ノウハウ(3) ストリング

 サービングはセンターとは別に、上下にチップを掛けるループ部分とそれを束ねるためのアッパーとロワーのサービングがあります。ループはチップの角、束ねる部分は原糸が直接リム溝に擦れないようにするためです。
 では、これらのサービングはどの方向(回転)に巻くのか。センターサービングを上から下へと巻いて行く時、その回転方向は右周りです。上から見てネジを締めこむように右回転で巻いていきます。理由はそれがリリース時に指がストリングを回転させる方向であり、同じ方向に巻くことでサービングが緩みにくくなるわけです。当然ノッキングポイントの糸もこの方向に巻けば緩みにくくなります。
 合わせてアッパーサービングもロワーサービングもセンターと同じ方向に巻きます。上から見てすべてが右回転で捻れていくわけです。ただし巻く方向が逆だからといって、サービングがすぐに緩むわけでもありません。市販品でもこの方向で巻いていないものもあり、なぜかアーチャーも右射ち用、左射ち用と指定してストリングを購入しません。
 しかし、巻き方向にかかわらず、アッパー、センター、ロワーサービングは同じ向きに巻きましょう。原糸はサービングの巻かれている方向に捩れます。それに逆らって捩ると緩みやすくなります。サービングの巻き方向に原糸を捩ることでサービングを締め上げてやるわけです。
 では、ストリングは捩って使った方がいいのか、捩らない状態で使うのがいいのか。まったく捩らないストリングはバサバサとまとまりがなく、顔に触れる部分や目に見える部分が広がったり平らになったりします。弦音にも影響します。それにストリングは原糸を18本とか20本といった複数本を束ねて作っているので、ある程度捩らないと一本一本の原糸に均等にテンションが掛からなくなり、特に作り方が悪いと数本の原糸に極端にテンションが掛かり耐久性が落ちる場合もがあります。
 ストリングを捩る目的にストリングハイトの調整があります。捩ることでストリングの長さを長くしたり短くしたりするわけです。ただしまったく捩っていない時が最も長い状態であり、それより長くしたいのであればストリング自体の長さを長くして作り直すしかありません。
 市販のストリングを購入する時、例えば「68インチ用」だけの表示のものもあれば「165センチ」と具体的に長さが表示されているものもあります。しかしこれらの数値は統一基準があるわけではなく、あくまで目安にしかすぎません。それぞれのメーカーがその長さに釘(ジグ)をセットしているのでしょうが、メーカーが違えば長さが逆転することもあります。素材によっても本数によっても、なによりも作り方によって同じ表示のストリングでも長さは異なります。例えば165センチの釘の間隔でも、最初にそこに原糸を巻き付けていく力の掛け方で実際に大きければ1センチ以上の誤差は生まれます。
 昔々、1970年中頃まで原糸の素材は「ダクロン」でした。ダクロンはアメリカのデュポン社の登録商標で、一般には「ナイロン」と呼ばれる素材です。当時ナイロンは最先端素材でした。しかしストリングとして使うには、重さもそうですが伸びるのが当たり前の素材です。テンション(引っ張り)が掛かって伸びるだけでなく、熱が掛かっても伸びてしまいます。今と比べて分かりやすい例は、弓にストリングを普通に張った時のストリングハイトから、弓を射たなくても膝に掛けて両方のチップを押し開くようにテンションを掛けるだけでストリングハイトは1インチ(25ミリ)以上は下がるのです。今なら数ミリでしょう。
 それが1975年に「ケブラー」(芳香アラミド繊維)にかわり、1980年代になって今の「高密度ポリエチレン」素材が生まれました。昔に比べて、伸びない、軽い、水を吸わない、そして何よりも切れないストリングになったのです。
 これによって弓が矢に与えるエネルギーは格段に大きく、安定したものにはなったのですが、カーボンアロー(軽い)と合わせて弓が受けるショックは昔と比較にならにほど大きくなりました。例えば昔の弓に今のストリングを張り、カーボンアローを射てばハンドルが折れたり、リムが剥がれたりするでしょう。初心者用の弓でダクロンストリングを使うのは、ストリングが伸びることで弓へのダメージを軽減させるのが目的です。またそのような廉価な弓自体、性能も含め最初から最新の素材に対応できるような作りにはなっていません。

copyright (c) 2016 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery