Chapter  6  Aiming (エイミング)

 フルドローという動作の中には、その外観とは別に実は2つの作業が隠されています。それは「狙うこと」(エイミング)と「クリッカーを鳴らす」ための動作です。そしてこの2つは積み上げられた積み木の上で、同時進行で行われるものです。
 ところがこれまでエイミングに関しては明確な指導法はなく、「しっかり狙え」「サイトピンをゴールドに付けて動かすな」程度のことでした。しかし、残念なことにエイミングはバックテンション同様、マニュアルにはほとんど載っていません。ただ何となく的を狙い、何の問題意識もないままサイトピンをゴールドにつけていたアーチャーがほとんどです。
 しかし無理もないことかもしれません。一般的には、並行して行われるクリッカーを鳴らす動作の方がエイミングより重要と考えられていますし、アーチャー自身の意識もクリッカーを鳴らし、リリースをすることに集中しています。そしてこれは大変重要なことですが、実はエイミングにはテクニックと呼べるほどのものがないのです。もちろん震えの幅を小さくしたり、リリースの瞬間にピンをできるだけゴールドの近くに持ってくるといった努力は必要です。しかし、エイミングの基本としての、「サイトピンをゴールドに置く」こと自体は何ら難しい作業ではなく、スタンスと同じほどに初心者にも簡単にできてしまうことなのです。
エイミングにテクニックはない。 (1979年ラスベガスシュート。2年ぶり5度目の優勝)
 こういってしまうと、「ピンをゴールドに付けるのが怖い」とか「リリースの時ピンがずれてしまう」といった反論が出るかもしれません。しかし、よく考えてほしいのです。これらのトラブルは本来エイミングに含まれる問題ではなく、セルフコントロールやメンタルトレーニングの領域で解決が図られるべきなのです。多くのアーチャーが悩まされる、「うまく射てない」という現実も、的紙を取り外す(エイミングをしない)ことでほとんどの場合解消されてしまいます。例えば、サイトピンをゴールドに付けたままリリースできなくなる「フリージング」と呼ばれるトラブルがあります。これはアーチャーが必要以上にターゲットを意識することが原因で、リリースするべき時に自分の指すら開けられなくなるという、非常に重い症状です。ところがこれなども、的紙を外し、アーチャーの意識からエイミングを排除してやれば簡単に治ってしまいます。このようにシューティング上のトラブルの多くは、エイミングという作業に端を発したメンタルな部分から起こっているのです。
エイミングそのものは単純な動作で、高度なテクニックは必要としません。にもかかわらず、「当てなければならない」「外してはいけない」「勝ちたい」といった状況の中で、アーチャーはなぜか必要以上に神経質になってしまいます。そんなエイミングについて、少し神経質に考えてみましょう。
1980年、ラスベガスシュート。ダレルは、インドア、アウトドアを問わず「ピンサイト」を使用する。
 
あなたは本当に、エイミングをしていますか?
 エイミングに必要な道具としてサイトピン(照準点)があります。これは大別して「ピンサイト」と「リングサイト」に分けられますが、まずはダレルも使い一般的でもあるピンサイトから考えてみます。
 ピンサイトを使用しているアーチャーに聞きますが、エイミングの時、あなたのピンはゴールドに対してどのくらいの大きさに見えているか答えられますか。実は、多くのアーチャーにそれを聞いても、きちんと答えられる人はほとんどいません。もしエイミングに関して少しでも考えたことがあるなら、あるいは本当にエイミングをしているなら、各距離におけるゴールドに対してのピンの大きさが頭に浮かんできてもいいはずです。にもかかわらず、きちんと答えられないというのは、1日何10射、何100射とエイミングし、シュートしていても、実際にはピンを「見て」いないで射っているということなのです。
 もちろん、実際問題として30m先、場合によっては90m先にあるターゲットと1mほど先にあるサイトピンの2カ所に同時に目の焦点を合わすことは不可能です。なぜなら片方は30m、場合によっては90mも先にあり、もう一方は高々1m先にあるからです。人間の正常な目は安静時においては、遠くの物を知覚できる状態、つまり無限大に焦点が合っていて、近くの物を見る時には毛様体小帯と呼ばれる筋肉の働きによって水晶体(レンズ)の曲率半径(厚み)を変えてそれに対応できるようになっています。焦点が無限大の時は、毛様体小帯は完全に弛緩状態にあり、見る対象が近いものであればあるほど緊張し、水晶体を偏平状態から球体へと膨張させるのです。本を読んだり手紙を書いたりすると目が疲れるのは、そのためです。このことからも、エイミング時にアーチャーがターゲットに焦点を合わせるべきだという理由もお分かりいただけるでしょう。多少ピンの鮮明度を犠牲にしたとしても、これが一般的かつ論理的な方法なのです。
 ただしそんな状況の中でも、アーチャーはエクステンションバーの長さや、ピンやフードの大きさや色に注意を払うことで、少しでもピンの鮮明度を高める努力をする必要はあります。
 ダレルは水準器付のドロップピンを愛用しています。フードの内径6ミリ、ピンの直径1ミリで、フード部分だけを自分で白く塗ったものです。ただし水準器といっても、実際にそれを使っているわけではありません。彼がアーチェリーを始めた頃、90mでサイトが低すぎて矢がサイトピンのネジ部分に当たってしまうために、仕方なくこの水準器付きドロップピンを使い出したのが始まりで、以来、彼の水準器にはずっとカバーがしてあります。
1980年、ラスベガスシュート。ダレルにおいても、決してサイトピンが完璧に静止(固定)しているわけではない。ただ、ピンがゴールドの中を泳ぎまわりながらも、そこから外に出ることはなく、ゴールドに押し込もうとする流れも止まることはない。
 ピンの大きさ、フードの大きさと厚さ、そして色、この4つはアーチャーひとりひとりによって異なるのですが、これらがもたらすコンセントレーションへの影響は見逃せません。例えば直接照準には関係のないフードの大きさを変えるだけで、シューティングに何らの変化もないにも関わらず、矢が集まらなくなるということが起こります。ダレルもほんの少し大きなピンを使うだけで集中力が低下すると言い、いつも同じサイズのサイトピンしか使いません。ともかく、エイミングという作業の中には、ピンはターゲットほどにはっきり見えていないのは事実であり、そのことがアーチャーの頭の中でピンの大きさやその存在をぼやけたものとしていることは間違いありません。
 もうひとつ思い出してみてください。あなたもたまにはミスをすることがあるでしょう。50mで0点を射ったり、30mで青へ飛ぶといった大きなミスです。そんな時、あなたのサイトピンは本当に0点や青にあったでしょうか。多分なかったと思います。クリッカーが落ちた瞬間、ピンがほんの少しゴールドからずれていただけなのに、それが原因でタイミングが合わなくなり、バランスが崩れ、リリースが取られて矢が大きく外れてしまったにすぎません。例えピンがずれていたとしても、普段のシューティングができていれば、矢はゴールドを外れても赤以内には止まったはずです。エイミングの基本とは、単にピンをゴールドに置くだけのことなのです。
最終日、ファイナルラウンド。ダレルは最終回2射目に、2点を射つ大きなミスを犯した。しかし3射目10点に入れ、トータル1点差でマッキニーを振り切り、2年連続6度目のラスベガス優勝を果たした。
 では、ぼやけているサイトピンをどのようにゴールド置いてやれば、このような精神的なトラブルを防げるのでしょう。それを説明する前にまず、サイトピンとターゲットの視覚上の大きさについて考える必要があります。ダレルの1ミリのサイトピンを例に考えてみましょう。当然、個々のアーチャーによって、エクステンションバーやリーチの長さや視力が違うので一概には言えませんが、50mを例にとれば彼のピンは10点より少し大きくゴールド(9点)の中に見えているはずです。ピンの周りに黄色いリングが見えるといった感じでしょう。ただしダレルといえども、その状態で完全にピンが停止しているわけではありません。
 スタンス同様に、エイミングの作業に筋肉が関係している以上、ピンが「完全」に停止(固定)することはあり得ません。だからといってピンが止まらなくてもよいというのではありません。では、どの程度の動き(震え)が許されるのでしょう。もう一度50mで考えてみましょう。多くのアーチャーは、直径1ミリのピンの輪郭を完璧に10点の上に重ねて固定しようと考えます。たしかにそれができて、シューティングも完璧であれば矢は10点に行きます。しかし下図からもわかるように、実際にはピンの輪郭がゴールドの中にあれば矢は10点に飛んでいくのです。つまり、アーチャーはゴールド内一杯にピンを泳がせることが可能であり、50mで8点以内で満足するレベルのアーチャーであれば、ピンは赤の中を端から端まで泳ぎまわっても平気だということなのです。
