有弓休暇(18)

 長くアーチェリーをやっていると、いろんなことがあるのですが。そんな中でも、38年間競技生活をやっていて、先々週初めて試合を欠場しました。全関西選手権でしたが、せっかく枠を貰っていたのに、すいませんでした。そしてそれ以上に、欠場した原因がショックです。選手はやればやるほど、怪我やトラブルを持っているものです。これまでにもあることはあったのですが・・・・。
 実は今年の6月中旬から、右肩に痛みを感じていたのですが、6月24日の試合で初めて痛みの異常さに気付きました。幸いに7月に整形外科の先生にアドバイスをいただき、MRI(磁気共鳴画像診断装置)のある病院を探しながら、休養したりトレーニングを変えたりいろいろしながら8月13日になってしまいました。所見は「右棘上筋腱の変性部分断裂」なのですが、感じとしては僧坊筋がパンパンの状態でドローイング途中とフルドロー時に痛みが走るのです。
 欠場した9月2日の前1週間、ちょうど学生と白馬で合宿をしていたので、その間軽い弓を引いたりいろいろなことを試し1日に帰宅したのですが、、、、四六時中僧坊筋が張った状態で、144本射てるような状況ではありませんでした。もうパンパンです。引けば激痛。
 と、ここまでのブログ的内容はどうでもいいでしょうから、、、、ホームページ的内容に変えます。
 
 別に痛いのに射たなきゃいいし、試合も出なけりゃいいし、アーチェリーなんかヤメてしまえばいいことなんですが。。。。  (-_-;)
 2週間後の9月15日には、「つま恋カップ」が控えていました。全日本アーチェリー連盟主催で、大会要項の「選手の心構え」には、Aドーピング検査への対応−選手は競技会前7日間に服用した医薬品(処方薬・売薬を問わない)および摂取したサプリメント類の名前と量を記したメモを携行することが勧められる。 との、非常に曖昧な記載があるのです。
 そして8月21日には、所見を元に治療開始です。外傷性の変性断裂は、加齢と使い過ぎがその大きな原因だそうです。38年間毎日使ってきたのですから、仕方がないといえばそうなのでしょうが、射てないことが辛いです。
 腱板断裂はMRIがない時代には、四十肩、五十肩にひっくるめられていたようなのですが、肩関節の痛みはまったくないのです。パンパン感を除けば、普通の生活や動作には支障がありません。ともかく、弓が引けないのです。そしてこれらの治療法として一般的なものは、ステロイドと局所麻酔剤の関節内注入(肩への注射です)から始まって、ヒアルロン酸を継続的に注入することのようです。
 そこで問題は「ステロイド」です。ステロイドの関節内注入は、「アンチ・ドーピング規則」における禁止事項なのです。

第10条 個人に対する制裁措置

第10.1項 アンチ・ドーピング規則違反が発生した競技大会における結果の失効
競技大会開催期間中または競技大会に関連してアンチ・ドーピング規則違反が発生した場合、当該競技大会での主管団体の決定が下った場合、メダル、得点および賞の没収を含む、当該競技大会において得られた競技者本人のすべての結果は、全ての競技結果とともに自動的に失効する。ただし、第10.1.1項に定められた場合は、この限りでない。

10.1.1 違反に関して自己に過失がない旨を競技者本人が立証した場合、アンチ・ドーピング規則違反が発生した競技以外は失効しないものとする。ただし、アンチ・ドーピング規則違反が発生した競技以外における当該競技者の競技結果が上記のアンチ・ドーピング規則違反による影響を受けている場合は、この限りでない。

第10.2項 禁止物質および禁止方法に関する資格剥奪措置の賦課
第10.3項に定められた指定物質を除いて、第2.1項(禁止物質、その代謝物またはマーカーの存在)、第2.2項(禁止物質・禁止方法の使用、または使用の企て)、および第2.6項(禁止物質または禁止方法の所持)の違反に対して科される資格剥奪の期間は、下記のとおりとする。

