オールカーボンアローのポイントの付け方

 いやぁー、そんなこと考えもしませんでした。目からコンタクトが落ちる思いです。
 その前に、あなたは今使っている矢のポイントを交換したことがありますか? 交換する予定がありますか? そして、これまでにポイントが抜けてしまったことがありますか??
 
 自作の場合もショップで作ってもらった場合でも、たぶんあなたの矢のポイントは「ホットメルト」(松ヤニ系の接着剤)で取り付けてあるはずです。それが当たり前で、それ以外のことは考えてもいなかったのですが、、、「ホットメルト」でポイントを固定するようになったのは、日本では1990年に入ってからのことです。これは矢がアルミからカーボンに変わった時期です。
 今でも覚えていますが、昔ジョン・ウイリアムスが日本に来た時、矢(ポイント)を直すので接着剤を貸してくれと言うのです。その時「ホットメルト」が欲しいのだろうなと思いながらも、「G17」(黄色いゴム系の接着剤)を渡したのです。案の定、いらないとのことでした。1960年代からアルミアローの時代、アメリカ人や世界ではポイントを固定する接着剤は「ホットメルト」と決まっていました。ところが日本は違ったのです。その頃自作することは少なかったのですが、ほとんどのショップでも「ゴム系」の接着剤を使っていました。
 その理由は、接着力に大差はなく、火(加熱)を使う必要もなく、何よりもこの方法だとポイントを最後に押し込むまでにポイントを少しずつ回転させてブレのない位置を選択できたのです。日本人らしい神経質さです。抜いた後のポイントも、シンナーで拭けば間単にきれいになります。グッドアイデアであり、日本でホットメルトがまだ一般的でなかったように、海外でゴム系接着剤は一般的ではありませんでした。
 ところがEASTONもそうですが、それ以前にBEMANのオールカーボンアローが世界を席巻してから、日本の状況が変わりました。アルミシャフトと違ってカーボンシャフトでは、シャフト自体を高温に加熱できません。そのため、ポイント側を比較的低い温度で加熱するだけで接着剤が溶け出す「ホットメルト」が日本でも主流になったのです。つい最近発売されたブルーの低温で溶けるホットメルトも、接着力やポイント挿入時に威力を発揮するのではなく、低温で溶けだすためにポイントを抜く際に、誤ってシャフトを過熱しないようにという配慮からです。
 そんなこんなで、近年日本でポイントを固定するのは「ホットメルト」と思い込んでいたのです。(BEMANもプロセレクトもオールカーボンシャフトであるのにホットメルトでポイントが固定できたのは、どちらのポイントも「アウトタイプ」(オーバータイプ)と呼ばれる、ポイントがシャフトに数ミリかぶさる形状だからです。)
 そこで、こんな接着剤を見たことはありませんか。カーボンシャフト用のボンドや接着剤という名称で売られています。EASTON以外(?)のシャフトメーカーや海外通販のサイトを見れば、同様の接着剤がたくさん載っています。アメリカではポイントだけでなく、この接着剤でハネ貼りやノックの固定にも使っています。
 正直、何に使うのか、考えもしていなかったのです。しかし、例えばハンティングなどで使うブロードヘッドなども含め、強力な接着力を必要とする場面やしっかりとポイントを固定しようとした時、ホットメルトは言われてみれば力不足です。
 実は今回、この(VAP)オールカーボンシャフトをテストしていたのですが、これまでと同じようにホットメルトでポイントを固定するのですが、畳に持っていかれる(抜ける)のです。これは割合の問題ではなく、自分のポイントが1本でも抜けてしまえば、1本がすべてです。完璧に抜けないようにする必要があります。ところがいくら丁寧にやってみても、うまくいきません。他にテストしていただいているアーチャーも同じような状況でした。
 そこでメーカー(アメリカ)といろいろやり取り(文句を言うことですが)するのですが、向こうではそんなクレームは一切ないと言うのです。確かに、畳相手だけでなく、もっと過酷なハンティングやフィールドでポイントが抜けていたのでは話になりません。
 結果気づいたのは、日本でEASTONがほぼ100%を占めるのと同じくらいにホットメルトが100%と思い込んでいることが異常(間違い)ということです。
 その理由は、EASTONが100%を占めるということは、ほぼ100%が「アルミコア」シャフトということです。このアルミコアとは、アルミのチューブにカーボンを巻いた素材であり、EASTONの特許(独占)のようなものです。EASTONのアルミコア以外のシャフトはファットボーイとカーボンワンくらいです。そんなアルミコアはカーボンシャフトと呼ばれても、「オールカーボン」シャフトとはまったく異なります。ポイント(金属)はアルミ(金属)に取り付けられるのです。それに対し、オールカーボンシャフトは金属のポイントをカーボン(CFRP)に取り付けます。ということは、アルミコアシャフトはアルミアローと同じ方法でポイントを接着できても、オールカーボンシャフトは違うということです。目からコンタクトだと思いませんか。
 
