スタビライザーのおさらい(前編)

 もうこれまでにいっぱい詳しく書いてきたので、ぜひこちらを読んでもらえば分かることなのですが、、、、
 ちょっとおさらいでまとめてみます。納得がいかなければ、ぜひもう一度↑こちらをよく読んでください。
 
 スタビライザーとは読んで字のごとく、「安定」を得るための道具です。安定装置です。
 ではアーチェリーにおける安定とは? まず最初に道具としての「弓の安定」と道具から得られる「アーチャーの安定」に分ける必要があります。道具がいくら安定しても、例えば安定のために異常にハンドルが重ければ、弓は安定してもアーチャー(身体)は安定しません。最近の多くのアーチャーはここで最初の間違いを犯します。道具はアーチャーが使うものであって、道具でしかありません。道具が勝手に当ててくれるのではないのです。どんな技も力の中にしか存在しないように、道具を使いこなして初めてその性能が生かされます。道具に使われていては、あるいは使いきれない道具をいくら持っていても、点数など決して出ません。道具としての弓の安定とそれを使いこなすアーチャーの安定、両方が不可欠なのです。
 ではまず、「道具」としての安定を考えてみます。弓の安定とはまずは動かないこと、「固定」が安定です。どっしりとした壷であったり、しっかりとした脚で支えられた椅子であったりです。単純にそれを求めるだけなら、下が重く背が低く(重心が低い)、足が広がっていて、、、ともかくは安定感があり、重ければいいのです。しかし重ければ安定はするのですが、重ければアーチャーは支えられません。弓は置いてあるのでなく、アーチャーはその弓を腕一本で空間に支えなければなりません。ということは、同じ効果をより軽い状態で得られることこそがスタビライザーの「性能」です。ハンドルも同様ですが、重くて安定するのは当たり前のことで重いことは性能でも何でもありません。
 ではスタビライザーはどのように安定を弓にもたらすのか。同じ重さでもそれが支点(弓本体)から離れている方が安定(動きにくい)は高まります。
 単純に安定は「長さ×重さ」で決定付けられます。1本の野球バットを横に水平に支えます。その時、グリップを持つのと、先端の太い部分を持つのとでは、同じバットでも安定の度合いがまったく異なります。しかしそのバット(弓)の安定は、押し手の肩への負荷とイコールです。弓の安定とアーチャーの安定は反比例することを忘れてはなりません。このバランスに折り合いをつけ双方に安定をもたらすことこそが、良い道具であり良いチューニングの選択です。最小限の身体的負荷で最大限の弓の安定を得ることが、アーチャーにとっての性能の獲得です。そのために、スタビライザーの形状や重さや長さを選択(セッティング)しなければなりません。
 そう考えれば、スタビライザーのロッド部分(長さとなる弓からオモリまでの距離部分)は軽いに越したことはないのです。間がゼロなら、無駄なく先端のウエイトが「長さ×重さ」の掛け算で安定に効いてきます。単純な話です。
 しかしそれはシューティングマシン(機械)が弓を射つ場合です。アーチャー(人間)が射つ場合は、もう一つ道具として大切な「安定」が必要になります。それが「振動吸収」です。ところがここでも最近のアーチャーは間違いを犯します。
 振動吸収を弓のショック吸収と思っているのです。確かに発射時のショック(振動)解消は、シューティング技術の獲得や技能向上の過程で必要なことではあります。しかしこれは本来、弓そのもの(ハンドルとリム)の性能が担うべきものであり、またその多くの部分は矢が発射された後の動きとして現れている現象です。例えば、ほとんどのアーチャーが当たり前のように使っているスタビライザーの先端に付けるロッドダンパーがあります。これなどは矢の発射後の振動を先端の動きで緩和するのですが、本来スタビライザーやハンドル、リムが正しくチューニングされ、それらが性能を有するならこんなダンパーは不要です。弓そのものがそんな不良振動は起こさず、起こっても自ら解消してくれるのが弓本来の性能です。それにこのダンパーは、アーチャーの技術的問題さえも見えにくいものとしているのです。
 実はこのような子供(素人)だましの振動吸収ではなく、的中精度に直結する振動吸収が他にあります。それは矢の発射後ではなく、発射前の弓を支えている時の振動吸収です。エイミング時の振動吸収こそが、エイミング精度の向上と発射時の的中精度向上に直結するのです。いくら完璧なシュートをしても狙っていなければ(狙えなければ)、矢はゴールドには飛びません。アーチャーが射つ時、本来スタビライザーが吸収しなければならない振動はサイトピンの震えです。射った後の振動(弓の動き)はその次の話です。このことに多くのアーチャーは気づいていません。
 この性能はどこから生まれるのか? それはスタビライザーの硬さであり、素材(カーボン繊維)そのものが持つ特性(性質)から来ます。一概に硬ければいいとは言えませんが、それでも高剛性、振動減衰率はスタビライザーの大きな性能です。
※)これは同じサイズの板で剛性を比べたものです。左の3つがCFRP(カーボン)ですが、今一般にスタビライザーに使われている素材として一番右の「230GPa](23トン)のグレードが使われていれば、大したものですよ。
 
 
 では先の条件(軽さ)を満たしながら、どうやって硬くする方法があるか。これはいいカーボン繊維を使うにこしたことはありません。軽く、振動吸収能力も高く、高剛性です。しかしこんな素材を使えば、超高価なスタビライザーになってしまいます。そのこともあって、今どのメーカーも使用しているカーボンのグレードを公表していませんが、カーボン繊維の世界シェアは70%が日本製であり、残りがアメリカとヨーロッパです。韓国製や中国製はありません。
 実際問題、一般的にはスタビライザーに使われる繊維のグレードは非常に低いと考えていいでしょう。そこで繊維での差別化(性能差)ができず、素材の持つ性能が低いなら、あとは形状でカバーするしかありません。今はストレートのパイプ形状がほとんどですが、形状で硬さを変えるのは「太さ」(外径)と「厚さ」(肉厚)です。太く厚いパイプを使えば、低品質のカーボン繊維でも硬くはできます。しかし同時に重さも増してしまいます。では、太さか厚さか、どちらで剛性を高めるかとなれば、これは矢のシャフトと同じで肉厚で持ってくるより外径を大きくした方が硬さにはより効果的であり同時に薄く軽くできます。だから最近は太いスタビライザーが増えているのです。しかしそれでも品質のよくない繊維(廉価)を使うなら、硬くしようと太くしても硬くならなければ、肉厚も増すしかありません。その結果、太く厚く重く、かろうじて硬そうなスタビライザーが高価で出回っているのが現実なのです。
 アーチャーが硬さを簡単に知る方法は、ロッドを膝に掛けて曲げてみれば分かります。もともとが廉価な、グラスが入っているようなロッドは折れるかもしれませんが、高剛性、高性能を謳っているようなロッド(高価)ならもしこの程度で曲がるなら、よほどの性能ということになります。そして太さに関係なく(太くても細くても)剛性があるなら、それが軽さの中で満たされることがスタビライザーの本当の性能です。値段や表面のデザインが振動を吸収するのではありません。間違いのないように。
 
 そこでもう一度こちらを、長いですがご覧ください。。。。

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