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あなたは本当に、エイミングをしていますか? |
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エイミングに必要な道具としてサイトピン(照準点)があります。これは大別して「ピンサイト」と「リングサイト」に分けられますが、まずはダレルも使い一般的でもあるピンサイトから考えてみます。 |
ピンサイトを使用しているアーチャーに聞きますが、エイミングの時、あなたのピンはゴールドに対してどのくらいの大きさに見えているか答えられますか。実は、多くのアーチャーにそれを聞いても、きちんと答えられる人はほとんどいません。もしエイミングに関して少しでも考えたことがあるなら、あるいは本当にエイミングをしているなら、各距離におけるゴールドに対してのピンの大きさが頭に浮かんできてもいいはずです。にもかかわらず、きちんと答えられないというのは、1日何10射、何100射とエイミングし、シュートしていても、実際にはピンを「見て」いないで射っているということなのです。 |
もちろん、実際問題として30m先、場合によっては90m先にあるターゲットと1mほど先にあるサイトピンの2カ所に同時に目の焦点を合わすことは不可能です。なぜなら片方は30m、場合によっては90mも先にあり、もう一方は高々1m先にあるからです。人間の正常な目は安静時においては、遠くの物を知覚できる状態、つまり無限大に焦点が合っていて、近くの物を見る時には毛様体小帯と呼ばれる筋肉の働きによって水晶体(レンズ)の曲率半径(厚み)を変えてそれに対応できるようになっています。焦点が無限大の時は、毛様体小帯は完全に弛緩状態にあり、見る対象が近いものであればあるほど緊張し、水晶体を偏平状態から球体へと膨張させるのです。本を読んだり手紙を書いたりすると目が疲れるのは、そのためです。このことからも、エイミング時にアーチャーがターゲットに焦点を合わせるべきだという理由もお分かりいただけるでしょう。多少ピンの鮮明度を犠牲にしたとしても、これが一般的かつ論理的な方法なのです。 |
ただしそんな状況の中でも、アーチャーはエクステンションバーの長さや、ピンやフードの大きさや色に注意を払うことで、少しでもピンの鮮明度を高める努力をする必要はあります。 |
ダレルは水準器付のドロップピンを愛用しています。フードの内径6ミリ、ピンの直径1ミリで、フード部分だけを自分で白く塗ったものです。ただし水準器といっても、実際にそれを使っているわけではありません。彼がアーチェリーを始めた頃、90mでサイトが低すぎて矢がサイトピンのネジ部分に当たってしまうために、仕方なくこの水準器付きドロップピンを使い出したのが始まりで、以来、彼の水準器にはずっとカバーがしてあります。 |
1980年、ラスベガスシュート。ダレルにおいても、決してサイトピンが完璧に静止(固定)しているわけではない。ただ、ピンがゴールドの中を泳ぎまわりながらも、そこから外に出ることはなく、ゴールドに押し込もうとする流れも止まることはない。 |
ピンの大きさ、フードの大きさと厚さ、そして色、この4つはアーチャーひとりひとりによって異なるのですが、これらがもたらすコンセントレーションへの影響は見逃せません。例えば直接照準には関係のないフードの大きさを変えるだけで、シューティングに何らの変化もないにも関わらず、矢が集まらなくなるということが起こります。ダレルもほんの少し大きなピンを使うだけで集中力が低下すると言い、いつも同じサイズのサイトピンしか使いません。ともかく、エイミングという作業の中には、ピンはターゲットほどにはっきり見えていないのは事実であり、そのことがアーチャーの頭の中でピンの大きさやその存在をぼやけたものとしていることは間違いありません。 |
もうひとつ思い出してみてください。あなたもたまにはミスをすることがあるでしょう。50mで0点を射ったり、30mで青へ飛ぶといった大きなミスです。そんな時、あなたのサイトピンは本当に0点や青にあったでしょうか。多分なかったと思います。クリッカーが落ちた瞬間、ピンがほんの少しゴールドからずれていただけなのに、それが原因でタイミングが合わなくなり、バランスが崩れ、リリースが取られて矢が大きく外れてしまったにすぎません。例えピンがずれていたとしても、普段のシューティングができていれば、矢はゴールドを外れても赤以内には止まったはずです。エイミングの基本とは、単にピンをゴールドに置くだけのことなのです。 |
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最終日、ファイナルラウンド。ダレルは最終回2射目に、2点を射つ大きなミスを犯した。しかし3射目10点に入れ、トータル1点差でマッキニーを振り切り、2年連続6度目のラスベガス優勝を果たした。 |
では、ぼやけているサイトピンをどのようにゴールド置いてやれば、このような精神的なトラブルを防げるのでしょう。それを説明する前にまず、サイトピンとターゲットの視覚上の大きさについて考える必要があります。ダレルの1ミリのサイトピンを例に考えてみましょう。当然、個々のアーチャーによって、エクステンションバーやリーチの長さや視力が違うので一概には言えませんが、50mを例にとれば彼のピンは10点より少し大きくゴールド(9点)の中に見えているはずです。ピンの周りに黄色いリングが見えるといった感じでしょう。ただしダレルといえども、その状態で完全にピンが停止しているわけではありません。 |
スタンス同様に、エイミングの作業に筋肉が関係している以上、ピンが「完全」に停止(固定)することはあり得ません。だからといってピンが止まらなくてもよいというのではありません。では、どの程度の動き(震え)が許されるのでしょう。もう一度50mで考えてみましょう。多くのアーチャーは、直径1ミリのピンの輪郭を完璧に10点の上に重ねて固定しようと考えます。たしかにそれができて、シューティングも完璧であれば矢は10点に行きます。しかし下図からもわかるように、実際にはピンの輪郭がゴールドの中にあれば矢は10点に飛んでいくのです。つまり、アーチャーはゴールド内一杯にピンを泳がせることが可能であり、50mで8点以内で満足するレベルのアーチャーであれば、ピンは赤の中を端から端まで泳ぎまわっても平気だということなのです。 |
そしてダレルに限らず、トップアーチャーは本当に調子の良い時は、この直径わずか1ミリのサイトピンの、そのまた中心を感じてシュートしています。仮にピンがゴールドからはみ出したとしても、ピンの中心位置が外へ出ない限り、不安を感じることはありません。ここまでくると、サイトピンの震えられる範囲というのは想像以上に広いものであり、トップは初心者ほどに神経質でないことがおわかりいただけるでしょう。 |