 そこで今回入手したアメリカでは非常に一般的な「接着剤」を試すと同時に、ちょっと調べてみました。まずは、いつも参考にさせていただいている「セメダイン」さんに聞いてみたのです。で、余談ですが、、、アーチェリーの世界は本当に狭いです。こちらのメーカーに同期のアーチャーの方がいらっしゃいました。感激、感動です。ありがとうございました。と、なれば話はわかり易いし、早いです。いろいろ教えていただいた結果。
 
■容器の形態と注意事項から
シアノアクリレート系接着剤 (通称:瞬間接着剤)
高粘度タイプかと思われます。
■現物見ませんと分かりませんが、とろりとなるとの
お話ですのでおそらく粘度は500〜3000mPa・s
程度のものかと推察されます。
■当社にも瞬間接着剤でこの範囲の粘度の製品は
ありますが、ポイント交換のときの加熱程度でうまく
抜けてくれるのか分かりません。
■特に今回はフルカーボンシャフトとのこと、普通の
瞬間接着剤では、カーボン表面を持ってきてしまう
恐れがあるかもしれません。
■確かに瞬間接着剤は比較的熱に弱いので、ポイントが
外れるかもしれませんが、これは経験がありませんので
やってみないとわかりません。
■ただ、以前当社の瞬間接着剤のシリーズに「仮止め用
瞬間接着剤」という、熱で簡単に剥がれるものがありました。
このタイプなら可能かもしれません。(現在はあまりにも売れない
ので廃止になりましたが)
■ご推奨できるピッタリの製品は残念ながらありませんが
高粘度タイプまたはゼリー状の瞬間接着剤で試すか
アロンアルファなどの他社品で「仮止め用瞬間接着剤」があるかもしれません。
以上、ご報告いたします。あまりお役に立てず申し訳ありません。

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 セメダイン営業企画室
 
 と親切に教えていただきました。そこで、今度は「アロンアルフア」さんにも聞いてみました。
 
拝啓 平素は弊社製品に格別のご配慮をいただきまして有難うございます。
弊社ホームページにいただきましたお問い合わせにご返事申し上げます。

申し訳ありません。弊社では一般用「仮止め用瞬間接着剤」は、販売していません。
仮止めではなく粘度が500mPa・s程度のものであればボンドアロンアルフア「木工用」
がありますが、一旦接着すると剥がすことは難しいと思われます。
あまりお役に立てず申し訳ありません。
ご不明な点など有りましたらご連絡いただきたくお願い申し上げます。
敬具

********
東亞合成株式会社
接着技術相談係
 
 から始まって、こちらでも何度かのやり取りの中で、いろいろ教えていただきました。
 
連絡ありがとうございました。
アロンアルフアは、CFRP自体を傷める性質はないと考えます。
製品の選択は、使い勝手(粘度)で決めていただければいいと思います。
粘度の低いもの 一般用 高いものは、木工用となります。


