螺子のこと

 ネジを漢字で書くと、「螺子」「螺旋」「捩子」「捻子」。やっぱり多種多様。
 昔1960年代まで、アーチェリーの弓は木で出来ていました。アーチェリー発祥の地はロビンフッドの故郷、英国ノッテンガム・シャー。そしてアーチェリーはヨーロッパを中心に競技スポーツとして発展しました。にも関わらず、アーチェリーの弓はアメリカで作られ発展し、ほとんどがアメリカから輸出されてきました。そのため、すべて弓具の標準、基準はアメリカが作る結果となったのです。
 このことを如実に表しているのが今の状況でもあります。イギリスとアメリカはすでにヤード・ポンド法を廃止することを決めながらも、かたくなにヤード・ポンド法に固執し続けています。とは言え、アーチェリー競技はメートル法発祥の地フランスを中心にヨーロッパで確立されていったため、競技で射つ距離は、90・70・50・30・18m。的は122cm、80cm とすべてはメートル表示で決められています。FITA のルールブックでも弓具に関する表記はセンチやミリになっています。にも関わらず、実際の弓の長さは68・66・66インチであり、矢の長さは27 1/2インチなどと、すべてインチ表示です。強さもキログラムではなくポンドであり、矢の重さもグレインです。唯一最近ではウエイトの重さぐらいがオンスではなくグラムで話されるようになりましたが、それでもちょっと変わった競技です。(アメリカで生まれた、例えばPAAラウンドなども当初は20ヤードと規定されていましたが、これらの競技に関わる部分は国際ルールに準じて18mにと、メートル法に変更されています。)
 ところが1960年代終盤からの弓具変革とヤマハのアーチェリーへの本格参入は、この流れを大きく変えました。1970年代のテイクダウンボウ登場によって、ハンドルが木から金属に変わることで、それまで木ネジで取り付けられていたサイトバーやエクステンション、そしてクリッカーのネジがタップを立てての金属用ネジに代わりました。それに加えカーボンリムやケブラーストリングの使用は、強度向上のためにそれまでの細いスタビライザーのネジ径を必然的に太く強いものに変えました。それだけではありません。それまで「インチネジ」一辺倒だったアーチェリーの世界に、ヤマハは「ISOネジ」(ミリネジ)を登場させたのです。
 「ISO(一般に「イソ」と読みます)ネジ」は国際標準化機構(International Organization for Standardization)が国際的な規格の標準化として作ったものです。現在、ISOネジこそが世界標準規格です。インチネジに比べてネジのピッチが細かいのが特徴ですが、ともかくはこれによってアーチェリーの道具はインチとミリが混在することになったのです。(1970年代以降、アーチェリーに限らず日本で生産されるすべての製品は、ISOネジを使用することになっています。)
 ネジには様々な種類があり、たくさんの規格が存在します。それらを大別すると「ミリネジ」と「インチネジ」に別けることができます。ミリネジとはメートル法を基準とした規格で、現在ではJIS(日本工業規格)もISOに準拠するため、ISOネジこそがミリネジの代表であり世界基準です。それに対してインチネジはヤード・ポンド法を基準に作られたネジであり、その種類や規格は多種多様です。
 ところで、ネジのサイズを表す時に「ピッチ」と書きましたが、当然ネジなのですからネジには円柱の棒にギザギザが刻んであります。山と谷があるわけです。ピッチとはこの山がどれだけあるかということなのですが、インチネジでは1インチの中にいくつの山があるかで表すのに対して、ISO(ミリ)ネジでは山と山(あるいは谷と谷)の間隔が何ミリあるかで表します。太さ(呼径)については、どちらも山と山の間の直径をインチなりミリで表します。ということで、ミリネジとインチネジは微妙に直径が違うだけでなく、同じ直径のネジであったとしてもピッチが異なれば使用はできません。(ピッチ1のネジを1回転させると、1ミリ移動するということです。)
 
