初心者指導マニュアル 4th End

  Lesson 14
 「使いやすく」「射ちやすく」「基本をマスターしやすい」道具を選ぶ。
 初心者はすべて「白紙の状態」にあるものです。指導者は、そこに新たに絵を描いていくのが役目です。もちろん、その絵は一様なものではありません。初心者ひとりひとりの身体的特徴や筋肉の強さや、素質など、多くの要素を見極めて、さまざまな絵を描いていきます。これは弓具においても、同じことが言えます。そのため、いろいろな強さの弓がある方が、指導者はアーチャーの筋力やフォームにあった適切な指導ができることになります。
 ところが初心者指導において、この最初の段階で行き詰まってしますのも現実です。ポンド数だけでなく、グリップの形状ひとつとっても、上級者用の弓に比べて種類ははるかに少なく、満足も得られません。そして困ったことに、指導者自身もそれらの道具を「初心者用」だからと諦めながら軽視してしまう傾向にあることです。
 しかしどのような環境にあっても、指導者はまず「初心者だからこそ、道具に注意を払う」ことを忘れてはいけません。もし道具の選択範囲が狭いのなら、狭いなりに留意しなければならない点があるはずです。
 それは難しいことではありません。「指導者自身が使って、使い易い道具」であることが重要なポイントです。
 例えば、スタビライザーのセッティングがそうです。初心者用の弓ではスタビライザーなしで、エクステンションサイトだけを使っているのをよく見かけます。これは一見正しい選択のようには見えます。しかし、これでは弓はサイトの重さだけグリップより上部が重くなってしまうのです。
 あなたは自分の弓をこのように、グリップより上を重くしてセッティングしていますか。もしそうしているなら、弓は射った瞬間毎回倒れる方向を変えるでしょうし、フルドローからリリースにかけての不安定感は避けられないはずです。だからこそ中級者以上のアーチャーは無意識を含め、必ずグリップより下に重心を持ってくるように、ハンドルの上より下を重くしているのです。
 上級者が使っても使い難い弓を、白紙の状態の初心者が使って正しいフォームや感覚をマスターできるはずがないのです。
 そんな場合は、エクステンションバーの長さを短くセットし、総重量が例え増えたとしてでもハンドル下部にウエイトを付けることで、エイミング時の安定感は飛躍的に向上し、安心感をと安定感を得ることができます。
 また実際にスタビライザーを取り付ける段階になっても、同じ重さのダブルスタビライザーを上下に2本付けるより、グリップ下部に1本のセンタースタビライザーを付けることを薦めます。その方が総重量が軽く、リリース時には弓が毎回自然にターゲット方向に倒れるため、初心者にははるかに使い易い弓となります。
 このように初心者に使わせる道具は、すべてにおいて「使いやすく」「射ちやすく」「、そして「基本をマスターしやすい」ものでなければなりません。

 

  Lesson 15
 指導で重要なのは「我慢」ではなく、「納得」させること。
 指導の過程において、例えばスタビライザーやクリッカーを「いつ」初心者に使わせるかは、多くの指導者を悩ませる問題です。その結果、確固たる確信もなく、個人の状態を把握することなく、「夏合宿からスタビライザー」とか「300点が出たらクリッカー」的なクラブのしきたりや習慣に流されているのが現状です。あるいは残念なことに、初心者のレベルアップよりも、試合の予定やクラブのスケジュールが重視されるのが実情です。
 指導を受ける者(初心者)は多くの場合、強制に近い状態の中で何の「納得」もなく、単に「我慢」しているのです。しかし、指導とは本来、個人個人の特徴や状態を見極めたうえで行われるべきものであり、それがなければ成果は上がりません。では、指導者は「白紙の状態」にある初心者に対して、どのように「納得」を与えるのか?
 それは、やらせてみればいいのです。初心者がスタビライザーを使ってみたいと言ってきたら、それが例え素引きや近射の時であったとしても、使わせてみればいいのです。そのうえで、「ほら、まだ力が付いていない時にスタビライザーを使うと、肩が詰まるでしょう。」、「まだ基本のフォームが身に付いていないから、カラダがねじれるでしょ。」と話してあげれば、そこに「納得」が生まれるのです。クリッカーにしても、ほとんどの初心者は「先輩が当たるのは、あの一枚の板のお陰だ」と思っています。それなら実際に使わせてみればいいのです。本当にクリッカーが魔法の板であり、それを付けただけで先輩のように当たるものなのかを、スタビライザーと同じように自分で使って体感させればいいのです。その時初めて自分の非力と甘さに気づくはずです。それなのに多くの指導者や先輩は、頭ごなしに「オレが言うのだから間違いない!」「これがわが部の伝統だ!」と一方的に押し付けるのです。これでは何の解決にも上達のステップにもなりません。
 実際に使わせて納得が得られたところで、「これを使いこなすには、左右への伸び合いをしっかりマスターするんだよ。」「単に使えば当たるってもんじゃないだろう。」と教えれば、退屈な素引きや近射にも目標や夢が生まれ、情熱を持って練習に取り組めるようになるのです。
 初心者はまったくの「白紙の状態」にあります。そんな初心者に「納得」を与えるためには、彼らが容易に理解できる「イメージ」や「位置」をわかり易く教えなければなりません。だからこそ、「ここに壁があると思って、リリースを膨らませず、喉を引っ掻くように」「これに当たらないように、真っ直ぐ射つ」「手首は考えず、このポイントがリリースするように」「このポイントが真っ直ぐ的にスライドする感じて」「ここを意識して」「正しい位置はこれで、これが真っ直ぐ」「この手の上に弓を投げるような感じで」等など、何もない空間だからこそ、そこに正しい位置を示して教えるのです。
 初心者に理解できる言葉、イメージを駆使して「納得」を提供するのです。決して強制や無理やりでやらせるものではありません。

