Chapter 5 フォロースルー(Follow Through)

 アーチェリーは「フォロースルー」で射ちます。フォロースルーは日本語では「残身」と書きますが、「残心」と書くこともあります。残身がなければ残心はなく、残心のない残身ではフォロースル―の意味がありません。
 多くのアーチャーは弓を射つことを、その瞬間であるクリッカーの位置において考えます。これはシューティングを「点」で捉えることであって関心できません。アーチェリーの動作とは「線」であり、その中に「流れ」や「リズム」や「バランス」や「タイミング」「迫力」「重さ」といった多くの重要な要素が連続して存在しているのです。しかしそれでもアーチャーはクリッカーの鳴る瞬間をもっとも重要と錯覚して、その点だけを完璧にうまく処理すれば弓は当たると思ってしまうのです。だからこそ、その点がうまく処理できないとすべてが失敗に終わります。しかし、もしアーチェリー全体を線で捉えることができれば、重要と思いこんでいる点すらも線の中で流れて消えて行くのです。そしてその線の終点、行きつくところはフォロースルーなのです。
 あなたはボールを投げる時に、ボールが指先から離れる瞬間を考えて投げますか? ボーリングでも、ボールが離れる瞬間でコントロールしょうとしますか? 実際にはボールが離れた後の位置や形で、その前の段階をコントロールしているのです。あるいはそうしなければうまい投手にもボーラーにもなれないはずです。
 弓をフォロースルー(残身)で射つことを実践してみましょう。そうすればクリッカーは通過点にしかすぎず、線の中で流れていきます。いつも頭の中には自分の理想とするフォロースルーを描いて射つのです。いつもそこに自分の身体を持って行くよう、意識するのです。アーチェリーはフォロースルーで射つものです。

トップアーチャーは必ず

自分の残身を持つ  

 トップアーチャーのフォームを思い出してください。日本ではなく、世界の頂点に立つトップアーチャーをです。そのイメージには必ず、そのアーチャーしか持っていない決まったフォロースルーの形があります。
 John Williams は頭の後ろで手を軽く握り、Darrell Pace は頭の後ろを人差し指で指し、Rick Mckinney は肩を触ります。彼らに限ったことではなく、トップは必ず自分だけの形、スタイルを残身に持っています。そして毎回、いつでもこの自分が理想とする位置に身体を運んでいるのです。それはチェックポイントでもあり、空間を埋めるためのテクニックです。
 ともかくは動いているリリース以上に、静止した自分の理想の形を持ちなさい。そして、絶えず頭の中に描き射つことを心掛けてください。アーチェリーはついつい動の中心であるリリースに目を奪われ、そこに本質を求めようとします。多くのアーチャーはリリースで弓を射とうとします。しかし、実はリリースもフルドローもフォロースルーに向っているのです。トップアーチャーはフォロースルーで弓を射っています。

 

音を合図に !!
 例えばフルドローで視線を少し落とせば、そこにシャフトで作られた「矢印」が真っ直ぐにゴールドに向かい存在するように、実はシューティングという動作の中には多くのヒントや手掛かり、そして印があるのです。そのひとつが「音」です。しかし多くのアーチャーはそれに気付かず、またそれが印になることすら知らないのです。
 いつ自分のフォロースルーに、自分の身体を置く(持って行く)のか。それは弓が「バンッ!」と鳴った瞬間です。リリースをした時に弓は音をたてます。それは初心者や技術をまだ身に付けていないアーチャーにとっては迷惑な現象かもしれません。しかし、中級者以上のアーチャーにおいては、この音を利用しない方はありません。これこそが残身への合図であり、手掛かりなのです。耳を澄ませ、「バンッ!」という音を聞きます。それと同時に、自分の理想の形に自分の身体を置くのです。「同時」こそが合図です。
 積み木を置く「置き方」のスピードやタイミングや空間の位置は、写真やチェックポイントだけでは確認できません。空間を処理するのは、「イメージ」です。実際にストリングはリリースが後ろに移動する前に指先から離れています。我々が目で確認しているリリースの動作の瞬間には、矢はすでに的に向かう弾道の上にあるのです。しかし、だからといってゆっくりなリリースや鈍い反応が許されるものではありません。リリース(クリッカー)の瞬間をコントロールするためにも、フォロースルーへの速い移動が不可欠です。そのためにこそ音を合図とするのです。
音を合図とするならもうひとつ、少なくとも矢が的に刺さる音を聞くまで弓を下ろしてはいけません。フォロースルーがリリースをコントロールできるように、矢が的に届くことを認識してはじめて残身をコントロールできるのです。残身は矢が飛び出した後だから必要ないのではなく、矢が的に届くまで残身をとってはじめて残心が完成します。