 例えばインチネジをミリネジに換算する
インチネジ
(呼径)
ピッチ
(インチあたりの数)
ミリ換算のピッチ
(山と山の間隔)
ネジの外径
(ミリ)
使用個所 ミリネジ並目との比較
No.4 40 0.653 2.69
〜2.82
クリッカー M3より少し細く、ピッチが粗い。
No.6 32 0.793 3.33
〜3.48
クリッカー
  (PSE)
M5のピッチに近似している。
No.8 32 0.793 3.99
〜4.14
サイトピン
(リカーブ)
M4より少し太くM5のピッチに近似。
No.10 32 0.793 4.61
〜4.80
サイトピン
(コンパウンド)
M5のナットが入る。
No.10 24 1.058 4.61
〜4.80
サイトマウント M5より少し細く、ピッチが粗い。
1/4 20 0.907 6.16
〜6.32
スタビライザー
 ウエイト
M6より少し太く、ピッチは細かい。
5/16 24 1.058 7.72
〜7.90
スタビライザー
プランジャー
M8とほぼ同じ太さで、ピッチは細かい。
インチの呼び径 No.0〜No.12 はサイズをあらわす番号です。
 
 昔1970年代中頃まで、ヤマハはセンタースタビライザーや上下のスタビライザー、そしてカウンターバランスのネジもすべて「M6」を使用していました。M6のMはミリネジを、そして6は直径(外寸)が6ミリのネジであることを表しています。ところがM6では強度的な問題から、1970年代後半にはセンタースタビライザーのサイズを「M8」に変更しました。(その後現在では、上下のスタビライザーもM8に統一されています。) ところがここで注意しなければならないことがあります。ホームセンターに行って、「M6のネジをください。」と言えば、ヤマハのカウンターバランスに取り付けられるネジが手に入ります。ところが、「M8のネジください!」と言って、家に持ち帰ってハンドルに付けようとしても、ダメです。(ちなみに、ホームセンターに行ってインチネジを探しても見つかりません。ミリネジこそが日本と世界の標準仕様であり、インチネジは特殊も特殊なネジだからです。)
 実は国際標準であるISO(ミリ)ネジであっても、ピッチに種類があるのです。一般的で基準となる「並目」に対し、「細(さい)目」と呼ばれる細かいピッチのネジがあります。そしてアーチェリーの場合、この標準の並目ではない細目が使われることがよくあるからです。なぜなら車に使用されるネジなどがそうなのですが、細かいピッチは振動に対して緩み難いという理由から、アーチェリーの仕様に採用されることが多いのです。
 そのため「M6」と言えばM6の並目は「ピッチ1」となっているので、ピッチを言わなくても標準の、そしてアーチェリーに使えるネジが出てくるのですが、「M8」は並目が1.25です。ホームセンターにあるのも、ほとんどがこのネジです。しかしアーチェリーのスタビライザーなどに使われるのは、同じM8であっても、ピッチは細目の「ピッチ1」なのです。ISOネジでも特殊なのです。そのため、M6は良くても、M8でははっきりと「ピッチ1」と指定しなければなりません。(ピッチの指定がない場合は並目を表します。) 実はこのピッチ以外にネジを表す時には、頭の形や大きさ、そしてネジ部分の長さ(首下長)などが示されることがあります。一般にネジサイズは「直径(呼径)×長さ(首下径)」で表記されるからです。ホームセンターなどでも「M6×30」と表示されていることがあります。これはM6ではあってもピッチ30ではありません。M6の並目はピッチ1と決まっているので、あえて表示はされません。30とは首下径を表しているのです。M6のピッチ1で、長さ3センチのネジを指します。
 ところでインチネジはほとんどが分数で表されています。そしてこちらも並目と細目があり、用途により多くの規格が存在します。5/16インチネジもピッチ24は細目です。並目は18です。そんな中でもインチネジ統一の動きもあり、アーチェリーで使われるインチネジはほとんどが「ユニファイ(UNF)」と呼ばれる規格です。
 と言うことで、パソコンの組み立てや車の整備を趣味とされる方は、このインチネジとミリネジに悩まされるのでしょうが(これらもアメリカが主導的地位にあったり、マニアックな仕様があったりするからなのですが。)、ともかくはアーチェリーの世界もこのようなややこしい状況があるのです。
 
 一家に一台とは言いませんが、「ノギス」くらいはいいろいろな寸法を測るのに持っていると便利です。ネジのピッチは「ピッチゲージ」という道具で測ります。
 
 それを分ったうえで、下記を参考にしてください。ただし古いモデルや仕様によってはこれと異なるものがあるので、注意してください。
 

 
 
ヤマハ

Nプロダクツ(西沢)

HOYT
 センター
 スタビライザー
M8
ピッチ1
5/16−24 5/16−24
 プランジャー M8
ピッチ0.75
5/16−24 5/16−24
 サイトマウント M4
ピッチ0.7
M4
ピッチ0.7
3/16−24
 クリッカー M4
ピッチ0.7
M4
ピッチ0.7
4/40

※HOYT エアロテックやアクシスやマトリックは、クリッカーネジが6/32に変更されています。

 
 
スピギャレリ
Explorer
PSE
X-Factor

Rolan
 センター
 スタビライザー
5/16−24 5/16−24 5/16−24
 プランジャー 5/16−24 5/16−24 5/16−24
 サイトマウント M5
ピッチ0.8
(ハンドル・サイトに標準装備)
3/16−24 3/16−24
 クリッカー M3
(ハンドルに標準装備)
6/32 6/32
(Rolan Evolution)
 
 スタビライザー
 ウエイト
M6
ピッチ1
  1/4インチ
ピッチ20
 サイトピン 8/32
(リカーブ用)
M4
(ターゲット用)
10/32
(コンパウンド用)
 
(追記)
 このページをアップした後で、こんな質問をいただきました。
 
 Rolan のサイトマウント用のネジを1つなくしてしまったのでネジの規格を調べていました。残っているネジをピッチゲージで調べると「No.10−24」がぴったりです。このページで表を見てみるとRolan や HOYTのサイトマウントは「3/16−24」となっていますが同じページのインチーミリ換算の表の中ではサイトマウント用は「No.10−24」となっています。手持ちのインチ規格のタップ-ダイスセットに「3/16−24」がなく、インチネジ通販の三和鋲螺でインチネジ規格を見ても「3/16」という規格がありませんでした。ひょっとして「3/16−24」ではなくて「No.10−24」ではないかと思いメイルいたしました。
 
 そこで常連さんに聞いてみたのですが、「インターネットでいろいろと調べましたが3/16W24はブリティッシュ表示、10-24はUSA表示のようです。厳密には微妙に違うようなのですが、3/16と10-24(UNC)では並列になっていますので、同等と考えてよいのかもしれません。」とお教えいただいたのですが、直接「三和鋲螺」さんに聞いていただきました。その結果、、、、
 
 「ご質問ありがとうございます。さて、3/16W24ですがウィット規格のインチねじですね。正確には#10-24と3/16W24は違いますが(山の角度、太さ等)、互換性がありますので#10−24と同じと物と考えて大丈夫です。3/16Wにこだわると、ネジを探すときに材質や頭の形などが限定されてしまいます。」
 
 という回答をいただきました。
 
□ ウイットネジ・・・1841年、イギリスでウイットウォースがネジ山角55度のインチネジを標準化。
□ ユニファイネジ・・・・1864年、セラーズがネジ山角60度のインチネジ(ユニファイネジ)を標準化。
 ウイットネジは1698年に廃止。ISO R263 に規定されている ISインチネジの並目ネジに一致している。
 ということで、多種多様、複雑怪奇ですね。。。。
 
 ありがとうございました。
 なるほど、納得いたしました。さっそくM5のボルトを#10−24のダイスでネジ切りし直したところ、使えました。

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