空間を埋めるには必ず音が必要 |
これまで話してきたことは、すべてビジュアルな目で見える現象です。「この積み木はこの場所に、このように置いて」、といったチェックポイントの確認です。しかし、実際のシューティングでは、ドローイングでも述べたように、これらのチェックポイントとチェックポイントの間には空間が存在しています。ここに重要な要素が隠されています。 |
例えば自分のリリースのスピードを速く、鋭くしたいと思った時どうすればいいでしょう。当然、肘を後ろに抜くスピードを意識的に速く、力強いものとするでしょうし、その努力は必要です。このような意識がひいては無意識を生み出すわけですから、怠るわけにはいきません。ただし注意しなければならないのは、多くのアーチャーが自分の努力の結果を目先の点数で判断してしまうことです。今リリースを直すことが将来的に好結果をもたらすとは分かっていながらも、現時点で矢がゴールドを外すことを嫌がるのです。 |
しかし意識的にフォームを変えたなら、矢が飛んでいく場所が変わるのは当たり前の結果です。たとえそれがゴールド以外であっても、まずその場所に矢を集めて、次にサイトを動かせば矢はそれまでより小さいグルーピングでゴールドに集まります。「何か」をする時、それまでと感覚やサイト位置が異なるのは当然であり、決して目先の結果だけで判断するべきではありません。 |
ではフォームを改善する時、具体的にどのようにして自分自身の身体を動かしてやればいいのでしょう。まずしなければならないのは、ビジュアルの部分からです。必ず自分のやりたいこと(目指すシューティングフォーム)を頭の中に描きます。自分を写したビデオを見るように自分自身に目指す動作をさせるのです。最初からそれが難しければまず目指す、あるいは理想とする人のフォームを思い出すのです。ダレルのように射ちたければ、頭の中で何度も何度もダレルにシュートさせるのです。自分の身体を動かすのは「イメージ」です。しっかりしたイメージがあれば、理想のフォームを身に付けるのは、そう難しいことではありません。メンタルプラクティスやイメージトレーニングのの重要性はここにあるのです。 |
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1977年、キャンベラ世界選手権(50m)。セットアップから始まる流れやコンセントレーションをターゲット上に止めてしまうのでなく、「意識の中のターゲット」はいつも現実のターゲットより遠くに置き、それを狙い「射ち切る」イメージが必要。 |
現在では長すぎるエイミング(あるいはフルドロー)が好結果を導き出さないことは、誰もが知り、経験していることです。それは筋肉疲労といった身体的マイナス面だけでなく、精神的マイナス面が大きく作用します。簡単な例では、エイミング中に「外れるんじゃないか?!」といった疑問や不安が一瞬でも頭を過れば、それだけでミスを犯してしまいます。不思議なことにもっと具体的に「リリースが引っ掛かる」とか「左下の青に飛ぶ」と思えば、不思議にそれが現実になってしまいます。だからこそ、このようなマイナス要因は絶対考えるべきではなく、考える余地を与えないためにインターバルをも含めて速くシュート(エイミングを短く)することが主流となったのです。 |
ただし、速く射つだけでは不十分です。外れると思って外れたのなら、その裏返しとして一生懸命「当たること」を頭と心の中で考える必要があります。リリースが矢の延長線をなぞって真っ直ぐ耳の下までくる。そして、矢は真っ直ぐに10点に吸い込まれていく、その画面を頭の中で繰り返し繰り返し見るのです。 |
次にしなければならないのが、「音」のイメージです。あなたはシュートする時、自分のリリースにどんな音を感じていますか。「シュッ!」ですか「パッ!」ですか、それとも「ビュン!」ですか。僕自身、自分のリリースに感じ、理想とする音は「ズンッ!」です。そして僕がダレルのリリースにイメージする音は、「ガシン!」です。ではそれがどんな音であっても、今度はあなたがリリースをするたびに頭の中で「ボワ〜ン」「ボワ〜ン」と呟いてみるとどうでしょう。するとどうなるかは、実際にレンジに行かなくても想像がつくはずです。リリースは徐々にそのスピードを遅くしていき、最後にはクリッカーと同時に指先を弾いてしまうようになるはずです。 |
では、その遅くなったリリースを再び、速く鋭いリリースに戻すにはどうすればいいのか。それにも「音」を使います。今度は「シュン」「シュン」と思ってリリースを切れば、徐々にリリースは速くなっていくはずです。 |
分かりますか、イメージこそが、リラックスを損なわず身体を動かす手段であるということが。そしてイメージは単にビジュアルだけでなく、そこに音が重なってより効果的に働くということです。では、なぜ理想は「ズンッ!」や「ガシン!」なのか。それらの音には、「速さ」と「鋭さ」に加えてリリースをより安定したものにしてくれる、「重さ」があるからです。 |