初心者指導マニュアル 3rd End

  Lesson 9
 フルドローでは、「自然に」息を止める。
 初心者も素引きから矢を話す段階になると、初心者なりに弓に馴染みアーチェリーらしくなってきます。一応ローアンカーもでき、フルドローもさまになってきます。ところがこの頃になると、指導者を悩ませる問題が出てきます。一般に「うわずる」と呼ばれる状態で、弓を構えた時に重心が上にいったような格好になるアーチャーが現れます。初心者によく見られる症状ですが、残念なことに即座に治す特効薬はありません。
 では、どうすればいいのか。これに関連する重要な問題を例にとりましょう。「呼吸」です。人間は身体に力を入れる時(例えば、重い荷物を持ち上げるような時)、呼吸は無意識に止めるか、吐き出しているのです。実は息を吸いながら力を出す人はいないのです。弓を引くことも同じです。弓を引く時も息を止めればいいのです。
 例えば、初心者から「フルドローの時、呼吸はどのようにすればいいのでしょうか?」といった質問が出た時は、「アンカーに入ったら息を止めろ。」と答えれば充分です。そして、「エイミングが長くなるようなら、軽く鼻から息を吐け。息を吸わなければならないほど長くなれば、引き戻せ。」と教えればいいのです。
 人間の動作の中には、特に教えられなくても自然にできることがいくつかあるのです。心臓の鼓動をコントロールできないのと同じようなことです。人間が生まれながらに持っている「本能」と言ってもいいかもしれません。だからこそ積極的に教える必要がないのです。
 アーチャーは正しいフォームの獲得を非常に難しい技術のように考えがちです。しかし実際には「シンプル」かつ「簡単」なフォームこそ、アーチェリーの正しい基本射型と言えるのです。キーワードは「自然に」と「真っ直ぐ」です。
 数10ポンドの弓を引いている時、息を吸っていることを想像してください。それは不自然極まりない状態です。「うわずる」のもそのためかもしれません。力を入れている時は、自然に息を止め、自然に真っ直ぐ立つ。たとえ今は「うわずる」という状態であっても、この「自然」と「真っ直ぐ」さえ獲得できれば、自然に解消されることでしょう。
 「うわずる」ことを直そうとする前に、「正しい基本」を教えることが重要です。

 

  Lesson 10
 押し手は「真っ直ぐ」「自然に」。
 グリップは「玉子を手のひらで包み込むように・・・」と先に述べました。では、押し手のヒジはどうすればいいのでしょうか。「真っ直ぐに伸ばす」ことは理解できても、ヒジを「返すか、返さないか」は意見の分かれるところです。
 そこでまず、なぜ押し手(ヒジ)を返す発想が生まれるかですが、ここでも「固定」と「安定」の問題が関係してきます。シューティングの時、押し手が動くとすればそれは肩が真っ直ぐにゴールドに伸びる(突く)動きだけに限られるべきで、押し手はヒジが完全に固定された「一本の棒」にならなければなりません。そして理想は、その棒がリリースされたストリングの通過位置ぎりぎりにあるべきです。
 そこで固定ですが、ヒジはある程度捻転させた方が固定には有利な条件が生まれます。しかもヒジを返すことで、ストリング側の押し手の出っ張りが小さくなり、より平面的なフルドローを作り出すことが可能になります。このように押し手を返すことはさまざまなメリットが生まれます。しかし、初心者に押し手を返すように指導するのは、そう簡単ではありません。一言で「返せ」と言っても、初心者にはその方法が分からないばかりか、ちょっと返すのか思いっきり返すのか、程度の問題も出てきます。無理に返せばグリップや肩がズレたり、反対に返さなければ肩は逃げ易くなりストリングが当たり易く、ヒジが不安定になります。
   
 実は押し手の返し方(位置)にも、「簡単」で「自然」な位置(方法)があります。まず、押し手の親指を背中側にして、手を腰に当てます。次にその手をひっくり返して、親指を前側にします。最後にその手をそのまま真っ直ぐ肩まで上げます。これが押し手を無理なく自然に返した理想の位置です。初心者には弓を持たせる前に、まずこの位置と感覚を覚えさせましょう。

 

  Lesson 11
 チェックポイントは、「的確」かつ「シンプル」に。
 先にフルドロー時に、引いてきたストリングを身体に触らせる場所として、鼻、唇、アゴ、そして胸の4点を挙げました。しかし一般的な初心者指導では、胸を除いた3点が語られることが少なくありません。確かに体型によっては4点とすることが不適切な場合もあります。4点より3点の方が正確性が高まることもあるでしょう。しかしそれは稀なケースであり、ほとんどの初心者指導においては一般のマニュアルに載っているチェックポイントだけでは不十分です。的確なチェックポイントの確認が、上達に不可欠であること再確認してください。
 例えば、「フック」はロープを引いてきた鉤をアゴの下に収める動作ですが、その時の小指の位置に注意を払う指導者はどれくらいいるでしょうか。結論から言えば、フルドローの時「フックの小指は軽く首に触れる」というチェックポイントは重要です。もし小指を伸ばしたままでフルドローに入ると、薬指は緩み易くなります。逆に小指を手の内に絞り込むと薬指に負担がかかり過ぎて、最悪の場合は腱鞘炎などを招く場合があります。しかし軽く小指が首に触れていれば、指全体に適度な緊張が生まれると同時に、最も重要な安定と一定性が獲得できます。
 では、フォロースルーでの引き手の指先はどうでしょう。リリースそのものに注意を払っても、その結果としてのフォロースルーの形には無関心な指導者が多いのも事実です。
 フォロースルーでは、引き手の人差し指(または中指)を必ず「耳の下」に持ってくる(触れさせる)ように指導するべきです。このチェックポイントは、スライディングリリースの終着点として、アンカーポイントからは充分な距離であると同時にさらに重要なことがあります。この位置はフックを身体から離さずに、フルドローで作り出した「平面」のなかに身体と動作をすべて留めておくことができるのです。身体をねじったり、ヒジや指先を平面から外へ出すことなく、そしてアーチャー自身が頭を動かすことなくそれを確認できるポイントなのです。

