掟破りはメーカーの研究開発への努力や情熱をそぐ結果へとつながります。ルールに曖昧さや抜け道を残すべきではありません。ましてや公平公正こそがルールの原点です。奇妙なルールは結果的にアーチェリーそのものの発展と向上を遅らせる結果になるのです。
 誰かが声を上げなければなりません。昔はそれをヤマハがやりました。しかし今は全ア連がする時です。そのためにも、アーチャーひとりひとりが言い続けなければならないのです。そうしなければ、アーチェリーそのものがどんどん奇妙になっていってしまいます。
 ところで一番の掟破りは、やはりメーカーのトップが世界連盟のトップになったことではないでしょうか。。。。

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