 そしてダレルに限らず、トップアーチャーは本当に調子の良い時は、この直径わずか1ミリのサイトピンの、そのまた中心を感じてシュートしています。仮にピンがゴールドからはみ出したとしても、ピンの中心位置が外へ出ない限り、不安を感じることはありません。ここまでくると、サイトピンの震えられる範囲というのは想像以上に広いものであり、トップは初心者ほどに神経質でないことがおわかりいただけるでしょう。
例えば、10点(直径8cm)がサイトピンで隠れるなら、直径10cmの円が的面を動いていると考えればよい。 ゴールドの中(9点以内)にピンがあるうちは、そのピンの中心は10点の中にあり、完璧なシュートをすれば、矢は10点に飛んでいく。 ということは、9点で満足できるアーチャーであれば、サイトピンは8点の中を端から端まで泳げることができ、7点にピンが出ても矢はゴールドを捕らえることが可能なのです。
 もしエイミングにテクニックがあるなら、それは「メンタル面」でのテクニックでしかないのです。
 
リングサイトは究極のエイミングになりうるか
 では次に、「リングサイト」について考えてみます。最近になってこのサイトが見直されているわけですが、これが一躍脚光を浴びたのは、実は52年ぶりにアーチェリー競技がオリンピックに復活した1972年ミュンヘンオリンピックの時でした。この大会で優勝したジョン・ウィリアムスは明らかに他選手と異なる弓具で現れました。テイクダウンボウ、トリプルスタビライザー、エクステンションバー、そしてリングサイトです。この時彼は90m6射でスコアーボードのトップに位置するや、最後までその座を他の選手に譲ることなく、いとも簡単にゴールドメダルを手中に収めたのです。さすがのダレルも、初回からトップで世界タイトルを手に入れたことはありません。
 その後世界中のアーチャーにその使用を即し、影響を与えたこのサイトも結局は数年で忘れ去られてしまいました。ところが、最近になって再びこのリングサイトが脚光を浴びるようになってきたのは、1987年のグランドFITAラウンドの導入と、それに前後して登場したカーボンアローの進出が影響しています。何人かのアーチャーは、このサイトによってプレッシャーを軽減できると考え出したからです。
 その理由を知る前に、このサイトの使用方法を正しく理解しなければなりません。親指と人指し指で輪(円)を作ってみてください。そしてその輪を通して、何か見たい物を覗いて見てください。その際、見たいと思った物は、輪の中のどこにありますか。輪の隅にありますか。ないはずです。
1972年、ミュンヘンオリンピック(90m)。この時ウィリアムスは、サイトピンを取り外しただけの内径6mmのリングサイトを、長距離(90・70m)と近距離(50・30m)でエクステンションバーの長さを変えることだけで使用していた。
 人間の目の機能には、まったく意識しなくても見たい物を円の中心に持って来る働きがあります。リングサイトの最大のメリットは、実は人間のこの潜在能力なのです。まったく無意識に、それでいて条件によってはピンサイトで狙う以上に正確に対象物を捕らえることができるのです。それもサイトピンをゴールドに止めなければならないといった意識を必要とせずにです。そのため、仮にクリッカーが落ちる瞬間に、エイミングポイントのズレていたとしても、ピンサイトのように直接精神的トラブルに発展することは少ないのです。つまりリングサイトでは、エイミング時にそのリングの中心を探す必要はなく、また決して探してはならず、アーチャーは単にリングの中からゴールドを見ることでコンセントレーションをすればよいのです。
 ではリングサイトは、エイミングにおいて究極の弓具といえるのでしょうか。たしかに、目の生理学的機能からすればそうかもしれませんが、残念なことに欠点も持ち合わせています。
 大きな問題点が2つあります。ひとつはアウトドアの風の強い場面において、エイムオフ(ゴールド以外を狙って矢をゴールドに飛ばす方法)ができない点。カーボンアローの使用により大幅に改善され、またインドア競技においては問題になりませんが、リングの中心を探せないため、ゴールド以外のポイントをゴールドを狙うのと同じ精度で狙い切ることができません。そしてもうひとつ。これも非常に重要な問題ですが、すべての状況、すべての条件に最善の対応ができるリングの大きさや厚さというものが存在しない点です。例えばアウトドア競技においては4つの異なった距離をシュートするわけですが、この時同じリングの大きさ同じエクステンションの長さであれば、そのリング内に占めるゴールドの大きさがそれぞれの距離によって変わってしまいます。また天候(特に明るさ)によっても、その対象物やリング自体の見え方が大きく変化します。このように刻々変化する状況下では、同一のエイミング精度の維持が不可能です。
