安定ほど不安定はない

 発射時に起こる、的中精度にもっとも大きな影響を及ぼす弓の不良振動は、3つの動きからできています。それが「トルク」「ピッチング」「ローリング」です。
 
 そこでこれらの動きを止めようと考案されたのが「スタビライザー」です。現在では「棒状」のものを指すのが一般的ですが、直接ハンドル部分に取り付ける「重り」もスタビライザーであることを忘れてはいけません。そしてスタビライザーの目的は「安定」であり「固定」です。

 ひとつの理想形として弓の動きを止め、安定を得ようとするなら、弓の重心位置をアーチャーのグリップの中に置き、発射時、発射後ともに弓は微動だにせず手の中にあることが望まれるはずです。現にVバーなどを使ってそのようなセッティングをすることも可能です(前後左右、すべての方向にバランスをとるということ)。
 しかし、そのようなセッティングをしたアーチャーを見ることは皆無であり、逆に多くのアーチャーに共通するのは、弓が発射後に必ず的方向に倒れることでしょう。前方へのピッチングが起こっています。(コンパウンドボウにおいてこの種のセッティングが行われないのは、ハンドルが極端に重いだけではなく、弓自体がほとんどシューティングマシンに近いものとなっているからです。) それは単に長いセンタースタビライザーがあるためだけではなく、意識的にそのようなセッティングが行われています。
 例えば、鉛筆の尖った方を上にして机の上に立ててみてください。これが安定です。では次に、その尖った先端を指で少しつついてみてください。鉛筆は不安定な状態になり倒れるでしょう。これを何度か繰り返してみてください。鉛筆はそのつど違った方向に倒れるはずです。実は「安定ほど不安定なものはない」のです。それに対して、平らな机の上ではなく、少し傾いた面に鉛筆を立てたならどうでしょう。その時、鉛筆は机の上にあった時よりも不安定ではあるでしょうが、倒れる時は毎回同じ方向に倒れていきます。
 このように理想の安定と結果としての安定は異なります。弓を機械で発射するならともかく、人間が射つ場合は必ず動きやミスが発生します。その時、重心が手の中にあれば弓は手の動きをそのまま反映することになります。ところが、弓に最初からひとつの方向性を与えておけば、もし手が動いたとしても、それとは無関係に弓は毎回一定の方向へと動いてくれるわけです。そこには方向と安定が生まれます。
 どんな弓もスタビライザーもそれらは道具です。そして道具を使うのは人間です。ひとりひとりのアーチャーの射ち方が違えば、当然違ったセッティングや形態のスタビライザーが存在するはずです。あなたはどの動きを止めたいのですか? そしてどの動きは止めたくないのですか?

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