大口径カーボンアロー

 インドア競技において「大口径」シャフトは絶対に有利です。特に上級者やパーフェクトを狙うアーチャーになればなるほど、不可欠な道具です。そんなアーチャーなら280点台の得点だとしても、30射の中にはオンラインタッチまで1ミリで救われた矢が2本や3本は必ずあるはずです。そのレベルの選手なら、インドア競技では1点で順位を分けます。だからトップになればなるほど、大口径シャフトは使わなければいけません。270点台なら必要はないかもしれませんが。
 しかし単純に「大口径」が使えるわけではありません。スパインの問題があります。太い矢は当然硬くなります。そこで太い矢を使おうとすれば、同じポンドの弓ならシャフトの「肉厚」を薄くしてやらなければなりません。例えば、「ACE520」=「X10 500」→アルミ「1916」→「2014」→「2113」→「2212」→「2311」のようにです。それでも、スパインは少しずつ「硬め」にはなっていきます。スタビライザーの剛性も同じですが、硬さに対しては肉厚よりも外径(口径・直径)の方が効いてきます。しかしそれはさておき、大口径になればなるほど薄い肉厚のシャフトになっていくのは仕方がないことです。
 ここまでは「アルミシャフト」の話です。そしてなぜか、近年大口径の「カーボンシャフト」それも「オールカーボンシャフト」が流行っています。流行りだとは思うのですが、ともかくなぜかそれを使うアーチャーが増えています。では、例えば「インドア」に限定した場合(たった18mで、風も吹かなければ、雨も降らないという限られた条件)、カーボンがアルミに勝ることがあるでしょうか? 思いつきません。もしあるとするなら唯一、剛性、振動吸収性を含めた「復元力」の強さ(速さ)でしょうか。18m、速く飛ばす必要もなければ、低く飛ばす必要もありません。安定こそがインドアにおいては重要です。そんな中で18mでより速くアーチャーズパラドックスを解消(吸収)し、蛇行運動から直線運動により速く矢を持っていくことがカーボンシャフトでできるというのなら、それは大きなメリットです。唯一カーボン素材の特性として、それは可能かもしれません。しかしそれが得点向上に寄与できるのがどれほどかは知りません。
 話は違いますが、例えば40ポンドのリムを思い出してください。それがウッドコアであろうと最新のフォームコアであろうと、みんなコア(芯材)にカーボンなりグラスが貼ってあるのです。ではもしコアなしの、カーボンファイバーだけのリムを作ったらどうなると思いますか。カーボンの品質や繊維の向きにもよりますが、リムの厚さは2ミリ程度になるでしょう。皆さんが知っている40ポンドのリムを芯材なしで作れば、100ポンドは越えてしまいます。カーボン素材とはそういうものなのです。
 では話を戻して、2311のアルミシャフトと同じ外径、同じ肉厚のオールカーボンシャフトを作ったとすれば、スタビライザーのように硬い矢ができあがってしまいます。100ポンドのコンパウンドで象を射ちに行くのならいいのですが、コンパウンドでも最大60ポンドで、たったの18mです。
 
 最近、流行っているだけに、試合で大口径カーボンアローが折れるのをよく見かけませんか?!
 メーカーやモデル、価格にかかわらず、真っ二つに折れるのです。確かに素材や品質が悪いこともないとはいいません。しかし、原因はもっと違うところにあります。
 インドア競技において、使用できる矢の外径は最大で「9.3ミリ=23径」までです。先にも書いたようにアルミと同じカーボンシャフトなら硬くなりすぎます。当然、もっと肉厚を薄くするしかありません。ところが、こんな疑問を持ったことはありませんか。流行っている大口径オールカーボンアローですが、異なるスパインなのに、すべて同じポイントが使えることを不思議に思いませんか。異なる硬さ(スパイン)なのに、同じ外径、同じ肉厚のシャフトだということを意味しています。アルミなら同じサイズは同じ硬さです。当然のことですが。
 ここをよく読んでください。特にオレンジジュースの話を。矢もスタビライザーもリムも同じことなのです。同じ寸法で柔らかくするには、繊維のグレードを落とすか、繊維の量を減らすしかないのです。中身が違うのです。柔らかいスパインの矢になればなるほど、カーボン繊維のグレードも下がりますが、それ以上に繊維の量が減って、それに変わってそれを固める樹脂の量が増えていきます。もちろん重くもなりますが、薄いのですから、割れやすく、折れやすくなって当然です。シャフトが悪いとは言いません。限られた寸法でカーボン繊維(CFRP)を使うのですから、仕方がないぎりぎりのところで設計しています。正直、これはメーカークレームの範疇ではありません。
 にもかかわらず、です。にもかかわらず、アーチャーは硬めのそんなシャフトを無理矢理飛ばします。18mでアーチャーズパラドックスが解消しなければ、的面に矢は横を向いて減速しない状態で突き刺さります。一部のコンパウンドアーチャーは、アウトドアと同じレスト(あるいはノッキングポイント)位置でインドアも射ちます。当然、縦ゆれも加わります。アルミシャフトやアウトドア用の肉厚のあるカーボンシャフトならまだしも、厚さも中身も薄いカーボンシャフトにはちょっと過酷過ぎる条件ではないでしょうか。(1スポットに2本以上を射ち込んで、シャフト同士がヒットすることも避けなければなりません。外観からわからないクラックができていれば、もっと強度は低下します。)だから折れるのです。カーボンだから曲がってはきません。的面で挿入されたポイントの端、あるいは畳の表面を支点に、CFRPが一気に座屈を起こします。
 選択肢は多い方がいいでしょう。メリットがあるのかもしれません。カーボンの感覚が合うアーチャーもいるでしょう。使えばいいと思います。ただし、性質を理解したうえで、自分に合った矢を選び、ちゃんとチューニングして使いましょう。それとインドアに限らず、矢は消耗品です。それもお忘れなく。

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