最初のフィルムベイン

 最近、「スピンウイング」や「カーリーベイン」といった昔ながらの矢のイメージからは程遠い形状の、フィルム製で表面がカールしているハネが増えています。しかし、今でこそ一般的になったこれらの原点となるハネがあったことを知るアーチャーは少ないでしょう。
 1975年、これこそがスピンウイングの出発点であり、それまでのプラスチック(ハード)ベインやビニール製などのソフトベインに新たなフィルム製のハネが加わったのです。それだけではなく、このフィルムベインはそれまでの3枚バネや4枚バネではなく、折り曲げられた2枚バネでした。スピンウイングが現在の3枚バネになったのは、1981年です。
 当時このハネはダレル・ペイスのデザートインクラシック(現在のラスベガスシュート)圧勝でデヴューを飾りました。しかし、それがインドアであったことと、その後アウトドアでの使用があまりなかったことから、飛躍的に広がるということはありませんでした。ところが1981年のプンターラ世界選手権において再びペイスによって使われ、同点の2位に甘んじたものの、その後の普及は目を見張るものがありました。
 しかしこのような形状が現在にいたっても、100%の支持を得られないのには理由があります。
 このビデオを見たことがありますか。EASTON社が作った、ジェイ・バーズをモデルにした1988年のプロモーションビデオです。そして当時最新であったコダック社のハイスピードカメラを駆使して作られたものです。
 このビデオは人間が通常目で見ることができない矢の動きを見せてくれるということで、非常に意味のある映像です。スピンウイングが変形しながら飛ぶ様子や、アーチャーズパラドックス、そして矢の回転がはっきりと認識できます。しかし、よく注意してみると多くの新しい発見があります。
 特に我々アーチャーに関係するのがスピンウイングの回転の凄さ(?)です。確かにスピンウイングの形状はそれまでのハネに較べて矢の回転数を大きく増やしました。矢の回転が増えることはコマの原理(ジャイロ効果)によって安定を増します。しかし、一般に矢の回転数は1秒間に7回転が必要十分条件と言われています。いくら安定が増すと言っても、それ以上の回転数は空気抵抗を増すことになり逆に矢の失速や不安定な挙動を生み出してしまいます。
 普通の3枚バネの矢であればレスト部分をハネが通過する時でも矢の回転はまだほとんど始まらず、つがえた状態の角度で通過していきます。だからこそコックフェザーをレストとは逆向きにつがえます。ところがスピンウイングはノックがストリングから離れた瞬間(ストリングハイトから約2インチ前後的方向にいった位置)から回転が始まりハネがレスト部分にさしかかった時には、すでに45°から90°程度の変化が起こっているのです。このことは非常に重要な問題せす。
 スピンウイングは静かな所で射っていると、ハネがレストに当たっているとその音が聞き取れます。毎回同じハネが剥がれたり、キズがあるのを発見した時はノックの角度に少しひねりを付けたり、逆につがえて(バイターノックはできませんが)射ってみてください。レストでのトラブルを解消する有効な手段となります。実はこのビデオのパッケージの写真もそうなのですが、矢の動きを理解する多くのトップアーチャーは本来正しいとされる矢のつがえ方とはまったく逆(あるいはそれに近い状態)にスピンウイングの矢をつがえているのです。
 近年、小さいサイズのスピンウイングが追加されたり、ピッチを付けずに張ることを薦めたりするようになったのもそのためなのです。また硬めの素材や最初の形に似たものが登場してきたのも、スピンウイングが持つ欠点を少しでも解消しようとするための方法なのです。(普通の3枚バネでも射ち方によっては回転が大きくかかる場合もあります。その時はつがえる角度を考えてみましょう。)

 スピンウイングは回転の発想自体が、それまでの伝統的なハネとはまったく異なるのです。しかしその形状としての特異性ではなく、フィルムとしての素材の特殊性にも意味はあります。特にスピンウイングが台頭した1980年代は、アルミアローによって的中の限界を極めようとしていた時代です。そんな時、よりトップヘビーの矢にするためにポイント重量を増加させることは、矢の総重量の増加と同じ意味を持ちました。それを回避するために、逆にノック側を軽量化するためにフィルムという軽い素材が必要だったのです。だからこそ1980年代には、マイロベインと呼ばれる伝統的なハネの形状でありながらも素材をフィルムとしたハネが登場しています。このマイロベインは今世紀もっとも長く破られないであろうと思われた、50m世界記録345点を1982年スポーツフェスティバル西部地区予選においてリック・マッキニーが2114 XX75に貼って樹立しています。(この記録が破られるのは1990年代に入って、カーボンアローによってです。)
 このようにスピンウイング=フィルムではなく、スピンウイングとフィルムそれぞれの特徴を理解したうえでハネの選択はなされなければなりません。

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