 

長すぎる残身が

悪影響を及ぼすことはない 

 ルールの変更により、シューティング時間が短くなるとアーチャーは速く射つことに意識を奪われがちになります。しかしどんな条件であってもフォロースルーをとることを決して忘れてはいけません。
 長く残身を保持すると「疲れる」といったふざけたことを言うアーチャーがいます。これは大きな間違いです。特にトップアーチャーでない人間にとっては、長過ぎる残身が悪影響を及ぼすことは決してありません。特に練習では長過ぎるほどの残身が不可欠です。それは自分自信を見ることであると同時に、アイソメトリクス(静的)トレーニングとしても非常に有効です。わざわざウエイトトレーニングの時間を割かなくとも、練習中に十分シューティングとトレーニングができるのです。まずは射ったそのままの格好を残すことから始めます。
 
 意識を的に飛ばさないということは、意識をシューティングライン上に残すことを意味します。残身と残心です。ともかく、どんな射った後の形であっても、そのまま矢が的に届いた後も残し続けるのです。そうすれば今まで見えなかったものが見えてきます。それは身体の位置関係だけではなく、当てるためのもっと不可欠な要素が見えてくるのです。

 

頭を決して動かさずに

すべてを見る!

 よく残身で振り返って、自分の引き手(リリースの位置)を見るアーチャーがいます。このような動作は決してするべきではありません。どんな良い射ち方あるいは悪い射ち方であっても、決して頭を動かさず振り返らず的(ゴールド)を見たままで数秒間その形を残すのがフォロースルーです。
 
    ×
 押し手はずっと視界の中、それも視線の真下にあるのです。的を見ていても自分の視界の中に押し手は見えています。それを見ながら確認するのです。数秒前と同じ位置に置けばいいのです。では引き手は、というと見えないからこそ振り返るアーチャーがいるのですが、見えないからこそ「頭の中」でその位置を見るのです。例えば射つ瞬間に目を閉じて射ってみましょう(安全には注意を払って)。自分のリリースの軌跡が見えるはずです。トップアーチャーとは、このことを目を開きゴールドを注視しながら行える人間です。それと同じように残身をとって自分の頭の中(イメージ)で引き手の動きと位置を探します。
 シューティングの動きの中心は頭(顔)です。例えば、残身でのリリースの指先が耳の下と自分のチェックポイントを決めていても、もし振り返って頭が動けばすべての位置関係が崩れます。また、頭(耳)の中には三半規管があり身体の傾きや位置を認識しコントロールしています。その意味からも頭を動かすことは避けなければならないのです。

 

空間では残さない 
 アーチェリーの動作はすべて平面(壁)の中で行われ、完結します。この壁は薄いに越したことはありません。ということは、押し手が大きく振られ面から出たり、リリースがアンカーからフォロースルーに至るまで首から離れることはないのです。
 