連絡ありがとうございました。
接着面が見えるようであれば、弊社の「はがし隊」で溶かせると思います。
但し、樹脂が溶けないことを確認の上使用ください。
なお、アロンアルフアの耐熱温度は80℃ですから、120℃以上に加熱すれば固まっ
た樹脂が柔らかくなり、剥離できると思います。
やけどに十分注意ください。


>ありがとうございます。
>もうひとつ、お願いします。
>アロンアルフアでCFRPは基本的には傷まない(溶けない)とのことです
>が、「はがし隊」はアセトンを含んでいるということは、CFRPには使わない方
>がいいということでいいでしょうか?

→申し訳ありませんがCFRPがアセトンに溶けるかどうか知見がありません。

>それと先にお送りした写真の「ポイント」(ステンレス)をうまく抜き取ったとし
>て、ポイントに残った「アロンアルフア」のカスを除去するには、「はがし隊」を
>付けてふき取れば、取り除けますか。そのとき、アルコールなどを併用(交互に
>使ってふき取る)しても大丈夫でしょうか? あるいはナイフでそぐ方がいいで
>しょうか?
>よろしくお願いします。

→ポイントに残った「アロンアルフア」のカスを除去するには、「はがし隊」を付け
てふき取れば、取り除けます。一度できれいにならなければ何回か繰り返してくだ
さい。アルコールなどを併用(交互に使ってふき取る)しても大丈夫ですが、「はがし
隊」で取れればアルコ−ルは必要ないと思いますが。
 
 ということで、早速テストをしてみようと近くのホームセンターに行ったのですが、、、「はがし隊」は売っていたのですが、なぜか「木工用」のアロンアルフアがありません。仕方なく「ゼリー状」なるアロンアルフアを買って帰りました。どちらも300数10円です。
 
 そこで一応、聞いてみたところ。
 
連絡ありがとうございました。
「ゼリー状」でも接着性能は大きく変わりません。
また、CFRP自体を傷める性質はないと考えます。
 
 との回答をいただいたので、今回はこれでテストすることにしました。もしこれでOKなら、アロンアルフアに限らず、「瞬間接着剤」(シアノアクリレート系接着剤)の「トロ〜リ」(粘度の高い製品)がキーワードということです。この種の製品はホームセンターに行けば、セメダインさんはじめ多くの種類が販売されています。
 
 そこで、初体験。はじめて「瞬間接着剤」でポイントを留めてみました。先に結論を言えば、なぜこれに早く気づかなかったのかという感じです。完璧に固定されます。畳に取られることはありません。そして何よりも製作が簡単です。アルコールランプも不要なら、ノックの取り付けと同じくらいにあっという間にできあがります。ほんと瞬間です。
 もちろんオールカーボンに限らず、アルミ矢でもアルミコアのシャフトでも同様に簡単完璧にできるのですが、なぜそれが広まらなかったのか気づきました。
 ほぼ100%シェアのアルミコアシャフトは、アルミとカーボン層が接着されているのです。これは加熱すれば瞬間接着剤を溶かすより早く「剥離」する可能性があったのです。だからEASTONはホットメルトにこだわり、日本人はホットメルトしか知らなかったのです。ただし、これは加熱してポイントを抜かなければならない場合のみで、練習用や備品ならこの限りではないでしょうし、ポイントを交換する可能性がないならアルミコアシャフトでも問題はないはずです。
 まずは、こんな感じで接着剤をポイントに付けます。この時点では、瞬間といっても瞬間には固まりだしません。
 ただし、ポイントをシャフトに挿入するとすぐに硬化が始まります。そのため、ゆっくり挿入しながら回転させてポイントの軸全体に接着剤を塗布するというより、一気に回転させながら根元まで挿入するのがいいでしょう。ゆっくりしすぎると途中で固まってしまいます。(あくまで「瞬間」接着剤です。すぐに固まります。まずは最後まで一気に押し込んで、回転させる感じがいいです。)
 ここでなぜ「粘度の高い」(トロッとした)瞬間かの理由がわかります。不要な接着剤は外に押し出されるのです。はみ出た接着剤はすぐには固まりません。乾いた布か紙で拭き取れば、ホットメルトのようにあとでカスを取り除く必要もありません。ポイントが浮き上がらないように押さえる必要はありますが、それも数秒(瞬間)で完成。あっという間に、完璧。すぐに練習にも行けます。(瞬間接着剤は反応が激しく一気に硬化します。その際に反応熱が発生し、状況によっては高温になる時があります。はみ出した接着剤を拭き取る時には注意してください。)
 
