ノウハウ(8) レスト

 レストは大別すると「プラスチックレスト」と「金属レスト」の2種類があります。近年、金属レストが主流となり、プラスチックレストは初心者用のイメージが定着していますが、昔は競技においてもプラスチックが主流であり金属は敬遠される時代がありました。しかし今でもそれぞれに特長とメリット、デメリットがあります。
 プラスチックレストの特長とメリットは、何といっても「扱いやすさ」です。射っている時だけでなく、ハンドルの出し入れ時やケースの中にあっても、ボウスリングなどを間違って引っ掛けても安心安全無頓着に使えます。金属レストでこのようなミスを犯せば、試合なら続行ができません。
 それに「上下のガタ」はなく、ツメのテンション(可動)は柔らかく、金型で成型されるので個体差もなく、同じ状態で交換できます。とはいっても寒冷地や寒い中での練習では樹脂が硬くなって折れることもあり、磨り減ってくることでの耐久性の問題はあります。しかしそれを補うだけの「安価」は最大の魅力です。
 プラスチックレストが競技であまり使われなくなった理由は、ハンドルの形状にあります。アロークリアランスを大きく取ろうとどのメーカーもハンドルのウインドウ部分の深さを深くしてきました。当然深くなった分だけ、ツメを伸ばす必要が生じます。しかしプラスチックでは材質的に長くすると曲がりやすくなるため、本体部分をかさ上げするしかありません。それではせっかく深くしたウインドウなのに本体が出っ張り、ハネがヒットする可能性が高まります。ヒットしなければ何の問題もないのですが、それでもツメを長く伸ばせる金属レストが主流を占めるようになったのです。しかし金属もメリットばかりではありません。
 なぜ近年、ハンドルはアロークリアランスを広げるためにウインドウ部分をより深くするようになったのか。それはカーボンアローに原因があります。本来アルミからカーボンになることでシャフトは極端に細くなり、それだけでクリアランスは従来より極端に広がっています。しかし直接の目視はできませんが、カーボンアローの挙動はアルミアローとはまったく異なるのです。その特長は蛇行幅の狭さとストロークの短さです。
 矢はアーチャーズパラドックスと呼ばれる蛇行運動を繰り返しながら出て行きますが、その蛇行(横ぶれ)幅がカーボンは狭くまた速いのです。アルミシャフトとカーボンシャフトをたわませ、復元することをイメージしてください。カーボンシャフトはシャープで鋭く速く跳ね返ります。そのため、シャフト本体がアルミよりレストに近い位置を通過します。それだけでなく、ハネがレストに最も近い時にウインドウを通過するようになったのです。
 カーボンアローはひとつのスパインが許容できるポンド幅が狭いため、スパインが合っていなかったりアーチャーのシューティング技術にバラツキがあれば、それがレスト上でのトラブルとして表れます。とくにハネが当たりやすくなります。またアルミシャフトは矢自体が重いためレストを押しのけていたものが、軽いカーボンシャフトは矢の方が跳ね返されることで、レスト上でのトラブルが弾道(的中)に影響を受けやすくなったのです。
 ここ数年、「AAE Free Flyte」レストを愛用しています。使い出した理由は、どうしても矢がうまくクリアしてくれない時期があったからです。今は問題ないのですが(スパインを代えました)、以前ポンドを下げたためシャフトが硬くなり、ハネだけでなくシャフト本体がレストにヒットすることもあったのです。いろいろ試行錯誤はしたのですが、矢側ではなくレスト側での方法論としてこのレストを試したのがきっかけです。
 この種のレストはウインドウから出っ張るのはツメとプランジャーチップだけです。その意味ではレストの理想形ともいえます。矢の通過位置に邪魔なものがなく、最大のアロークリアランスが確保されます。それと他の理由もあって、結構気に入ってはいます。
 2点で支えられている矢の引き手側の点はノッキングポイントにつがえられたノックです。矢はリリースされた後もストリングハイト位置に復元してもまだ、そこから数センチ下がった位置までノッキングポイントとつながっています。そのため矢は大きなエネルギーを得ると同時に、良くも悪くもノックがストリングから離れるまではアーチャーの影響下にあります。
 それに対してのもう1点。レストは矢が置かれているだけに過ぎないので、しっかり固定された発射台としての役目を果たせば、矢の方がうまく蛇行して(レストをかわして)飛んで行ってくれるのです。ところが近年、発射された(ストリングを離れた)後の矢がレストに近付き、発射台にぶつかっていく確率が非常に高まったわけです。それに、重いロケットなら発射台を押しのけて出て行ってくれたものが、軽いロケットはハネが当たっただけでもロケットの向きが変わってしまうのです。
 ちなみに、シャフトを空間に保持するために「磁石」を使う方法が思い浮かびますが、これらはルールブック上の明確な規定はないのですが、「置く」概念を逸脱するため禁止されています。レストにおける矢の保持は「1点」であり、囲みこんではなりません。目に見えない磁力もその対象です。
 究極の理想は何もぶつかるものがない空間を矢が通過することです。しかし支え(発射台)は必要です。近年カーボンアローになったことで気付きにくくなっていますが、アルミアローを射っていると矢の先端部分にアルマイト加工が削れてこのような跡を見つけることができます。これはシャフトがプランジャーチップに擦った跡でシャフトの側面にできます。シャフトが置かれている下側(ツメとの接点)には傷は付きません。カーボンアローでも同じです。
 非常に重要な現実です。矢はストリングとつながり押し出されている瞬間、アーチャーズパラドックス発生の原因となる片側からの解除(フィンガーリリース)によってウインドウ側に大きく押し付けられます。この傷が付いた位置ではすでに矢は下に落ちることなく壁に押し当てられているのです。そしてこの後瞬時に壁から跳ね返され空間にあります。レストのツメが発射台として必要なのは、この矢の先端10数センチだけです。ただしまだあと30センチほどは、ノッキングポイントにノックがあるためもう片方の点はアーチャーの影響下です。
 ストリングハイトから数センチ下がった位置で初めて、矢は完全に自由な状態になります。しかし、その目前に最初で最後の障害物が置かれています。これさえキレイにクリアすれば、矢はアーチャーの影響を受けず、アーチャーの与えた技術のままに目標に向かい飛翔するのです。

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