● 1回目の違反 − 2年間の資格剥奪
● 2回目の違反 − 一生涯にわたる資格剥奪

ただし、競技者または他の人物は、各事案において、第10.5項に従って制裁措置の免除または軽減の根拠を立証する機会を制裁措置が科される前に与えられるものとする。
 

 なんだか大変な時代になりました。曖昧な要項の先には、資格剥奪だというのです。が、これは「JADA」(日本アンチドーイング機構 :Japan Anti-Doping Agency)の方ともお話したのですが、決してJADAはこれらのルールで選手を貶めようとしているのではないとのことです。現に全ア連主催のつま恋カップのレセプションは、大会期間中であってもビールは出るし、アルコールを持ち歩いていても逮捕されるものではありません。
 ただし、この辺が全ア連、JADA、そして選手の意思疎通と共通認識がうまくいっていない部分でもあるのです。JADAの方も分かってられるようです。アルコールのことだけでなくシステムはできあがっているのに、検査する側とされる側に致命的ではないにしても、何らかの違和感を感じ、うまくルールと選手がかみ合っていないように感じるとのことでした。日体協やJADAが一生懸命啓蒙活動をしても、アンチドーピングの意味が選手や選手の周囲に浸透しない理由はこの辺にあるのです。
 このことについて、今回JADAの方と全ア連の方にもお話を聞いて、お願いもしました。危機感や罰則ばかりを前面に押し出し、現実的な部分や何ら問題のない許される部分の説明がないことが問題だとお話しました。全ア連としては、今後の大会要項で対処したいと偉い方が言ってはくれましたが、、、、どうなることでしょうか。
 
 そこで、「TUE」を知っていますか? 知らなかったでしょう。
 ドーピング検査のやり方は、「競技会(In-Competition)検査」の場合、大会終了後JADAの担当者が来て、ちょうどスピード違反を捕まえたおまわりさんのように(違うのはこっちがまったく違反したいないことですが)懇切丁寧に説明してくれて、こんなところで行われます。オシッコが出ない人のために、ちゃんと飲み物も用意してくれています。詳しくは「JADA」のホームページに書かれています。
 ところが、唯一親切でないのは「TUE」(治療目的使用に係わる除外措置- Abbreviated Therapeutic Use Exemption)に関する案内です。選手にとって一番重要なことが、JADAにも全ア連にも具体的に書かれていないのです。
 禁止薬物などもそうですが、素人にアンチ・ドーピング規定を細部まで理解するのは不可能でしょう。しかし、性善説か性悪説かは別にして、悪意でこれを利用する人間にとっては、規定の隅々まで分かっての実行でしょうが、善意の人間にとってはJADAのホームページも全ア連の競技規則も不十分すぎます。仕方なく、あるいは知らなくてアンチドーピングに違反した場合、どうしたらいいかは書かれていません。ドーピング検査があると言いながら、今回のように治療目的でステロイドを使用する(した)場合の説明は皆無です。
 そこでJADAから正式にドーピング検査を委託されたドクターからアドバイスをいただき、今回「略式TUE」を申請しました。全ア連第1号のようです。とはいえ、全ア連には医事関連部門がないので、直接JADAに聞いて行いました。(書式はホームページからダウンロードできるのですが、その説明はページにありません。)
 今回のように治療として仕方なく、禁止薬物を使う(使った)場合の対応です。医師の診断書と一緒で、ダウンロードした書式3枚を医師に記載してもらいます。それを該当する試合前(必ず)にJADAに送付すればいいのです。急ぐ場合はとりあえずはFAXで送ります。しかし、「ステロイド」は素人にも分かりやすい名称ですが(とは言っても、「糖質コルチコイド」と言われれば、もう分かりません。)、注射やステロイドに限ったことではありません。一部の育毛剤等では注射や経口でなくても、検査に引っかかる禁止薬物が検出されるものもあります。ここが難しい点でもあります。
 それに実は今回記載をお願いした整形外科医は、若くてスポーツ障害にも見識がある方だったのですが、それでもTUEは初めてでした。そのためこの3枚だけでなく、数10ページに及ぶ禁止薬物リストをJADAのホームページからダウンロードして、関連の資料を添付しての事前のお願いでした。もちろんその分、余分に日数も掛かってしまいます。結果、快く引き受けてもらえたのですが、そうはいかない場合もありそうです。いくら診断書と同じとはいっても、内容には「医師の宣誓」などの項目も含まれます。見識と理解がないと簡単でないかもしれません。それともうひとつは価格です。今回はこの病院の診断書発行と同じ値段で作成いただいたのですが、聞くところによると通常の診断書であっても提出目的によって価格が違ったり、医療機関や医師会での統一した基準がないとのことです。ともかくは書類だけでも数千円の負担になります。このエネルギーと手間と金が、競技への努力とは別に掛かるのです。
 それらの努力の結果、申請が受理されていれば、仮に試合後の検査で陽性となっても救われるということです。ただし、競技会検査において、申請したから検査対象に選ばれるというものではありません。あくまで上位入賞者やランダムに選ばれた対象です。実際、受理されたことを、その試合にあわせて全ア連や会場に来るJADAの担当者には知らされていませんでした。(申請した選手にも受理の報告はありません。不安な部分ではあります。) それともうひとつ大事なことは、JADAも悪用されることを前提に、禁止薬物の体内での半減期などを公表していないことです。摂取したから必ず検出されるとも限りません。
 ではもし知らなくてこのような手続きを行わず、善意の結果として陽性の反応が出たらどうなるのかです。説明と証拠を示すしか仕方がありませんが、そう簡単ではないようです。そのことを考えると手間ではあっても、「TUE申請」が妥当な方法と言えるのでしょう。この申請は、陽性の可能性があるなら、試合毎に行わなければなりません。
 ただし、これはあくまで全日本クラスの試合においてです。ローカル大会や趣味のアーチェリーでこのようなことに煩わされるのは、お互いに不幸であり本意とするところではありません。スポーツはもっと楽しく、健康的で、自由なものです。ましてや世界や日本記録を目指す一握りの者以外の、多くの善意のアスリートにとっては無関係な話です。
 実は申請後もヒアルロン酸の注入をしていますが、あまり状況が改善しません。ちなみに、ヒアルロン酸は禁止薬物ではありません。また、鎮痛剤も「アスピリン」(アセチルサリチル酸)、「バファリン」(配合薬)、「ロキソニン」等は、2007年使用可能薬リストに載っています。善意の普通のアーチャーにとって、必要以上に神経質になることはないはずです。それに普通に使うものとして、風邪薬、アレルギー、下痢、便秘、目薬、避妊薬、ビタミン剤等など、必要不可欠で、TUEの申請なしでも使用可能な薬品も多くあります。ドーピング検査があるから、酒も薬も何でもダメはないのです。
 お陰さまで、つま恋カップは72射だったのもあって、なんとか射てましたが、1回戦敗退でした。まだ肩は痛いので、別の専門医への紹介状をいただいています。来週行ってきます。
 高齢者が増えていく世の中です。四十肩、五十肩のチャンピオンのために、ご参考まで。。。。
 

(ちょっと追記です。。。)
 9月5日(水) 「略式TUE申請書」、JADAにFAX送信。
 9月6日(木) JADAに原本、郵送。
 受理の報告がないと書きましたが、9月21日(金)試合の1週間後になりますが↓こんなものが郵送されてきました。受信日はFAX送信時になっています。
 で、その後、紹介をいただいた専門医に診断をいただきました。
 最初の所見と同じで、棘上筋腱の部分断裂とのこと。ちょうど右肩関節の頂点付近で断裂があるそうです。それ自体を復旧するには、手術とのことなのですが、、、、約1週間の入院と数週間の固定で治るとのこと。しかし、今さらこの肩で数億円を稼ぐならともかく、とりあえずはその選択肢は没です。
 僧坊筋や棘上筋にパンパン感があることについては、断裂によって体や筋肉のバランスが崩れていることからくる痛みではないかとのことです。とはいっても、その後シューティングを中断して休養しながらいろいろしているのですが、あまり改善がみられていません。
 断裂自体は自然治癒はしないそうなのですが、その部分自体はシューティング時に負荷が掛かる場所ではないようです。そうなのでちょっと長期的に考えて、ヒアルロン酸を含め治療に専念することにします。射ちたいのですが、、、そうできるように38年ぶりにちょっと休養です。

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