 そこで、あるかないかは別にしての、ポイントを交換する場合です。確かにホットメルトとは比べられないくらい、しっかりとポイントは固定されています。
 これをホットメルト同様に「加熱」して、接着剤を溶かします。ガスバーナーなどの火力の強いものは避け、アルコールランプを使います。シャフトに直接炎を当てることは避けて、ポイント先端を加熱します。この作業はホットメルトの場合と同じですが、ちょっと時間が掛かります。この時シャフトのポイント挿入部分を持ちながらしますが、結構持てないくらいに熱くなります。ある程度熱くなってきたら、プライヤーでポイントを引き抜きます。(接着剤を溶かすというより、じっくり加熱して引き抜く感じです。)
 特にシャフトが傷むこともなく、ポイントが抜けました。ただし、接着剤がシャフトを傷めることはありませんが、接着力が非常に強力です。無理に剥がすと、接着剤がシャフト剥がす(傷める)ことがあります。くれぐれも注意してください。どの方法でも、授業料と経験則が必要です。ご了承ください。
 注意:ゆっくり過熱して、根気よく抜けば抜けますが、基本的に「瞬間接着剤」を使った場合は、ポイントの交換は行わない前提で考えた方がいいと思います。
 抜けたポイントには接着剤のカスが残っています。ここで「はがし隊」(剥離剤)の登場です。これには先にご教示いただいたように、カスに付けて布やペーパータオルで拭き取ります。アセトン(有機溶剤)が含まれているので、カーボンシャフトには直接付けないでください。あくまで、ポイント(金属)の洗浄用です。
 ということで、オールカーボンシャフトのポイントは、「粘度の高い瞬間接着剤」で取り付けることを個人的にはオススメします。が、これは選択肢のひとつです。
 実はホットメルトで付かないわけでは決してありません。今回、いろいろ試している中で、プロショップの方からアドバイスをいただきました。正直、個人的にはここまでする自信はないのですが、これこそがプロショップの技であり、これこそがお金を払ってもお願いする値打ちがあるものだと思います。本当の「プロショップ」です。
 
□EASTONのホットメルトを使う。

□ポイントは中性洗剤で油分を洗浄した後、アルコールとペーパータオルで磨き完璧に脱脂する。

□シャフトの中は、綿棒とアルコールでくどいくらいに洗浄する。

□ポイントを軽く温めておいてから、ホットメルトをアルコールランプの炎で水あめ程度まで溶かして、ポイントのインサートの先端1/3くらいにやや多めに絡める。

□ポイント挿入前には、ノックやノックピンの装備は行わない。

□ポイントの挿入のこつは、途中で止まってしまう程度の加熱(グ、グ、グといった感触)で、止まって動かなくなったポイントの先を再度温めて徐々に押し込んでゆく。

 
 いかがですか。ここまですればホットメルトでも止まります。ただしこれはプロの技であり、マニュアルどおりやったから同じようにできるものではありません。
 それと最後ですがどの瞬間接着剤を使うにしても、瞬間接着剤は基本的に空気中の水分に反応して硬化します。そのため保管には乾燥した場所が適します。できれば冷蔵庫に保管してください。それでも長く置いておくとカゼをひいた状態(硬化してきます)になります。それもご理解ください。
 よろしくお願いします。

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