 押し手は視界の中にあります。ということは、目で見て確認できます。空間の中であっても、自分が理想とする位置に置けばいいのです。問題は引き手です。アーチャーは頭を動かさず、イメージの中で自分の引き手と指先が描くリリースの軌跡を見ます。しかし、その指先が空間で残ることが自分の理想だとすると、その位置を確認することは至難の技となります。だからこそ指先は自分の身体に付けた位置でチェックポイントします。トップアーチャーの引き手が空間に置かれていないのはそのためです。
 実はトップアーチャーの頭の中では、ちょうど多くのアーチャーが彼らをウエイティングラインから見ているような画面、それは自分を写しているビデオの画面を自分が見ているような場面が、リアルタイムで進行しているのです。雲の上のカメラから、自分がシュートしている映像を写し、同時に頭の中でそれを見ているようなものです。それが出来るには確固とした自分の理想とイメージを持つことは言うまでもありませんが、それに加えて意識を絶えずシューティングライン上に置くことが重要です。

 

手首のリラックス

が すべて

 「リラックス」と力を抜くこととはイコールではありません。また、力むことと力を入れることもイコールではありません。残身は力を抜かず、力を入れて残します。しかし、手首はいつもリラックスです。これを忘れてはいけません。
 よくフォロースルーは矢が飛び出した後だから必要ないというようなことを平気で言うアーチャーがいます。これは大きな間違いです。確かに我々が目で認識する残身は矢がレスト部分を通過した後であり、なんら矢に影響を及ぼすものではありません。しかし、だからといって残身を取らずに練習を繰り返すと、身体は クリッカーの音=筋肉の弛緩 を条件反射として覚えこんでしまうのです。それがどんどん繰り返されると、アーチャーの身体はクリッカーと同時に、矢が発射されるよりも早く筋肉を緩ませてしまいます。しかし、この現実はリリースの瞬間が目には見えないのと同じように素人には見えません。残身は長過ぎると思うくらいに、そして力を入れて残します。残身自体にリラックスはありません。
 しかし、手首は両手共にリラックスです。矢を支える2点に力みは絶対に無用です。ちょうどコンパウンドで使うロープ式のリリーサーのように、指先は蝶のように舞います。それでいながら腕、肘、脇、背中は緊張を持続させるのです。矢は弓が飛ばしてくれるのではありません。アーチャーが自分の身体と力を使って矢をゴールドに運ぶのです。

 

最後は

自分の理想に置いて終わる 

 うまく射てた時にフォロースルーをしっかりととるアーチャーがいます()。と言うより、うまく射てたからこそ残身があり、残身があるからこそうまい射ち方だった訳です。そう考えれば、うまく射てた時にもフォロースルーをとらないアーチャーはよほどのヘタと言うことです。
 それはともかくとして、うまく射てなかった時、ミスをした時、失敗した時フォロースルーはどうするのか。そんな時でも、まずは残すことです。どんなにひどい形であっても、ともかくはそのままを残すのです。そんな簡単なことが多分簡単にはできません。だからともかく残す練習をしましょう。それによって意識がだんだんシューティングライン上に残るようになってきます。これは恥ずかしいことではなく、うまくなるための第一段階です()。
     
 
   
 
 次の段階は、そんな悪い射ち方()を残した次に、その延長で自分の理想とする残身に身体を置くのです()。押し手も引き手も顔向きも、すべて正しい位置に置きそれを確認して、はじめてフォロースルーが終了します(終わってもいいのです)。
 ここまでして、はじめてフォロースルーと呼べる動作であり、うまくなる練習と呼べます。これをすることで、意識がシューティングライン上に残るだけでなく、条件反射として身体は勝手に理想()の位置に動こうとするようになるお陰で、失敗()の程度が徐々に小さいものとなっていきます。良い射ち方の時だけでなく、悪い時ほど残身と残心をともかく残すのです。

 

大きく、思い切って、

伸びて、理想に近づく!