 ここまで見てきたように、ピン、リング共に長所短所があり、何が良いかは個々のアーチャーが状況に応じて判断するしかありません。現に近年マッキニーやジェイ・バーズをはじめとした数人のチャンピオンが、長年使用してきたピンサイトに替わってリングサイトへのトライを始めているのも事実です。しかし、それらのすべてが功を奏しているわけではありません。やはり現在のように得点がパーフェクトに近付いてくると、いくらプレッシャーが軽減したからといってもリングサイトの持つ短所の解消はやはり大きな問題となってきます。
 さらに注目すべきは、このような状況の中にあってもダレルが一貫してピンサイトを使用している点です。ダレルは感じているのです。1340点を越える記録を出す時、その「狙い切る」という感覚がリングサイトでは得られ難いということを、これまでの経験から知っているのです。
 「狙い切る」というのは、シュートした瞬間に意識の中で完全に10点の中心(ゴールドといった大きい範囲ではなく)が捕らえられている状態のことを言います。それは決して曖昧な感覚ではありません。そしてこの研ぎ澄まされた感覚が、1340点を越えるには必要です。
 少し違う例で説明しましょう。風の強い試合で、エイムオフして矢をゴールドに運ぼうとするとします。この時、レベルの低いアーチャーやあるいはトップであっても調子の悪い時は、例えば「右上の青」とか「左の赤」的なポイントを自分の頭の中に設定して、サイトピンをそこへ移動(エイムオフ)します。しかしこの設定の仕方は、無風でゴールドをエイミングする時に比べて非常に曖昧であることに気付くはずです。もしエイムオフに通常のエイミングと同じ精度を求めようとするなら、「2時の6点」であったり「9時の7点」といった所にまでエイミングポイントが限定されなければならないはずです。そうでなければ、例え矢がターゲットの中央方向に飛んだとしても10点を意識的に捕らえることは困難です。
 1340点を越える時、このような「精度の高いエイミング」が無風の中でも行われているのです。これが「狙い切る」という状態であり、そして世界チャンピオンが強風下であっても高得点を維持し勝利する理由のひとつでもあるのです
 
当てるための条件は実は簡単
 ともかくピンであれリングであれ、それらのサイト(照準器)によってエイミングされた所に矢は飛んで行くのですが、それを踏まえてここでもう一度矢をターゲットの真ん中に飛ばす方法を考えてみましょう。
 とはいえ、アーチェリー競技の場合、たった1本の矢が10点に行けばいいのではなく、勝つためには他の競技者より1本でも多くそれを繰り返す必要があります。それには「毎回」同じ所(べすとはもちろん10点)に矢を運ばなければなりません。この時多くのアーチャーは経験と言い訳を含めて、それを難しいものであるかのように考えてしまっています。確かに毎回それを実行することは簡単ではありません。しかし、そのための基本的条件は単純明快であり、矢を毎回同じ所へ運ぶための最低条件は2つしかありません。@毎回同じ方向を向ける、A毎回同じエネルギーを与える、ただこれだけのことを28インチそこそこの棒(矢)にやってやればいいだけのことです。それができれば、例え基本射形から遥かに離れたフォームであっても、パーフェクトスコアは可能です。
アーチャーは「発射角」ではなく、「照準角」(サイトピン)を手がかりとして、矢を10点に的中させようとしている。(1973年、全米選手権70m。ジョン・ウィリアムスとダレル・ペイス)
 それぞれの条件についてみてみましょう。まず、@の条件ですが、この28インチの棒は発射(リリース)される瞬間とその直前(フルドロー)にはどんな状態にあるでしょう。これはダレルであっても初心者でもまったく同じで、2つの点でのみ支えられています。1カ所は「レスト」、もう1カ所は「ノッキングポイント」です。この2点の上に乗っています。この状態で、「同じ方向を向ける」には当然、不動の押し手や固定されたアンカーといったフォーム面での安定は不可欠ですが、その前に@の「方向」であれば、それはやはり「エイミング」によってもたらされます。
