僕が他人に教える場合、あるいは自分自身に「何か」をさせるとき。前述の客観的事実であれば、たとえば「引き手で力こぶを作るように、腕全体を背中の方に張って・・・」であったり、「肩を沈める感じで脇を締めて・・・」といった主観的事実に置き換えます。たしかに、そんなやり方では理論的に導き出された客観的事実に、すぐに、そして直接近づけないかもしれません。しかし、考えてほしいのです。「上腕二頭筋を緊張させろ」と言われ、その意味も目的も、そして位置すらも分からずに右往左往するのと、「力こぶを作るようにヒジを張れ」と教えられるのと、どちらがアーチャーにとって理解しやすいかということを。後者であれば、最初は漠然とした感覚であっても、そこに希望と方法が見えてくるはずです。 |
もうひとつ例をあげましょう。まったくの初心者に、初めてリリースをさせる場面を思い浮かべてください。あなたはそのリリースという動作をさせるのに「この筋肉を使って、この骨をこの位置にもってきて・・・」と教えますか?
僕なら、「ジャンケンポンで右手を開いてごらん」と話してあげます。それはアーチェリーを知らない人にとっても簡単にイメージでき、そして身体を動かすことができるアドバイスなのです。 |
このように実際に身体を動かす「主観的事実」とは「・・・・・のように」とか「・・・・の感じで」といった「イメージ」だということがお分かりでしょうか。良い結果や求める理想に近づくためには多くのイメージを駆使し、自分自身の心と身体をコントロールするのです。それは決して初心者だけのものではありません。本当はトップに近づけば近づくほどに、このテクニックを活用しているのです。ただ上級者はこのことをメンタルプラクティスとかイメージトレーニング、あるいはメンタルマネージメントといった難しい言葉に置き換えているにすぎません。 |
これから話していくことは、実際のアーチャーがシューティングライン上で行うべき「何か」に対してのノウハウであると同時に、それを支える最低限の理論であり知識です。「何か」の実践こそがレベルアップの道であり、「理論」と「実際」の一致こそが世界チャンピオンへの条件なのです。 中級者以上のアーチャーなら、レベルアップが練習量やキャリアと正比例しないことや、それがあるとき突然やってくることをすでに知っているはずです。そして「当てたい」「勝ちたい」「ダレルのようになりたい」といった情熱が、レンジへ足を運ぶ原動力とはなっても、具体的なレベルアップの手段でないことも分かっているはずです。 |
明確な目的意識を持ち、正しい理論に裏打ちされた努力する。その勇気と実行こそがレベルアップには不可欠であり、そのための最終決断をするのはあなた自身なのです。 |