 アーチェリーはスポーツです。スポーツは健康のため、身体のためにするものです。そう考えれば、小さく射つより「大きく」射つ方が良いし、縮んで射つより「伸びて」射つ方が良いし、ビビって射つよりも「思い切って」射つ方が良いに決まっています。「射ち切る」のです。この大原則を決して忘れてはいけません。
 
   
 
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  がフルドローの位置であれば、フォロースルーの押し手の位置はリリースの瞬間の で保持するべきかもしれません。しかしその位置に大きく置けるようになるのはよほどのトップアーチャーです。たしかにひとつの理想ですが中級者が最初からその理想だけを追いかけると、ついつい のように射ち方がだんだん小さいものになっていってしまいます。まずは のように大きく射つことから始めましょう。射った後、ハンドルはゴールドより左に、胸は開き広がって射つのです。身体の中心の軸は動かず、左右に伸びて思い切って射ちます。
 また、例えば自分が今まで のように小さく射っていたことに気付いて、それを直そうとしだしたとします。その時もし理想の を最初から目指したとすると、うまく射てるようになるには今まで間違った射ち方を続けていたのと同じくらいの時間が掛かってしまいます。そんな時こそ「極端」から入るのです。 から始めて、最終的に理想へともっていきます。そうすれば遥かに早い期間で修正が効いてくるはずです。

 

描くこと!忘れること! 
 トップアーチャーが試合で一日144射しても、本当に満足のいく射ち方は数えられるほどなのです。そう考えれば、素人がうまく射てる数は数本あれば良い方です。例えば、ミスをした時それをうだうだ考えて次に良い結果が出たことがありますか。多分、良い結果が出た時の方が少ないはずです。そのミスが弓具のトラブルやシューティングパニックの始まりであれば対策を考える必要があります。しかし、単なるミスであれば「忘れる」ことが一番良いのです。ミスは誰にでもあります。忘れることもテクニックであり、才能なのです。
 アーチャーは絶えず自分の理想に向って積み木を積み上げ、シュートを繰り返します。うまく出来た時はそれを繰り返し、ミスをした時は次には新たな気持ちで理想に向うしかありません。そのためにこそ、いつも頭の中には、理想のシューティングフォームが弓を射っています。「描く」のです。イメージが現実を運んできてくれます。

 初心者の引く弓が傾いていて、それを注意しても、「真っ直ぐだと思います」あるいは「分かりませんでした」と答えます。これは真っ直ぐが何で、それはどのような認識なのかがまだ分かっていないのです。それが初心者というものです。そんな素人に対して指導者は「真っ直ぐ」とは何なのかを教える必要があります。そして教えられる初心者もそれを受け入れなければなりません。
 しかし、中級者は違います。「弓が傾いているよ!」と言っても、「分かってる!」とか「自分にはこれでいい!」と答えたりします。指導はそこからは進まないのですが、ここでもっとも大きい問題は彼らは『分かっていて、やらない』という現実です。これはやり方が分からないのとは雲泥の差です。練習とはうまくなるためにするものであり、出来ないことを出来るようにしていくのが練習です。
 何かを直そう、何かを始めようという時には勇気がいります。それは目先の結果を求めるものではありません。もしそれをすることで今より少しでも良くなる、好転すると考えるなら、それをひとつひとつ積み上げていくべきです。しかし多くのアーチャーはそれを始めたとたんに、当たらない、違和感がある、ぎこちない、と思って断念してしまうのです。しかし、今までと違うことをすれば当たる位置が変わるのは当たり前のことです。今は外れても、もっと先に今以上の点数が待っていると思うなら始めなければなりません。最初から何の違和感もなく、スムーズに自然に出来る方がおかしいのです。最初は違和感がありぎこちなくても、それが自然に出来るようになるために、正しい練習を始めるのです。
 いくらヘタになる練習をしても、ヘタにしかなりません。多くのアーチャーがヘタになる練習をしているからこそ、ちょっとうまくなる練習をすれば、その差は歴然として開いてきます。最初から簡単に出来るようなことなら、練習の必要などありません。
Plactice Makes Perfect !
 習うより、慣れろ。ぜひ、上手くなる練習を始めてください。今すぐに・・・・始めるのは、あなた自身です!!!

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