 本来、矢の方向性は発射角で決まるものですが(客観的事実)、実際にはアーチャーは主観的事実としてシューティングライン上でサイトピンを手掛かりとした照準角(エイミング)によって矢の方向付けを行っています。いくら完璧なシュートをしても、サイトピンがゴールドになければ矢は外れてしまいます。さらに言うなら、サイトピンがゴールドにあると思っていても(主観的事実)、実際にそれがゴールドから外れていれば(客観的事実)、矢は当然のことながら外れてしまうのです。これはアーチャーが主観的事実に頼らざるを得ない弱さでもあるのですが、その主観的事実を客観的事実に近づける作業にも、エイミングにおけるレベルアップ隠されています。
 ここでもうひとつ注意する点があります。それは現在、競技においてはダブルサイト(照準点を2つ以上取り付けること)が禁止されている現実です。これがルール化された1969年以前、アマチュアアーチャーは当時のプロアーチャーや現在のコンパウンドアーチャーのように、ピープサイト(ストリングに取り付ける覗き穴)やアイマーク(ストリングに取り付ける印)を使用していました。これは現在、その使用が認められるプロやコンパウンドのほとんどすべてのアーチャーががピープサイトを使用している事実からも、2点照準がいかに精度の高い手段であるかが理解できると同時に、我々が今使用しているシングルサイトが照準器としては初歩的な道具であることも認めなくてはなりません。
 ストリングの素材がダクロン、ケブラー、ポリエチレンと変化してきても、ダレルはいつも黒色のストリングしか使わないのも、この事実と関連しています。現行のルールの中では「ストリングサイト」(エイミング時に目の前にあるストリングを照準点として使う方法)までが、ルールに抵触することなく使用出来るダブルサイトなのです。白や黄色のストリングではそれが見え難く、黒のストリングこそが、ストリングサイトそして最も見易いというわけです。
 とはいえ、ストリングサイトがいくら2点照準であるとはいっても、所詮は現行ルール内でのアイデアにすぎません。サイトピンよりも近く、目の前2〜センチにあるストリングを鮮明に見ることは不可能です。また、ストリングに焦点を合わせる必要もありません。必要なのは、はっきりと見えないなりに無意識の中で感じながら、必ず一定の場所に合わせることです。
 では、どの位置にストリングサイトを合わせてやるかですが、まずストリングを視界の中で置く方向が問題です。あなたはストリングの右側からエイミングしていますか、それとも左側ですか。日本人の80%か、それ以上のアーチャーはフルドローの時、ストリングの右側からゴールドを見ています。それに対して、アメリカのほとんどのアーチャーが左側から狙っています。ダレルもストリングの左側からのエイミングです。理由は日米それぞれの指導マニュアルには、日本は「右から狙え」、アメリカは「左から狙え」と書いてあるからという単純なものです。したがって、どちらがベストということはありません。一度試してみればいいでしょうが、あえて言うなら右から見た場合はエイミング時の安定感が多少高まる代わりに、ドローイングの流れが止まるような感じが少しあるかもしれません。左から見た場合はこの逆で、流れがスムーズになる代わりに、安定感が多少損なわれる感じがします。
 しかし、これらはあくまで感覚的なものであり、違和感がなくフィーリングが良い方を選べばよいでしょう。繰り返しになりますが重要なのは、ストリングが毎回同じ位置にくるようにすることと、そのためにストリングは合わせやすい場所に置くようにすることです。サイトピンの右側に置く場合は、ハンドルのウインド部分、左側の場合はハンドルの左側サイドに合わせるのがよいでしょう。ストリングがピンやフードに重なったり、あるいは逆にハンドルから遠く離れた位置に来ることは避けなければなりませんが、ともかくは、毎回同じ位置にさえきていれば、あまり神経質になる必要はありません。
1980年、ラスベガスシュート。ダレルはいつも黒いストリングを使い、その左側からサイトピンを見ている。そして平面の中でシュートしたあとは、ゴールドより左にハンドルを置く。それは「大きく」射つことへの、ひとつのチェックポイントでもある。

copyright (c) 2010 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery