ちょっとベアボウのこと

 先日、縁あってベアボウの大会を見に行ってきました。これまで世界フィールドなどでベアボウアーチャーの方とはお付き合いはあったのですが、今回は「第1回西日本ベアボウシングル大会」(2004年11月21日 京都アクアリーナ)と言うことで、初めてリカーブのターゲット競技と同じ競技を見せてもらいました。近距離で使用する80cmのターゲットフェイスに50・40・30・20Mの各距離から36射ずつ行います。ベアボウのシングルラウンドです。
 そんな試合を後ろから見ていて思ったのですが、思った以上に矢がキレイに飛んでいるのです。
 「ベアボウ」(Bare Bow)スタイルは、読んで字のごとく裸弓での競技です。昔は Instinctive 部門とも呼ばれ、弓だけでなくアーチャーも本能で的を狙い当てるという、すべてにおいて弓の原点に位置する競技でした。その対極にあるのが「コンパウンド」部門であり、これも昔は Unlimited 部門と呼ばれ、何でもありの当たればよいという競技です。しかしコンパウンドボウが身近な存在になるのは1980年代に入ってからで、正式なFITA(国際アーチェリー連盟)の競技種目に認められてからのことです。コンパウンドは元々アメリカのハンティングの世界から生まれ、その後インドア競技としてターゲットアーチェリーに足場を築きました。しかしそれでもハンティングの延長であるフィールド競技が主でした。しかしそのアメリカの合理主義(?)はヨーロッパの多くのアーチャーには受け入れがたい思想であり、リカーブの前身として長年存在してきたベアボウとコンパウンドの世界の勢力地図を見れば納得するところです。そしてベアボウは、今もなおヨーロッパでは根強い人気を誇っています。
 ではそんなベアボウスタイルとリカーブと呼ばれるスタイルは何が違うのか? なのですが、正直近年その境目がどんどん曖昧になってきています。その政策的意図はともかくとして、これだけは守られるであろう決定的な相違点は「サイトがない」という部分でしょう。テイクダウンは認められ、12.2センチの穴を通るならスタビライザーも認められ、そしてクッションプランジャーも認められるようになったベアボウにおいてクリッカーすら認めそうな勢いですが、それでも裸弓の原点を残すのサイトの有無でしょう。
 ではそんなベアボウで、なぜ矢がキレイに飛ぶのか。クッションプランジャーの使用は大きなアドヴァンテージです。しかしそれだけではないような気がします。12.2センチの穴を通るウエイトスタビライザーが認められているとしても、基本的にリカーブのロッドスタビライザーから比べれば、スタビライザーはないに等しいのです。重量配分やバランスといった部分ではなく、弓の動きを止める目的において、弓は自由に動いてしまうのです。
 「スタビライザー」=安定装置、によってスタビライザーを装着することによって弓も矢も、そして的中までもが安定すると勘違いしているアーチャーが多くいます。あくまでスタビライザーは弓の安定装置であって、それは矢の安定とは決してイコールのものではないのです。逆に、矢に対しては不安定要因にもなり得る可能性があります。
 シューティングマシンのように完璧なシューティングのみを行えるならともかく、生身の人間はいろいろな部分で不安定なシューティングを行います。押し手の動き、引き手の動き、リリースの動き、そしてアーチャーズパラドックスです。これらの不安定要因に対して、弓本体がクッションプランジャーのように逃げて(動いて)くれればいいのですが、実際にはアーチャーは自分は完璧である、あるいは道具は世界チャンピオンと同じといった幻想に取り付かれて、どんどんスタビライザーによって弓の動きを止めていっているのです。特に近年その幻想は強まってきています。
 昔、1970年代初頭まではロッドスタビライザーが登場しても長くても15インチ程度が1本、ダブルスタビライザーであれば10センチが2本付けば長い方でした。今のベアボウ程度です。その時代、まだクッションプランジャーは登場していません。にもかかわらず、矢はキレイに飛び高得点は出ていました。
 その理由は、弓がフリーだったからです。完璧なシューティングを目指すアーチャーにとって自由で自然な動きをする弓は、完璧に動かない弓以上に技術をそのまま的面に表してくれたのです。
 技術も伴わないで長いスタビライザーを流行のように使用することによって、弓は発射時に動き難くはなります。それを支える力も技術もないのは論外ですが、一見使いこなしているように見える弓であっても、それが動かなければアーチャーのミスや誤差は逃げ場がなくなり、結局は矢の動きに跳ね返されるのです。それはそのまま的面に反映されます。特に近年のカーボンアローはそうです。一見うまく射っているように見えても、当たらないのはそこにも原因があるのです。チューニングがし難いのも、スパインが合わないのもそのせいかもしれません。スタビライザーは弓の安定装置であっても、決して矢の安定装置ではないのです。
 そんなに最新の、高価な、世界チャンピオンと同じ道具ばかり使ってばかりいるのでなく、たまにはスタビライザーを外したり、短いものに変えたり、根元を可動状態にしてくれるダンパーを使ったり、と弓の原点に戻ってみてはどうでしょうか。リリーサーのように、機械のように、いつも完璧なリリースができるならともかくですが、、、、その方が矢はキレイに飛んで、もっと当たるかもしれませんよ。と、そんなことを思った一日でした。

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