弓の性能のことでちょっとちょっともうちょっと

 プロ野球ピッチャーの投球フォームを思い浮かべてください。では次に、バッティングセンターの投球マシンを想像してください。このイメージの違いが、リカーブボウとコンパウンドボウの違いです。
 投球マシンが200キロのボールを投げられても、それはピッチャーのフォームとは違うものです。ピッチャーの腕の動きには「しなやかさ」があります。そしてもうひとつ、「スナップ」(手首の前後の屈伸)を効かせることを良いピッチャーは忘れません。
 ピッチャーもアーチャーも、スピードだけを競っているのではありません。スピードに加えてのコントロール(的中)能力こそが求めるものです。それを実現するために必要なのが、ピッチャーなら手首のスナップであり、アーチャーは弓のリカーブ部分でそれを実現します。
 太古の昔、人間が生きるために発明した弓矢という道具は、世界のいたるところで独自の進化、発展を遂げます。そして不思議なことにそれらのほとんどが「リカーブ」形状を有するのです。弓の「リカーブ」は、的中精度を求める人類の英知の結晶ではないでしょうか。
 そんな重要なリカーブですが、その成果をアーチャーに示すのは矢速ほどに簡単ではありません。それに素人には、どうしてもスピードが魅力的に映ってしまいます。
 
 昔は新しいモデル(商品)が発売されるまでには、数多くの実験室での試行錯誤とプロトタイプによる実射テストが行われるのが常でした。ところがK国が参入し、ヤマハが撤退して以後、事情は一変します。パソコンソフトのβ版レベルの商品が平気で販売されます。時にはお試し版以前のα版モデルがカタログに載ることさえ起こります。そして問題があればマイナーチェンジする、あるいは突然廃番商品となります。
 あなたはK国の自動車を買いますか? テレビを買いますか? K国製といっても、すでに中国で生産しているモデルもあります。アーチェリーでこれらの製品が台頭してきた理由は、決して高品質、高性能からではありません。単に低価格、低コスト、そして高価格販売による荒利の増大にしか過ぎません。それに加えて、リカーブの特殊事情があります。
 アメリカの巨大弓市場の90%以上はコンパウンドです。残りのリカーブの90%以上はハンティングやそれに準じるものです。多くのアメリカの弓メーカーにとってリカーブは商売にはならないのです。では、なぜK国はコンパウンドを作らないのか。作れないのです。コンパウンドの基本特許は25年が過ぎ、とっくにオープンになっています。ところが、その間に発明された周辺特許のほとんど全てがアメリカメーカーによって押さえられています。K国はノウハウがないだけでなく、特許がないために参入(パクリ)ができないだけのことなのです。これはヨーロッパのメーカーも同じです。
 とはいっても、H社のコンパウンドもアメリカでは後発です。特許でも実績でも、規模でも大きく遅れをとっています。そこで1983年、EASTONはホイットおじさんからH社を買収、リカーブとしての絶対的ブランド名を最大限活用してコンパウンドに本格参入したのです。ここから先のH社は1959年から続いてきたHoyt Archeryではありません。ホイットおじさんを愛する多くのアメリカのアーチャーたちにどれほど嫌われようが、すべて商売で割り切るEASTONのH社です。ところがリカーブにおいて、後発K国メーカーのなりふり構わない、節操のないやり方と低コストにあせりだします。ヤマハ追い落としのために自らが特許とせずオープンとした、今のユニバーサルと呼ばれる接合方式がアダとなったのです。
 1983年以後のH社リカーブに駄作は数あれど、(もう言ってもいいでしょう)その代表作のひとつに「FX」リムがあります。K国が矢速をアピールする中、あせったH社は性能アップのふりをしてリムを短くします。それも根本側でなく、先端のチップ側を切り落としたのです。しかし弓の長さ表示はそのままです。弓の長さを短く、そしてストリングハイトを低くすることは、何よりも簡単に矢速アップする小手先の子供騙しの方法です。ノウハウも技能も技術も必要としません。(この頃からK国も少し弓を短くしているものがあります。)それ以降、H社のリムのリカーブは浅くなりました。リカーブが浅くなれば、必然的にストリングハイトを下げざるを得ません。これが特徴でありノウハウだというなら、そうなのでしょう。(リカーブが深ければ良いという意味ではありません。)
 ともかく、今の我々にある選択肢のほとんどはK国かH社が現状です。しかし忘れてはならないことは、これらの選択肢が必ずしも優れているとは限らないことです。特に日本のアーチェリー界にいると、リカーブのターゲットという市場は大きなものに見えがちです。アーチェリーにはそれしかないようにも映ります。しかし、本当は世界の弓全体から見れば、リカーブのターゲット市場は「隙間産業」(ニッチ市場)以外の何ものでもないのです。ほんの小さなマーケットです。だからこそK国もH社もそこを独占することに必死なのです。他社が作れなかったり、優れていないのではありません。他社は単に作らないだけであり、そんな中にも優れた性能を持つ商品はたくさんあります。
 
 そしてもうひとつ。1976年モントリオールオリンピック。H社はこの時、世界で始めてカーボンリムを世に出し、ダレル・ペイスはそれを使っていとも簡単にゴールドメダルを手にします。これが売り出されるのはオリンピック後ですが、オリンピックで使われたのはプロトタイプで、今でこそ珍しくはありませんがサイド面までもが真っ白に塗られたリムでした。外観からはカーボンが入っているかは確認はできません。しかし現物を持って、引き、確認した範囲で、あれはグラスリムでなかったのかと今でも思っています。少なくともこの後販売された(そして回収されることになる)カーボンリムとは明らかに異なる仕様でした。
 1996年アトランタオリンピック。高温多湿の影響が開会前から多くの競技で言われていたこの大会、自国H社はこれに向けて世界初の発泡材をリムのコアに使用した(今のフォームコア)商品の販売を世界で開始していました。しかし、大会で男女アメリカチームの何人かは、デザインは最新の発泡材コアモデルのリムでありながら、中身はウッドコアというリムを使用していました。
 チャンピオンが使っているものが市販品と同じで、自分で買ったとでも思っているなら別ですが、、、そんな常識で考えれば、最新の製品を自国の選手より先に他国の選手に使わせるはずがありません。自国の選手より良いものを他国の選手に供給するわけがありません。その逆はあっても。違いますか。
 ヤマハやニシザワがなくなったことを、今さら悔やんでも仕方がありません。メイドインJAPANがなくなるとは、こういうことです。日本選手の勝利のために、世界最新最高性能の製品を自国の選手より早く提供など、K国もH社も決してしてくれません。ましてやあなたは上得意様ではあっても、日本のいちユーザーにしかすぎないのです。くれぐれもお忘れなきよう、お願いします。

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