ダンパーとリムセーバー 

 スタビライザー(Stabilizer)とは安定装置であり、一般には棒状のロッドスタビライザーを指します。しかし、単に重り(Weight)をハンドルに取り付けるものであっても、安定装置でありスタビライザーとみなされます。
 ではダンパー(Damper)とは何を指すのか?
 ロッドスタビライザーあるいはウエイトと弓の間に取り付ける「可動式」の道具を一般に「ダンパー」と呼びます。この道具が考えられたのは1960年代後半、HOYT社によってでした。HOYTはその商品名を orque light ompensator からとって「TFC」と呼びました。ねじれて飛ぶのを制御する道具だったのです。しかし、基本的な構造や機能は現在とまったく同じだったのですが、唯一発売から数年間今と違っていたのは可動のための機能を今のようなゴムではなく、「スプリング(バネ)」でおこなっていた点です。これがゴムに替わったのにはコスト軽減に加えて、音の静かさと共に「微振動の吸収効果」が高かったことがあります。当時はまだ長くて8インチ程度、一般には5インチ前後の上下ダブルロッドが使われ、ウエイトも100グラム未満の軽いものでした。このような条件では、スプリングのTFCはエイミング中にはまったく動かずダンパーなしのロッド同様の機能しかありませんでした。違ったのは射った時の大きいショック(振動)を一気に吸収してしまうことで、これによって発射時の弓の安定感は飛躍的に向上しました。しかし、この後出現するエクステンションサイトや高ポンドの弓に対しては、より一層エイミング時の安定が求められるようになっていったのです。(ダンパー単独で使用しても、それはスタビライザーとみなされます。)

 基本的に、ダンパーはスタビライザー本来の「安定」とは逆の効果をもたらす道具です。なぜなら、スタビライザーは弓を動き難くするために取り付けるにもかかわらず、ダンパーはそれを動かしてしまおうというのです。弓の固定だけを考えるなら、ダンパーはマイナス効果しかもたらしません。まずこのことを理解しなければなりません。
 では、なぜアーチャーはダンパーを使うのか? それはダンパーを弓の「ショックアブソーバー」(振動吸収器)と考えるからでしょう。しかしこの時吸収される振動には2種類あることも知っておかなければなりません。
 ひとつは矢が発射される時の、弓の反発にともなう振動です。そしてもうひとつは、矢が発射されるより前の段階であるエイミング時の振動です。しかし多くのアーチャーはこの発射される時の振動が唯一のものと思っています。ところが、発射時の振動においても大きく2つに分けられるのです。ひとつはリリースの瞬間にリムが矢を射ち出すことで起こる大きなショック(振動)です。そしてもうひとつは矢が発射されレスト部分を通過した後の弓のバタツキともいえる二次振動です。このどちらもが実はアーチャーの身体が反応する時間を考慮すれば、矢は弓から完全に離れ空間に存在しています。ということは、これらの振動は弓そのものの性能に問題があって起こったものでなければ、なんら的中精度に影響を及ぼすものではないのです。
 ただし初心者やレベルアップ段階にある中級者にとっては問題があります。例えばその時のショックや大きな音はアーチャーを萎縮させたり驚かすことによって正しいフォームの獲得を難しいものにしたり、間違ったフォームや技術を身につけさせる結果になることがよくあるからです。
 では、もうひとつのエイミング時の振動とは何でしょう?

 例えば、近年この種のセッティングをした弓を多く見かけます。高剛性をうたい文句にしたストレートロッドをフル装備した最新の弓具です。なぜこのようなセッティングが1990年代に入って台頭してきたのか。それはカーボンアローの登場によって頂点を目指すアーチャー達がパーフェクトを意識しだした結果です。ストレートロッドやダンパーレスのスタビライザーはアーチャーがマシンになることを前提に、完璧な弓の固定を目指して考えられたものです。
 しかし、そのような世界の一握りのアーチャーを除いて、人間は震えるのです。まして、緊張感の高まる試合で、クリッカーが長くなり風が吹き、信号が黄色にでもなれば、震えない方がおかしいのです。では、そんな震え(振動)はどこへ行くのでしょう?  どこにも行きません。震えは押し手からグリップを伝わり、そして引き手からストリングを伝わりハンドルへと伝搬し、そこで硬いスタビライザーに逃げ場を遮られた振動はサイトピンへと集まり、あなたのシューティングを精神面を含めた根底から揺り動かします。この時、クリッカーの鳴る瞬間にサイトピンが少しでもゴールドからずれていようものなら、瞬時に身体は反応し弓を動かしサイトピンをゴールドに戻そうとするでしょう。ところが高剛性のスタビライザーで武装した最新の弓は、そう簡単には動きません。その時リリースを取られでもしようものなら、矢のたわみまでもハンドルに跳ね返されてしまいます。結果は知ってのとおりです。あなたが世界のトップアーチャーで、オリンピックの緊張感の中でも速く同じリズムでサイトピンが振るえ出す前に毎回サイトピンをゴールドの真ん中に付けてシューティングできるなら、この種の弓は効果を発揮するでしょう。しかし、そうでないなら、そろそろこんな幻想とは縁を切り、現実的なアーチェリーを始めるべきです。
 アーチャーはマシンでない限りは、震えるのです。サイトピンと弓が完全に静止すると考えるのは大きな錯覚であり幻想です。立位で2kgの重さを持ち、20kgもの物を引っ張っていて動かないはずがないのです。この大前提を見誤るとすべてにおいて間違いを犯します。
 だからこそ的中に大きく影響を及ぼす不良振動吸収に、ダンパーやスタビライザーが必要なのです。

