有弓休暇(14)

 プロセレクトアローのメーカーでもある「AVIA SPORT COMPOSITES INC.」社長、Kurt Degenerに会いに、ノースキャロライナ州シャーロットまで行ってきました。日本ではあまり知られていませんが、AVIA社は高精度、高品質なアーチェリー用オールカーボンシャフトの生産においては、世界一の企業なのです。
 いつものことながら、確約がとれないままホテルもレンタカーも手配せず、飛行機の時間だけを伝えての不安だらけの訪問でしたが、Kurt 自ら空港まで迎えに来てくれていました。実は彼とはもう10年以上の付き合いであり、友人なのですが、会うのはこれが初めてでした。突然、会いたくなったのです。
 彼は空港から北西に車で約1時間。ヒッコリーという町に、2匹の由緒正しきシュナウザー(ツゥードルとリカという名前で、ミニチュアではありません。)と500のメルセデス、8気筒のクアトロと一緒に住んでいました。そうです、彼は生まれもアイデンティティーも、根っからのドイツ人のドイツ系アメリカ人です。(奥さんはちょうどミネソタに行っていました。)
 AVIA社を語る時、その前身である「AFC」についても語らなければなりません。AFC社のEXACTAというオールカーボンアローを知るアーチャーは、結構年配の方です。1989年、ダレル・ペイスが来日し、ヤマハカップでシュートした時に使っていたのがそれです。その後ヤマハが日本の総代理店となり1990年から販売を開始しましたが、価格や仕様面での問題から、いつの間にか忘れ去られます。
 彼がAFCと関係を持つのは1987年のことです。1970年代、ヤマハ発動機のアメリカ現地法人に勤務し、スノーモビルの設計やテストに従事していました。(そんな関係で、北海道をはじめとして日本にも何度か来ています。) そしてヤマハを辞めた彼は、BMW社などでセールスをしていたのですが、1987年にAFC社長から電話があり、これを機にAFCに移ることになるのです。

 AFC自体はすでにシャフト作りのノウハウも実績も十分に持っていたのですが、ここで彼が行ったのがアーチェリーシャフトの品質向上とコストダウンのために「スポーツカイト」(凧)の分野に新たに参入することでした。これが成功し1992年、Kurt はAVIA社を興し独立します。(AFCは現在もファイバーグラスの分野で存続しているとのことです。) その後縁あってプロセレクトアローをテストすることになり、それを送ってきたことから彼との付き合いが始まりました。
 
 アーチェリーの歴史を考える時、カーボンアローの登場は、例えば人類が始めて空を飛んだり(ノースキャロライナ州はライト兄弟がそれに成功した地で、ナンバープレートにはすべてそのことが記されています。)、プロペラ機の時代にジェット機が現れたのと同じくらいのインパクトを持つ出来事です。ルール、道具、技術、記録すべてを刷新しました。しかしその第一歩は、歴史的大事件から幕を開けたのです。
 EASTON社100%ともいえる寡占状態のアロー業界、そしてアルミアロー100%の世界に突然、EASTONでないメーカーが殴り込みをかけたのです。1983年にEASTONが投入したA/C(現在のACEの原型になるアルミカーボンアロー)は商品化したものの撤退。その後、こんな大革命が起こるとはEASTONすら、予想だにしていなかったのです。ところが1989年世界選手権、突然世界新記録を更新し、EASTONを完膚なきまでに打ちのめす道具が出現したのです。それがフランス製オールカーボンアロー「BEMAN」です。その後の快進撃とEASTON社の狼狽ぶりは、ただ事ではありませんでした。結局、技術とノウハウに後れをとったEASTON社は、資金力に物を言わせBEMAN社を買収することで体裁を繕うのです。(現在BEMANは、ハンティング用アローのチープなブランドとして位置付けられています。)
 この先は日本にいるとあまり見えてこないのですが(その理由は日本の市場の特殊性です。ハンティングも3Dもない、ターゲット競技のFITAしかない日本です。この分野はアメリカでは全体の10%に遥かに満たない小さな市場なのですが、日本ではそれが100%です。)、今回聞いた話によるとEASTON社のオールカーボンアローに対する誹謗中傷、デマ宣伝はひどかったようです。精度が悪く、危険であるというたぐいの話です。EASTON社は過去も現在もアルミの専業メーカーであるがゆえに、シャフトにおいてもアルミコアにこだわらなければならない運命なのです。正直、日本のような特殊な島国に住んでいるとわからないのですが、アメリカ国内では業界人だけでなく多くの選手が、EASTON社(というより、本当はジム・イーストン個人のやり方や考えに対し)を嫌っているのが現実です。
 少し話がそれましたが、このような流れの中でAVIA社はプロセレクトブランドのみならず、多くのOEM(他社ブランド)生産を含め、一貫してオールカーボンシャフトを作り続けてきています。その秘密が、先の「スポーツカイト」なのです。
 実は現在のAVIA社の生産と売り上げの約80%を占めるのは、航空産業と自動社産業に対するカーボン素材の供給です。残りがスポーツカイトや玩具、ホビーといった分野であり、実はアーチェリーシャフトは全体の10%にも満たないのです。これらは、全世界に輸出されています。そしてこれらの高品質カーボン素材の基となるカーボン繊維は、もちろん日本製です。

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