奇妙でないルール

 森に入って実際に熊や鹿を射つハンティング(狩り)と異なり、我々の競技は決められた距離(その長さが競技者に知らされているか、いないかに関わらず)から標的を射つため、おのずと射つ位置(立つ場所)が決められています。その場所がシューティングラインです。実際にはターゲット競技である全米選手権などでも、それがライン(線)ではなく等間隔に打たれたポスト(点)である場合もありますが、ともかくはそのまたぎ方を知っていますか?!
 
第4部 フィールドアーチェリーラウンド
第109条(行射)
1 各競技者は、シューティングポストを通過し、標的に平行な想像上のラインの後方のそれぞれの行射位置で、立ってまたは膝を着いて可能な限りポストに近づきポストの後方より行射する。(約1mまでの距離なら許可される)
      (全日本アーチェリー連盟競技規則 2004〜2005年)
 
 山の中や平地ではないアップダウンのある地形で競技するフィールド競技では、ラインの後方(少なくともラインまでの長さを確保したうえで)から射つことになっています。とはいえ、距離を伸ばすことは的中を目指すアーチャーにとっては不利なことであり、足場が確保されるなら最短距離から射つのが常識です。そのため一般的な理解としては、右射ちアーチャーの場合、左足の外側をポストに付けて立つと理解すれば分かり易いでしょう。これはフィールドアーチェリーの場合です。
 では平地で行うことを前提とした、ターゲット競技ではどうでしょう。
 この場合、アウトドア、インドアに関わらず、フィールド競技と異なり、シューティングラインをまたぐことが義務付けられています。ラインより前過ぎても、後ろ過ぎても失格なのです。ラインを踏まずに、ラインは両足の間になければなりません。
 
第2部 アウトドアターゲットアーチェリーラウンド
第208条(行射)
3 障害を持つ者を除き、競技者は、起立位置で支持物を用いることなく、シューティングラインをまたいでまたは両足をシューティングライン上に置いて行射しなければならない。
      (全日本アーチェリー連盟競技規則 2004〜2005年)
 
 と、あるのですが、最近のアーチャーには分かりづらい文言があります。「または両足をシューティングライン上に置いて行射しなければならない。」の部分です。一見矛盾するような表現ですが、実はこれはひとりのアーチャーのために作られたルールなのです。1977年当時、ラインをまたぐことは記されていましたが、両足で踏むことは書かれてはいなかったのです。

 3度のターゲット世界選手権と1度の世界フィールド選手権のタイトルを持つ、リック・マッキニーが初めての世界選手権を制覇した1977年以降、このルールは追加されました。
 1960年代には、ハンス・ライトなどのオープンスタンスを特徴とするトップアーチャーがいましたが、マッキニーほどの極端なオープンスタンスをとるアーチャーは存在しなかったのです。
 写真は1979年ベルリン世界選手権ですが、彼は調子が悪いほどオープンをきつくするのです。場合によっては標的面に平行に立ってタイトルを得ることすらあったのです。そんな彼がシューティングラインをまたぐことは不可能でした。その結果、仕方なくルールは変更されたのです。

 この世の中、奇妙なルールが多く存在するのが事実です。しかし、このスタンスのように必然のルール変更もあるのです。競技者の高得点へのあくなき向上心と努力の結果がそうさせるものです。
 与えられたルール、道具の中でより高い目標を目指すことと、ルールや道具の変更によって得点が高まることでは、本質がまったく異なることを忘れてはいけません。1987年のカーボンアローの登場とグランドFITAラウンドの登場から、アーチェリー競技は変わりました。それ以前と今のアーチェリーは、同じ弓を使っても競技が違うのです。

 ところでこれはナイショですが(みんながすれば意味がないので・・・)、初心者にはシューティングラインを身体の真ん中に置いて立つように教え、また多くのアーチャーがそうするのですが、、、、個人的にはいつも右足の内側がラインに触れるように立ちます。
 10数センチ的に近いこともあるのですが、それ以上に一歩前に立つことで前後のアーチャーが視界から消え、的に集中しやすくなるのです。与えられた条件の中でベストを尽くすことこそが大事なのです。ただそれだけのことですが。。。。

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