有弓休暇(17)

 昔、世界選手権に何度も出ました。そんな時、射つことも、当たることも怖くはないのです。何が怖いといって、4日間の極限の緊張の中で、夜眠れないことが怖いのです。毎晩、よくビールを飲みました。宿舎のバーで飲んでいると、知り合いの選手たちがよく心配してくれたものです。
 
 それはさておき、第46回学生王座決定戦に選手と一緒に「つま恋」まで行ってきました。よく頑張ってくれました。初参加で3位です。金曜日に現地に入ったのですが、夕食の後「飲もぅーぜ!」ということになったのですが、「ドーピング検査があるから・・・」というのです。。。
 それもさておき、2日目の夜、懐かしい連中にいっぱい会って、それはそれは楽しい時を過ごしました。一番のショックは、慶應の監督の佐藤さんに会ってしまったことです。1971年、大雨の三ツ沢競技場の全日本で一緒に射っていたらしいのですが、そんなことは知りません。唯一、頭の中の佐藤さんは、あの高柳さんの「アーチェリー」(講談社)の中に登場する青年しかなかったのです。あれから40年近くが経っているのです。会ってもわからないのは当然ですが、、、会わなきゃよかった・・・。と、そんなこんなで学習院の池田さんにも20数年ぶりで会って、伊藤さんや川西さんや懐かしい人にいっぱい会えました。よく飲みました。
 ところで、たしかに王座の要項には「競技会におけるドーピング検査に関する注意事項」が含まれています。その中には、「5.アーチェリー競技では体内にアルコールが残留した状態で競技を行うことはドーピング行為と見なされます。」と、全日学連委員長名で書かれています。
 その基になっているのが、「全日本アーチェリー連盟競技規則」の中にある「アンチ・ドーピング規則」第5条3項の1「アルコール検査:アルコールはドーピング物質である。アルコールは競技期間中および競技前に摂取してはならない。」です。
 同様の文面や話は他の競技会でも最近は見受けます。ところが残念なことに、この規定の詳細や実態が丁寧に説明されていないことが多くの間違いや疑心暗鬼を生み出しています。そして体協や「JADA」(日本アンチ・ドーピング機構)の啓蒙活動が思ったほどに浸透普及しないのは、このあたりにも原因があるのではないでしょうか。
 これは決してドーピングを容認したり、ドーピング検査に意義を申し立てるものではありません。アーチャーは「アルコール」がシューティングライン上の自分に精神集中を与えたり、極度の緊張を緩和してくれるものとは思っていません。誰もアルコールがアーチェリー競技に有効な薬物とは考えてはいません。そしてすべての選手が世界記録を目指して競技に来るのでないことも現実です。最高のパフォーマンスのため、最高の楽しい時間のためにアルコールが精神のビタミン剤になることもあるのです。そのためにも、もっと選手は勉強する必要があるでしょうし、実施する側ももっと説明を行うべきです。
 
