こんなスタビライザー知ってます?

  
 20世紀で最も偉大なるアーチャ― Darrell O. Pace (USA) が1978年インドアシーズンに使用したスタビライザーです。特に1980年、スタビライザーの本数制限(4本以下)が解除されるまで多くのアーチャーによっていろいろな試行錯誤が繰り返されましたが、これはコンピュータ解析によって最もトルクが小さく的中精度が高いと、彼が試作したインドア用のチューニングです。

 今、世の中には多くの形や機能を持ったスタビライザーや弓が存在します。それらは同じ形体であっても微妙に角度や長さ、重さなどのセッティングが異なります。その理由は当然、アーチャー自身の使い勝手であり、信ずるところでもあります。ところがそれに対して「シューティングマシン」と呼ばれる、完全な「機械」でできた発射装置で弓を射つ場合、それがアーチャーの究極の理想であるにもかかわらず、そこにセットされるスタビライザーはまったく異なるものです。
 極端に言えばシューティングマシンにはスタビライザーは不要なのです。スタビライザー(Stabilizer)とはその名のとうり「安定装置」なのですが、大別すると3つの要素に分かれます。ひとつは「発射時」の弓の動きを抑える働きです。弓はトルク、ローリング、ピッチングと呼ばれる3軸にわたる複雑な振動を持ちますが、ともかくはこれらの動きを止めようとするもので、的中精度に最も重要な役目を果たすものです。次に「二次振動」とも呼ばれる、矢の発射後(レストを通過した後)に起こる振動の除去です。これはリムのバタツキや弦音なども含まれます。しかし、すでにお分かりのように二次振動は人間が射つ場合に、その感性や技能をとおして影響を及ぼしうるものであり、機械には無関係の要素です。
 最後は発射前の安定です。微振動の吸収を含め、いかにアーチャーに安定感と高いエイミング精度をもたらすかというものです。狙い易さや扱い易さなどが含まれますが、これも機械には不要です。
 ということは、マシン(機械)にとって唯一必要なスタビライザーの役目は、弓の動きを完全に固定してしまう安定ということになります。しかし、機械的発射装置(リリーサー)でテストするならともかく、アーチャーがフィンガーリリースによって射つことが前提であるなら、弓の完全な固定はアーチャーズパラドックスを阻害し現実的ではありません。現にシューティングマシンのほとんどは弓を固定することなく、シュート後も自然に弓が飛び出すように作ってあります。(スプリングやゴムバンドのような物で弓を留めてあるということですが・・・)
 ではシューティングマシンで弓を射つ時、どのようなスタビライザーが取り付けられているのか? そこには、ほんの軽いセンタースタビライザー1本だけが取り付けるだけで十分なのです。そんな簡単なセッティングの弓でもパーフェクトを記録することができます。実はセンタースタビライザーすら必要としないのですが、ここで使用するセンタースタビライザーは弓を固定するためのものではなく、単に発射時の弓のバタツキを抑え方向性を出すという程度のもので、測定者の扱い勝手を良くするための物と考えれば良いでしょう。余談ですが、コンパウンドボウのほとんどがセンタースタビライザー一本で使用されているのも、これと同様の理由からです。それほどコンパウンド(リリーサー使用)はフィンガーリリースよりマシンに近いのです。
 このように不完全な人間にとっては、それを補うための道具が必要です。いくら完全、完璧な機械でテストを繰り返して出来あがった弓であっても、その時代と人間(アーチャー)に受け入れられるだけの寛容性がなければ意味がありません。また製品として世の中に出て、広く世界で愛用されるには汎用性も不可欠な要素となってくるのです。

 フィーリングや感じといった感覚的な部分は非常に重要です。実際の商品にこの部分が欠落すると、たとえその弓具がデータ的(客観的事実)にいかに優れていようとも、結果的には完成度の低いものとなってしまいます。弓具を使うのは人間です。どんなに優れた弓具でも、それを使うのがアーチャーである限り、人間としての感性や感覚は無視できないのです。
 それはアーチャーと弓具のマッチングということでも言えることです。いくらチャンピオンが使っていようが、性能的に優れたデータを提供しようが、それがアーチャーと一体になれる道具でなければ良い結果は出せないのです。ここにも「相性」が要求されるのす。20数年前にパーフェクトに数点までに迫ったこのスタビライザーが一般化しなかったことも良い例でしょう。
 シューティングラインをまたぐのはあなたとあなたの信頼する道具です。知名度や宣伝、金額に惑わされることなく、自分の信じる弓具を使いましょう。

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