 

  Lesson 16
 理解できる方法論とイメージ。
 Lesson10の「押し手の返し方」のように、指導にはチップやテクニックのようなものがあります。
 アンカーの教え方もそうです。指導者はハイアンカーからするのか、ロウアンカーはどうやって教えるのかも悩むものです。そんな時、初心者にはハイアンカーから入るのがいいでしょう。「引いてきた人差し指を、唇の右端につけてごらん。」と言えば、アンカーは簡単に覚えさせることができます。腕で引いてきて、思いっきり引いて、人差し指を唇に付ける。それでハイアンカーは完成です。
 では、ロウアンカーはどうするのか。実はハイアンカーから始めると言っても、ハイアンカーでリリースの練習をしたり、長くこの期間を持つ必要はありません。人差し指を唇に付けるハイアンカーを数回繰り返した後、引き戻さずに引いたままで唇に付いているアンカーをそのまま顎の下に持ってこさせるのです。そうすれば、簡単にロウアンカーもマスターできます。これも数回繰り返したら、後はドローイングでそのまま顎にアンカーを持ってくればそのまま収まるはずです。簡単です。
 ともかく初心者は白紙の状態なのです。そこに絵を書くには指導者のアドバイス(指導)とそれを実行に移すための、アーチャー自身のイメージと意識なのです。

 

  Lesson 17
 矢のチェックやストリングハイトの確認を習慣化する。
 4月にアーチェリーを始めた初心者も夏頃になると、それなりのシューティングができるようになってくるものです。なかには初心者とは思えないようなキレイな射ち方で、先輩の期待を集めるアーチャーもいるでしょう。
 そんなアーチャーに限らず、この時期になると初心者であっても、自然に矢をクイーバーから取り出して考えることなくノックをストリングにつがえるはずです。まさか4月のように、ハネの色や向きを確認し考えながら矢をつがえるアーチャーはいないはずです。これはスタンスにしても同じことが言えます。アーチャーは特に考えることもなくシューティングラインをまたぎ、自分のスタンスを自然に決められるでしょう。
 このように「意識」を持って始めた練習は、繰り返し繰り返し行うことによって「無意識」を生み出します。これが練習の目指すものでもあり、アーチャーにとってプラスに働くことは言うまでもありません。
 では、初心者を卒業したアーチャーの中で、どれほどのアーチャーがストリングハイトやノッキングポイントの位置をゲージで確認しているでしょうか。あるいは矢を的から抜き取るたびに、その矢の曲がりやハネの傷み、ノックの曲がりをチェックするアーチャーは何人いるでしょうか。残念なことに非常に少ないのが現実です。確かに今は新素材の導入や製造技術の進歩によって、温度や湿度などの変化によってストリングハイトが動いたりすることも少なく、矢や弓も壊れ難くはなりました。しかしそうした変化や損傷の可能性がゼロになったわけではありません。そして試合では往々にして弓具のチェックを怠ったがために散々な結果に合うことはよくあることです。アーチャーは技術的なミスはともかくとして、簡単な努力でなくせる道具上のミスはすべて解消するべきです。
 矢やストリングのチェックは、すべて「習慣」の問題です。難しく考える必要はありません。試合の時だけ特別にしようとするからこそ失敗するのであって、毎日の練習の時から習慣付けておけば、いつでもどこでも自然に行えるものです。そしてストリングやハネの変化や傷みも簡単に見つけることができます。
 @ストリングハイト Aノッキングポイント Bティラーハイト Cシャフトの曲がり・傷み Dノックの曲がり Eハネの傷み Fサイト位置 Gレストの傷み Hプランジャーの動作 等など。
 指導者が教えるのは、マニュアルどおりの技術だけではありません。このような些細なアドバイスの積み重ねと繰り返しこそが凡ミスを解消していくと同時に、より高いところへと入っていくきっかけになるのです。

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