インドアの本気

 世の中、何事にも「本気」というものがあります。アーチェリーの舞台では、それが世界なのかローカルなのかはあるでしょうが、やはり結果としての「勝ちに行く」姿勢がそれでしょう。では、勝ちに行くために何をするのか、どうするのかという話です。
 この記事は、20数年前に「雑誌アーチェリー」に書いたものです。
インドアで初心者と間違われないために
 読んでもらえば解るとおりですが、インドアという短い距離の室内という限られた空間においては、アウトドアや70mあるいは30mとはまったく異なる前提が存在します。そんな特別な舞台では、ひと目道具を見れば、そのアーチャーが本気かどうかの見分けはすぐつくものです。
 インドア競技における「本気」とは、アルミアローを使うことです。それを思えば、なんと本気でないアーチャーが昨今多いことでしょう。あるいは無知なアーチャーが増えたことでしょうか。
 こう書けば反論するアーチャーも多いでしょう。ではカーボンアローでインドア競技に平気で出場するアーチャーに聞きます。あなたは60射の試合の中で、ジャッジを呼ぶ呼ばないは別にして、シャフトがオンラインかどうか(ラインにタッチしているかどうか)の判断に迷ったり、顔を近づけて確認した矢が何本ありましたか? ではもうひとつ聞きます。その5.5ミリほどの直径のカーボンシャフトが3ミリ太かったとしたら、何本の矢がラインにタッチしていたと想像できますか?
 この答えは技術の高いアーチャーや、高得点をマークすればするほどに増えるはずです。30射280点くらいを記録する場面においては、2本や3本はあるはずです。では、280点を記録する試合で、あと2点得点が上がっていれば、順位が変わっていたのではありませんか?
 20数年前、日本ではまだインドアの日本記録は公認されていません。(ルール自体が整備されていませんでした。) そして世界においてもやっとコンパウンド競技で「3つ目的」が登場しだした時期です。リカーブ競技はこの後も長くシングルスポットに3本の矢を射ち込む時代が続きます。世界で300点のパーフェクトがコンパウンドで樹立されたのは、3スポットになってからの1980年頃だったと思います。
 もし今も3スポットではなくシングルスポットの的でインドア競技が行われているなら、カーボンアローも選択肢のひとつに入ったかもしれません。なぜなら、20数年前は普通の太さのアルミシャフトを使って(カーボンシャフトはまだない時代なので、それしか選択肢はないのですが)30射すれば先に射った自分の矢に弾かれて、10点に入るべき矢が9点に出ることがよくありました。ましてや300点を目前にしたシュートにおいては、不可抗力としての不運な299点や298点が存在したのです。本気のコンパウンドにおいてもリカーブにおいてもです。だからこそ、20径のアルミアローであっても、9/32インチではなく1/4インチのSサイズと呼ばれる小さいノックをあえて使用し、ブジョン製より素材的に柔らかい(曲がり易くはなるので、一層のチェックが必要です。)フィッシャー製のノックを選択しました。そしてノックの固定は接着剤は使わず、テーパーの溝にねじ込んで止めました。これらは後からの矢が先のノックにヒットしても、弾かれることを極力抑え10点内に留める努力です。それだけではありません、コンパウンドのプロの連中は、最初からアルミシャフトのノック側のテーパーをカットしておいて、後の矢を弾かせるのではなく継ぎ矢させることでパーフェクトを狙いました。(当時のノウハウが現在のユニブッシングやピンノックになったのであり、これらはなんら新しい発想でもなんでもないのです。)
 しかし、現在は3スポットです。昔より遥かにパーフェクトが出し易い(不運による9点はなくなりました)条件が整っているのです。であれば、細い矢より太い矢の方が有利であることは歴然とした事実であり、パーフェクトへの近道です。だからこそ、「シャフトの最大直径は9.3ミリを超えてはならない」という制限が、インドア競技のルールにのみ追加されたのです。
 それでもまだ、カーボンアローに固執する本気のアーチャーがいるかもしれません。ではそんなアーチャーに聞きます。これほどの太さのメリットを超えられる、カーボンアローのメリットがインドアにおいて何があるのでしょうか?
 個人的には、見当たりません。18mという短い距離は20年前も今も同じです。今も昔もインドアでは雨も降らなければ、風も吹きません。10点の大きさも同じです。唯一のメリットらしい特徴は、カーボンシャフトの復元力の速さです。(これは正しいチューニングなり、スパインの選択がなされての話です。) しかし18mはアルミシャフトにおいてもアーチャーズパラドックスの蛇行運動から矢を制御するには十分な距離であり、そのためにもビッグベインやフェザー(鳥羽根)を併用します。結局どちらの矢にしても、真っ直ぐ飛ばすチューニングはなされるはずです。
 こう考えてくれば、弓の長さやストリングの太さ、ストリングハイト、スタビライザーのセッティング等などは矢を飛ばすためのチューニングとして、個々の限界があります。これをもって「本気」を語れないかもしれません。しかし、矢の太さだけは「本気」の判断基準となり得るのです。なぜなら、インドアという限られたベストコンコンディションにおいては、すでに20数年前にリカーブでも300点のパーフェクトを目指していたからです。アウトドアはカーボンアローという魔法の道具のお陰で凡人の点数は圧倒的に向上はしましたが、インドアは今も昔もレベルは変わっていません。もし得点が向上したと思っているなら、それは今のアーチャーが不運な9点を射つ機会がなくなった分の点数アップです。道具の進歩でも技術の向上でもありません。だからこそ、そろそろ3スポットにおいてはパーフェクトを見せて欲しいのですが、そんな本気はありませんか。20数年前、本気で300点を狙っていたのですが。。。。

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