 現実的なアーチェリーにおいて、アーチャーは「射った時の弓の振動」と「エイミング時の微振動」という2つの振動を理解したうえで、その逃げ場(吸収先)として効果のある「ダンパー」を1個でもいいから弓に装着することでしょう。
 特に中級者においては「微振動の吸収」は「弓の安定」(弓の動きを止めるという本来のスタビライザー効果)以上に解決しなければならない最優先課題として考える必要があります。この時、APS(パラボリックスタビライザー)やAPR(パワーロッド)を使えば微振動吸収の効果は弓の安定と共に求めることができます。しかし、それでもレベルの低いアーチャーにとっては不足です。まして一般的なストレートロッドのような剛性の高いスタビライザーでは振動の逃げ場がなくなってしまいます。確かにストレートロッドは一昔前のテーパー(先細り)のかかったセンターロッドよりは揺り戻しなどに対してはその軽減に効果を発揮しますが、振動を吸収することに対しては問題が残ります。そこでダンパーをどこかに取り付けようというわけですが、付けられる場所は当然限られます。
 
1) センターロッドへの装着
   最近この種のセッティングを見かけることはなくなりました。1972年ミュンヘンオリンピックではJ.ウィリアムスがこのセッティングで驚異的世界記録とともにゴールドメダルを獲得しています。しかし、このセッティングが消えていった最大の理由は「シューティング感覚が鈍くなる」ことと、もっともスタビライザーとしての効果(弓の動きを止めることを目的)が高いセンターには「その本来の機能だけを担わせる」との意識が定着したためでしょう。よって、今さらセンターにダンパーを取り付けることはお勧めできません。(試してみると分かるのですが、手の動きとサイトピンの動きにズレを感じるのも問題です。)
 
2) カウンターバランス
   ワンピースボウ(木製)後期からテイクダウンボウ前期の1970年代に流行った、弓の手前側に取り付ける短いウエイトあるいはダンパーを装着したスタビライザーです。弓の安定感が増すことと、発射時の大きいショックやその後のリムのバタツキを一気に吸収してくれる効果を考えると使用するアーチャーが減ったことは非常に残念です。しかし、メーカーもコストダウンとハンドル形状や強度の問題からこの位置に適切な取り付け穴を付けなくなったことも起因しています。ただし、この位置にダンパーを付けてもロッドが1インチ程度と短いため(長くするとストリングが当たって切れてしまいます)安定感ということからいえば、よほど重いウエイトを付けなければその効果は小さいかもしれません。(最近の弓の発射時のショックや、エイミング時の安定感を考えると、この種の効果を持ったスタビライザーについて再考される時期です。)
 
3) アッパーロッド
   この位置にダンパーを付けることは微振動吸収には効果は高いのですが、カウンターバランスのように大きいショックを吸収するにはあまり適しません。ただし、微振動吸収にはある程度の長さのあるロッドを使用したり、ダンパーの硬さを柔らかくする場合に限って有効です。近年一般化したエクステンションロッドを使い水平位置にセットしたVバーでは、アッパーに多くの重量が集中するとエイミング時の安定感が損なわれ、フォロースロー時の押し手の保持が難しくなり期待する効果を求められません。ここにダンパーを取り付けるなら、エクステンションロッドなしのセッティングのアーチャーにお勧めします。(この写真のようなセッティングではよほどダンパーが柔らかくなければ、微振動の吸収には効果を期待できないでしょう。)
 
4)ダンパーウエイト
 最近、この種のダンパーが登場してきました。ロッドの根元ではなく、先端に可動部をもってきたものです。とはいっても新しい方法ではなく、1980年代からヨーロッパの選手を中心に使われていたものが商品化された結果に過ぎません。しかしこれまでの説明でも分かるように、どちらかと言えばこの種のダンパーは射った後の振動吸収を主に考えられたもので、エイミング時の微振動吸収を求めるにはよほど可動部が柔らかくなければならないでしょう。また、その取り付け位置もよく考えなければなりません。  
 
5)リムセーバー
 1990年代最後に登場したのが、リムに直接貼り付けるショックアブソーバーです。発射時の振動吸収には多少の効果はあるでしょうが、エイミング時の振動吸収には効果がないことを理解しておくべきです。また、もともとはコンパウンドボウで使用されていたもので、取り付け位置がハンドルから離れれば離れるほど振動吸収には有効ですが、リムの重量が増えるためそのデメリットも考えながら位置を決める必要があるでしょう。  

 このように考えてくると振動吸収を目的とした時、ダンパーは必要な道具です。しかし、どんな振動を吸収する目的で、どんなスタビライザーを使うのかが重要な問題となったきます。また振動吸収が果たせても、自分にとって使い難い弓になったのでは意味がありません。

 スタビライザーのセッティングはダンパーの有無を含めて十人十色です。
   そこで一般的なスタビライザーで、弓の総重量と慣性モーメントをもっとも少なく、すべての振動吸収をもっとも効率的におこなうセッティングを紹介しましょう。それはやはりVバーにダンパーを取り付けることでしょう。この方法が弓の動きを抑えながらも、もっともサイトピンの震えは小さくなり、弓もおとなしく、矢もきれいに飛ぶはずです。
 ただし、このようにダンパーを付けるなら、高剛性の高価なロッドを使うのはウエイトとしてならともかく、そうでないならナンセンスです。どの位置においてもダンパーはロッドを可動させる目的であり、それが付いていればロッドの剛性は考える必要はないからです。逆に軽い方が良いくらいです。  

copyright (c) 2010 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery