有弓休暇(19)

 先日、弓の話をしている時、「○○さんはアテカンがあるから・・・」といった会話がありました。
 「アテカン:当てカン」、これに類する言葉はよく耳にするのですが、「本能」や「技」も含め「野生のカン」とでもいうのでしょうか、アマゾン原住民鳥射ち名人みたいなものです。矢を的の真ん中に当てることに関して、決して知識が豊富なわけでもなく(どちらかといえば知らないくせに)、射形が美しいわけでもない(どちらかといえばキタナイ)にもかかわらず、なぜか当たるヤツに対して形容される単語です。そしてそれが上位の選手なら「凄い!」になり、初心者や中級者なら「なんで?!」につながります。
 このほめ言葉ともけなし言葉ともつかない表現は、なぜ当たるのかの理由が、技術的、フォーム的に解明(説明)できないところからきているのでしょう。たしかに長くアーチェリーをしていると、そんなアーチャーを見かけます。多分、皆さんのまわりにも一人くらいはいるでしょう。なぜ当たるのかわからないけど、当たるんです。それはないやろ、と思っても、当たるんです。これだけは訓練や努力ではなく、もって生まれた才能のような部分です。ある人にはあるし、ない人にはないのです。
 で、先日の話もそうだったのですが、あなたに質問です。あなたのサイトピンは、センターショットを見る時にストリングと完璧に重なる弓の左右のセンターにきていますか?
 実は多分、10人中3人のアーチャーは、そうでないでしょう。ところがこの3人のうち2人は、そのことに気付いてもいなければ、考えもしていないアーチャーです。残りの7人のうち4人も同様です。ではサイトピンがセンターにある残りの3人のうちの1人は、結果としてサイトピンがセンターにきたのではなく、かたくなにサイトピンとはセンターにあるものだと信じてそれを守っているアーチャーです。
 例えば、まったくの初心者やあなたが新しい弓を買った時、まずサイトですることはサイトピンをストリングと重ねて、弓の左右の中心にセットします。その理由は「安全」です。どの距離であっても、矢が的を外すことなく一応は的に刺さるだろうという、一般的な位置だからこそそのように指導されます。
 ところが長くアーチェリーをやっていると、10人中3人はそれがもっとも多くの矢を的の中心に運ぶ位置ではないことに気付くのです。
 このようなことはリカーブアーチャーだけでなく、コンパウンドアーチャーにもあります。例えば、この弓のハンドルにはセンターショットを示す位置が、メーカーの出荷段階からウインドウに刻まれています。ではすべてのアーチャーがこの位置に矢を置くかというと、そうではありません。サイトピン同様、最初はこの位置から始めます。しかし結果的にこの位置が最も小さいグルーピングをアーチャーに与えるかというと、これも10人に3人はそうでない位置でより好結果を得ることになります。
 もうひとつ例をあげましょう。「ベアシャフトチューニング」です。これはハネの付いていない裸シャフトをハネの付いた矢と射ち比べることで(本当はここで「ペーパーチューニング」もセットになるのですが)、ノッキングポイントやクッションプランジャーのセッティングに役立てようとするものです。しかしこれはもともとコンパウンドアーチャーの中から必然的に生まれた方法です。なぜならコンパウンドボウは、ある種完璧ともいえる「リリーサー」(機械的発射装置)での発射が大前提となっています。このことは、ある種完璧に発射されることで「アーチャーズパラドックス」が発生しないことが前提です。
 ところがリカーブボウの場合は、フィンガーリリースが前提である以上、アーチャーズパラドックスは不回避であり、レストの形状から考えても必要な矢の挙動なのです。(だからこそ「パラドックス」であり、コンパウンドボウが生まれるより遥か前からアーチャーズパラドックスは存在しました。) 
 しかし、これほど前提が異なるにもかかわらず、なぜかパーフェクトを目指すリカーブアーチャーの中で(そしてそのレベルにも遥か達していないアーチャーも含め)パーフェクトが出るコンパウンドアーチャーへの憧れ(とポーズを含め)から、「同じ方法、同じ結果、同じパーフェクト」の錯覚が生まれました。リカーブボウでのベアシャフトチューニングを否定はしません。しかし、それは「傾向」を知る手段であり、パーフェクトなリリースが前提でない以上はすべてのリカーブボウアーチャーの矢とベアシャフトが同じ的中位置を得ることは本当に稀です。ここでいう「傾向」とは、そのシャフトが自分にとって「硬めか柔らかめか」程度のことです。もしぴったりでないなら(これもまた本当に稀なことですが)、それをクッションプランジャーで同じ位置にするのは無理があります。(フィンガーリリースのバラツキに絶えられないくらいの極端に硬かったり、柔らかかったりするプランジャーのセッティングになります。) これをあえてすることは、どこに刺さろうがいつもサイトピンはセンターに固定し、シャフトをいつも完璧にセンターショットにするのと同じくらい頑固なことなのです。
 実は本能としての「当てカン」は、トップアーチャーへの必須条件ではありません。しかし、練習過程における「当て感(覚)」はトップを目指すための絶対必要条件です。
 すでにあなたはグルーピングの大きさが必ずしも矢飛びやサイト位置と正比例しないことを、感覚的に知っているはずです。だから、トップアーチャーは必ず、初心者マニュアルとは違う自分だけの道具とチューニングを持っています。自分の感覚、自分の感性で道具を選び、弓をチューニングするのです。
 今日も射ってみました。個人的に満足のいく的中やグルーピングの大きさを求めてチューニングしたマイボウは、必ずサイトピンはストリングより右にあります。50mでベアシャフトを射てば、いつもかろうじて9時の白か黒に当たるくらいです。今日は的を外しました。ヤラセではありません。ホント今日の50m1回目です。それでも、この方が良い結果とよい点数を導き出すということを知っているし、信じています。試合はベアシャフトではありません。ちゃんと3枚のハネを貼った矢で出ます。
 もしあなたが中級者で、もうひとつステップを登ろうとするなら、そろそろ自分の感覚を信じて試してみてはどうですか? 安全の中での、試行錯誤と創意工夫と経験則。少し授業料は掛かりますが、それも練習のうちです。初心者マニュアルは初心者には必須ですが、初心者のレベルは超えられませんよ。。。。

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