有弓休暇(23)

 今年も学生と一緒に、合宿に1週間行ってきました。夏は白馬(長野県)で、春は合歓の郷(三重県)です。
いつものことですが、ここ白馬乗鞍の宿は春同様に立命館大学のコーチをする以前、1979年ころ「ヤマハ合宿巡回クリニック」という企画で訪問以来、約30年間連続お世話になっているところで、家族ぐるみのお付き合いでもあります。
 そんな夏合宿ですが4月に入った新入生は教えられることも多く、大忙しで走り回っています。しかし、そんな1週間を同じ釜の飯を食って生活すると、初めてチーム一丸となって目標に立ち向かえる仲間として打ち解けあえます。いいものです。
 今回は監督が、新車のニッサン「GT−R」で参加。そこで、中日に試乗会をさせてもらいました。値段はともかく、凄いですねぇー。リミッターが付いているとはいえ、スピードメーターは340km/hまで刻んであります。
 スペックを見てみると、3800ccで「車両重量」1740キログラム。横の「Z」は3500ccで、1480キログラムです。ちなみに「スカイライン」は3500ccで、1600キログラム。「マーチ」は1200ccで、950キログラムです。
 ところで最近なぜか、リムの性能を「重さ」だけで語るアーチャーがいるようです。
 例えば矢の安定性(ここでは単純に外からの空気抵抗に打ち勝つ力ということで)は、「m(重さ)×v(速さ)」と「断面荷重」を用いれば語れます。ところが弓はそう単純ではありません。特にリムです。ハンドルは「重さ」と「バランス」そして「耐久性」や「デザイン(好き嫌い)」「素材」で語れます。それに製作の工程や管理に問題がなければ、図面どおりのものが削りだせます。
 ところがリムは違うのです。テニスラケットでもゴルフクラブでも、こちらも基本的には金型どおりのものが作れます。そしてできあがった状態そのままで、製品として使用します。しかし、リムはできあがった状態での使用はありません。必ずストリングを張った状態で、バランス(ティラー)や形状、強さが求めるものでなければなりません。それも上下のペアでバランスをとります。それだけでは不足です。28インチや30インチを引っ張って、離して、そこでも求められる形状や性能を満たさなければなりません。これは作る側にすれば、とんでもなく過酷で困難な条件です。
 矢もハンドルも「重さ」という1つのスペックで、性能の多くの部分は語れるでしょう。しかし、リムは違います。「重さ」は1つの要素ではあっても、性能のほんの一部でしかないのです。それも、軽ければいいというものではありません。それほどにリムには多くの要素があり、複雑に影響しあって成り立っています。
 これはちょうど、「GT-R」より「マーチ」が優れていると一言で評価するのと同じです。
 それにしても「GT-R」。重さを感じさせない瞬発力と安定感でした。燃費はリッター5キロだそうです、それもハイオクで。高性能には、メンテナンスも維持費も、そして知識と愛情、そしてそれ以上に扱える技能が不可欠なようです。。。。
 ついでに言っておけば、リムの性能をパフォーマンスの結果としての「スピード」や「初速」で判断することは、「重さ」同様に危険です。これまで多くのリムの製作に携わり、テストしてきた経験から言って、確かにスピードはアーチャーが追い求める性能の最大のものです。重さとは少し異なります。
 しかしスピードが速すぎて、アーチャーの技術がそれについていかないことがあります。若葉マークや枯葉マーク、あるいは経験の浅いドライバーがGT-Rのアクセルをいっぱいまで踏み込むようなものです。もしそれができたとしても、単に速いだけで「安定性」のないリムはたくさんあります。例えば「捩れ剛性」です。これが伴わずにスピードだけを求めたリムは、耐久性として捩れ易いだけではなく、飛翔時の矢の安定がなくアーチャーのミスを拾い易くなります。結果として、的面での的中精度は低下します。マーチで180km/h走行するようなものです。
 リムの性能を語るなら、個々のスペックを踏まえた総合力であり「完成度」です。そしてそれが自分の目的と技術に見合っているかが、最も重要なポイントです。弓選びも自動車選びも同じです。が、なぜかアーチャーは見てくれと見栄の価格を重視するようです。そろそろ競う前に、いい仲間と楽しみませんか、アーチェリー?!!

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