 そんなわけで今回、競技終了後のドーピング検査において「JADA」認定の「DCO」(Doping Control Medical Officer)のドクター(JADAから正式にドーピング検査を委託された医師)の方とお話しする機会がありました。そこでちょっと、「アルコール」と「ドーピング検査」についてです。
 アーチェリー競技に限らず、すべての競技で行われるドーピング検査は「尿採取」による尿検体の検査です。血液採取は特別な場合に限られます。では尿採取がいつ行われるかですが、競技会に関連して行う「競技会検査」(In-Competition Testing; ICT)の場合は、あくまで選手のパフォーマンスや競技進行を妨げないかたちで競技が終了した後で、選ばれた検査対象者に行われます。試合開始前や前日に行われることはありません。(アーチェリー競技における「アルコール」の禁止は、「競技外検査(OOCT)」には含まれていません。)
 しかし、実は尿の検査の中に「アルコール」(エタノール)検査は含まれていないのです。では「アルコール」はどこで検査するのか。例えば「カフェイン」は2004年から禁止物質から外され「監視プログラム」(これは禁止物質ではないが、誤用されやすいものとしてモニターされている物質ということです。)に変更されています。ところが「アルコール」は、他の競技においては、「監視プログラム」にも該当しないのです。「アルコール」をドーピング対象物質としているのは、「FITA」(世界アーチェリー連盟)の規程によるところなのです。「FITA」の決定事項を受けて、「WADA」(世界アンチドーイング機構 :World Anti-Doping Agency)が禁止物質としてリストに載せているのでしょう。そのため、体協やJOCのホームページを見ても、「アルコール」に関する記載はありません。そのため仮に陽性になった場合でも、アルコール検査の結果は「WADA」には送られません。アーチェリーの場合は全ア連を通してFITAに送られるのです。あくまでもアーチェリー競技特有のルールのひとつであり、服装規定同様にアルコールが競技に与える影響や科学的根拠が示されていないのも事実です。ちなみに2006年の「WADA」のリストによると、「アルコール」を「禁止物質」としているのは、「FITA」以外では「近代五種の射撃」や「空手」「航空スポーツ」「自動車」などの競技団体です。
 そしてこれも勘違いする点ですが、アルコールの検査は尿採取ではなく、別個の「呼気検査」で行われます。この検査は、スピード違反の検問で運転手が検査器に息を吐きかけるのとまったく同じ原理、方法です。尿検査や血液検査の厳格さは感じません。もちろん個人差も存在します。ただし、その基準値は検問の約3倍程度とのことでした。しかしだからといって、カフェテリアから出てきたところを、突然学連の役員が旗を振ってどこかに連れ込むということは決してありません。
 そこで、前日夜中までとても楽しい時間を昔の仲間たちと過ごしたのですが、ドクターにお願いして検査器を吹かせてもらいました。検査器は市販品とのことで、検体を正規の機関に持ち込むわけでもありません。選手と同じ方法で、その場で結果はでます。測定値は「0」でした。
 アルコールではなく、「お酒」は使い方を間違わなければ百薬の長です。わけもわからず「ドーピング」や「アルコール」という言葉に翻弄されるのではなく、最高のパフォーマンスと最高の時間のためにもっと有効にお酒を呑みませんか。それがたとえ、試合前日であったとしてもです。
 楽しい時間を、ありがとうございました。
 

 (追記) この↑文章は別にして、ドーピングに関する内容については、先のドクターに確認、アドバイスをいただいて記載したものです。なお参考として、下記の情報もいただきました。これらの内容はアーチャーが調べようと思っても簡単ではありません。だからこそ、お互いこれらの情報を分かり易く公開共有し、正しく理解することこそが、より良い競技成績とアンチドーピングの理解を得るものと確信します。
 ところで、あなたは「全日本アーチェリー連盟競技規則」を持っていますか。もしアーチャーなら、同じルールで競う前提として、ぜひご一読ください。
 
>アルコールの違反閾値と検査について、アーチェリーの競技規則やWADAのリストには違反閾値が血中濃度で示されています。実際にはアルコール検査のために採血検査は行ないませんので他の方法で計測することになります。その方法が呼気検査です。

アーチェリー連盟競技規則の中のドーピングの項(5.3.2.4)に、呼気検査が血中アルコール濃度相当で0.1パーミル(千分の一)を超えた場合を違反である旨が記載されています。

0.1パーミル(千分率)はパーセント(百分率)に換算すると0.01%です。

呼気濃度と血中濃度について関係は、

   呼気中アルコール濃度(mg/リットル) = 5 x 血中アルコール濃度(%表示)

ですから、よって競技規則にうたわれている違反閾値である血中濃度0.1パーミルは呼気中濃度でいうと

   0.05mg/リットル(呼気中違反閾値濃度)= 0.01×5 (血中濃度の5倍)

ということになります。今回用いた測定器も表示はmg/リットルでしたので選手への検査時の説明もこの単位を用いて説明しています。ちなみに酒気帯びの基準は血中濃度0.03%で呼気中濃度でいえば5倍して0.15mg/リットルになります。つまりアーチェリーは道交法でいう酒気帯びの3倍きびしい条件です。

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