 

  Lesson 12
 小手先のテクニックに走るより、「大きく」「思い切って」。
 アーチェリーはスポーツです。
 スポーツである以上は、単に得点や順位を競うだけではなく、それをすることによっての「満足感」や「爽快感」が伴わなければ意味がありません。シューティングにおいても、ただ「矢をゴールドに運ぶ」努力をするのではなく、常に「大きく」「思い切って」を基本に取り組むべきです。これは目先や現在の結果ではなく、将来において重要な問題なのです。
 例えば、筋力トレーニングでは大きい太い筋肉から鍛え、徐々に小さい筋肉に移っていくように、シューティングにおいても決して難しいテクニックや小手先の技術から入ってはいけません。大きい太い筋肉を使っての「大きく」「思い切って」射つことからスタートするべきです。まずは「引く」ということや、「射つ」ということをマスターしたうえで、徐々にテクニックの部分へと入っていけば良いのです。
 では初心者に大きく射たせるためにはどうすればいいのか。右利きのアーチャーの場合、エイミングの時弓のハンドルの「左」側からターゲットを見ています。ということは、平面の中で真っ直ぐにシューティングが行われれば、フォロースルーではハンドルはゴールドより「右」にあることになります。(弓が前方に倒れず、そのまま固定されていたと仮定してです。) しかし、これは非常に難しく、初心者には感心できないチェックポイントなのです。
 フルドローでエイミングしているハンドルの位置を、リリース後も完璧に残す(固定する)というのはトップアーチャーであっても非常に難しいことなのです。ましてや感覚を身に付けていない初心者にそれを望むことは酷なことです。
 ではどうするのか。まず初心者にはフォロースルーでハンドルが必ずゴールドより「左」に来ているようにチェックポイントとして教えるのです。これは矛盾しているように思われるかもしれませんが、完璧な位置(フルドローでの位置)に対して「右」か「左」かと問われれば、答えは「左」側なのです。少なくともハンドルが右に動くことは緩むことです。左に動くことは大きく、思い切っての結果なのです。
 初心者に最初から「完璧」や「うまく」「きれいに」を望む必要はありません。それらは「大きく」「思い切って」、そして「力」と「感覚」が身に付き身体が弓に馴染んでからでも決して遅くはないのです。逆に最初から完璧に固執すると、シューティングそのものが小さくなり、新しいテクニックの習得すら難しくなってしまいます。まずは大きく、身体を左右に広げるように射つことを教えてください。

 

  Lesson 13
 「正十字」の基本を確認する。
 弓を射つ(持つ)前に、まずは弓を持たずにやってみる。これは非常に重要なことです。基本を身に付けるなら、まずはシャドーシューティングから練習する。何も持たなくても難しい動作を、重く強い弓を持って初心者ができるはずがないでしょう。
 弓を持たずに「正十字」(基本射型)を行います。@ 肩幅と同じ広さにスタンスをとり、背筋を伸ばして真っ直ぐに立つ。 A 両手を肩の高さまで左右に広げ、平面を作り出す。 B 顔をターゲットと真っ直ぐ向かい合わせ、アゴを軽く引く。 C そのアゴの下に開いていた右手を真っ直ぐ持ってくる。 これがここまで述べてきたアーチェリーの基本です。この動作ができるようになったら、次に弓を引きながら同じことをしてみます。
 この時気を付けなければならないのは、意識(心)を矢と一緒にターゲットに飛ばさないことです。例えば、一見フォロースルーをきちんと残しているようで、実際には頭が動いているアーチャーが多いのです。その原因のほとんどが「心」が残っていないことに起因します。
 弓を持っても、持たなくても同様に @〜C ができれば越したことはありません。しかし初心者にとっては、そう簡単にできるものではありません。そこで @〜C の実行をフォロースルーにおいて、アーチャー自身が確認する方法があります。
 まずは繰り返しになりますが、フォロースルーでは決して頭を動かさないことです。リリースが終わっても、頭をフルドローと同じ位置に固定して、そのうえで(その形で)押し手や引き手の指先を確認します。押し手が一本の棒のように真っ直ぐ的に伸びているか。ハンドルはゴールドの左側にあるか。引き手のロープは緩まずに、その指先は耳の下に来ているか・・・。そして最後に@からCのチェックポイントを逆に確認していきます。
 Cゴールドを見たままで、右手をそのまま開いてみます。リリースは肘の先端で行われていたか。ロープは緩んでいなかったか。リリースは真っ直ぐ後に飛んでいたか。などがこれによって確認できます。次にその両手を開いた状態のままで、B顔をゴールドから目をそらし正面に向けます。そうすると今度はここで、身体が倒れて後傾になっていないか。肩は詰まっていないか。正十字で射っていたか、が簡単に確認できます。そしてそのままで、今度はAそのまま首だけを動かして下を見ます。すると、腰は捩じれていないか、身体の軸は傾いていないかをチェックすることができます。最後に@足元を見ます。これですべてが「真っ直ぐ」「自然に」「平面の中」でシューティングが行われていたかの最終確認となるのです。
 初めはちょっと面倒くさいかもしれません。しかしこの一連の確認動作をアーチャーが自分の意識でできるようになれば、フォロースルーが取れるようになっただけではなく、「意識」をターゲットに飛ばすことなく、「心」をシューティングラインの上に残すことができるようになるのです。

copyright (c) 2010 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery