平成13年(ノ)第96号 処分取消調停申立事件
東京簡易裁判所 民事第6室4係A 御中
平成13年3月2日
答 弁 書
申立人 亀 井 孝
相手方 社団法人 全日本アーチェリー連盟
申立の実情に対する答弁
1 申立の実情1項から3項記載の事実は認める。
2 同条4、5の事実について、
申立人が、同条4項記載の動機に基づき、申立人代理人を通じて平成12年11月10日付の文書を相手方代理人に送付したことは認める。
しかし、同文書で回答を求められた事項については、相手方代理人から申立代理人に対する電話連絡により、概ね回答している。
3 同条6項については、否認ないし争う。
全日本アーチェリー連盟の主張
第1、本件の経緯
1、本件は、静岡県アーチェリー連盟から申立人の資格確認の問い合わせがあったことが発端となっている。
静岡県アーチェリー連盟は平成12年7月5日付けの「競技者資格のご確認について」と題する文書(乙第1号証)により、相手方である全日本アーチェリー連盟(以下、「全ア連」という)に対し、申立人に関する競技者としての資格を審議するように求めてきた。
送付された文書によると、京都府アーチェリー連盟に所属する申立人が数年前より「PRO
Select」というカーボンシャフトの輸入販売を行い、今年から「PRO
Select
プロジェクト」という名前でリムの販売を始めているが、そのリムの表面には「Powered
by
KAMEI」という表記で明らかに本人の名前を印刷しているので、申立人の行為は、全ア連の競技者規定第5条2項に違反し、会員資格を取り消される行為に該当すると考えるが、同年9月に開催予定の「第14回ヤマハカップアーチェリー大会」の資格問題に苦慮しているで、どうすべきかとの回答を求めるものであった。
2、そこで、全ア連は、同年8月10日付の文書(乙第2号証)にて、申立人が所属する京都府アーチェリー連盟に対して、事実確認を求めた。
3、京都府アーチェリー連盟は、同月17日付け回答書(乙第3号証)を全ア連に送付し、「申立人が弓具の研究に力を注いでいたのは知っていたが、商売として販売していたこと等については不知であった。」「弓具に個人名を使用している点については、改善を求め、何らかのペナルティーが課されるのが自然であり、全ア連の意向に従いたい」との意向を表明した。
同封された申立人の作成の書面(乙第4号証)によれば、個人としての販売や商売の点については、否認するとのことであったが「Powered
by
KAMEI」なる表記の文字があることは認めたうえで、今後この名前を一切使用しないように早急に対応する旨の申立人の意向が記されていた。
4、全ア連としては、直近の理事会開催予定日が同年10月2日であり、上記大会には間に合わないので、同年8月22日の開催予定の常務理事会にて、静岡県アーチェリー連盟の問い合わせにかかる上記大会の出場に関する件を審議することにしたのである。
8月22日の常務理事会では、全員の出席のもとに審議し、その出場を不許可にする決定を下したので、申立人には、同月31日付の書面において、通知を発した(甲第1号証)。
なお、上記大会とは別の大会に関して、出場不許可の処分がなされなかったのは、申し出のあった事項についてのみ審議した関係上、他の大会については審議事項として漏れていたからである。この点に関しては、不徹底であった。
5、同年9月7日、申立人はその代理人を通じて、同月5日付の文書(甲第2号証)を全ア連の専務理事宅に送付したが、同文書が到着したのは、専務理事である
A
氏がすでに上記大会のために出発した後であった。
この文書によると、問題の弓は40本程度にのぼり、「KAMEI」なる表記を弓に施すこと自体を申立人が了承していた事実を認めた上で、教示事項として、全ア連に質問書を送付してきた。
6、全ア連としては、8月22日の決定が上記試合に関するのみで、一般的な資格問題としては、審議していなかったため、10月2日に予定されていた理事会にかけ、
(1)平成12年度末(平成13年3月31日)迄の間、亀井孝氏の会員資格を停止する。
(2)前項は、亀井孝氏が、早急に「Powered
by
KAMEI」という文字が記載されたリムを回収もしくは、当該文字を除去することを条件とする。
旨の決定をなしたのである。
ところが、前記の質問状が送付されていたので、全ア連としては、この決定の通知も含めて、それに対する回答を発した(甲第3号証)。
7、しかし、それに対して、さらなる質問状として送付されたのが、甲第4号証であるが、電話により相手方代理人から申立代理人に対して、8月22日の常務理事会の決定の経緯や処分通知の範囲など概ね回答しているところである。
特に、今後の処分継続問題に関して、どのような見込みになるかという質問に対しては、全ア連としても決して強行な対応を望んでいるわけでないこと、上記表示をシールを貼るなり、塗装で隠すなりの方法で、除去した報告書を上げていただければ、その努力を認めて善処する旨の全ア連の意向を伝えており、本件調停申立後においても、再度連絡を取り、同趣のことを伝えているところである。
第2、全ア連の主張
1、10月2日の理事会における決定理由は、下記の記載(甲第3号証)のとおりである。
記
決議の理由は、平成12年8月31日付けの本連盟から亀井孝氏に宛てた「競技者規定抵触の件について」に記載されているとおりです。
規定文言の関係では、「Powered by
Kamei」という文字は、その記載上、「Kamei」によって強化された弓であることは明白であり、それは亀井孝氏を連想させるものである以上、個人を特定する「氏名」に該当すると判断致しております。
なお、貴職並びに亀井孝氏は「製造は、40本程度であり、大量生産されていない」「賛同する個人に対して弓を制作するアドバイスを行った」もので、「個人としての活動の範囲」である旨主張されておりますが、製造業者に承諾を与える形で、40本も製造されているのですから、既に、個人としての活動の範囲を超えていると判断しております。
2、なお、この点に関して、補足すると、
すなわち、申立人は、個人としての販売や商売の点について否認し、利益も得ていないと主張しているが、仮にそうであっても、経験豊かな著名人である申立人が強化した弓具であることを意味する「Powered
by
Kamei」なる記載を表示することは、対外的には「Kamei」によって、性能が強化された弓具であことを知らしめる効果を持つものであるから、業者の販売という観点からすると当然に宣伝広告の効果を持つことは明らかである。
となると、一般会員から、当然何らかの利益が業者から申立人に渡っているとする憶測を呼ぶのは必然であり、このことによって、アマチュア精神に基づいて参加し活動している全ア連の会員全体に悪影響を及ぼし、ひいては全ア連の精神的基盤を掘崩す要因となることは避けられないところである。
従って、競技規定第5条第3項においても、「本連盟又は加盟団体の承認を得ず、自らが、自分の氏名、写真、又は競技実績を広告に使うことを許したもの」と規定し、文言上も有償、無償とを問わず禁止しているのである。
また、他人に対して「広告として使うことを許した」ものという表現をとっているのであり、自らが販売等の営業活動として広告する場合に限っているものではない。
従って、個人としての販売や商売の場合でなくともこの禁止規定は適用されるものである。
3、ところで、「Powered by
Kamei」という表示がなされたプロセレクトというアーチェリーのリム(乙第1号証)は、不特定多数の目にさらされる専門誌アーチェリー(乙第6号証の1、2)において宣伝されている。
そこには、ホームページとして「www2s.biglobe.ne.jp/~archery/」(ただし、平成12年8月には「www.a-chery.com/」にアドレスが変更されている、乙第7号証)が紹介されている。
そのホームページを開くと、トップページ(乙第8号証の1)には8つの項目があり、さらに、その項目1を開くと、アーチェリーフィールドと称して、プロセレクトプロジェクトの欄がある(乙第8号証の2)。
そこで、プロセレクトプロジェクトの関連を開くと、平成12年8月頃までは、乙第8号証のような表示が見られ、ここには、プロセレクトという文字の上に、「Powered
by
Kamei」という文字が表示されている(コンピュータの打ち出しで不鮮明ではあるが)。
なお、平成13年3月現在では、乙第8号証の4のような表示になっており、「Powered
by
Kamei」なる表示は見られない。しかしそれでもなお、テクニックに関する解説が「Written
by KAMEI Takashi 1977 World Championship 2nd Place」とされ、申立人によって書かれたものであることが明らかにされており(乙第8号証の5)、実技指導もなされている(乙第8号証の6)。
更に、バナーボタンと言うところでは「NO1 Powered
by
Kamei」という記載がはっきりと表示され(乙第8号証の7)、プロセレクトの販売店のリストも用意されているのである(乙第8号証の8)。
このホームページが誰によって運営されているかは定かでないが(これは釈明して貰いたいところであるが)、申立人から全ア連の理事である
A
に送った文書(乙第9号証)には、自己のホームページのアドレスとして上記の変更されたアドレスが記載されており、このホームページの運営自体が申立人によってなされていることは明らかであろう。
申立人は、個人として販売や商売の点について否認し、利益も得ていないと主張しているが、以上の状況に鑑みると、商業として自ら営んでいると見ることが自然であろう。
また、このホームページには、[アマチュア規定]と題して、競技者規定を引き合いに出し、その合理性を論じていることからすると(乙第8号証の9)、申立人の行為は、競技者規定に違反していることを承知の上で行った行為と考えざるを得ない。
4、本調停申立書において、申立人が全ア連の決定については手続き上実体上重大な疑義があると主張している点に関して、全ア連としては、何ら問題はないと考えている。
即ち、まず、上記大会への出場の許否に関しては、8月22日開催された常務理事会において、常務理事5名全員が出席のうえ、全員の賛成の下に出場不許可の決議を下している。
次に、資格停止に関しては、10月2日開催された理事会において、定数20名のうち16名が出席し、残り4名については委任状提出により議決が行われ、全員賛成にて前記決定を下している。
確かに、全ア連の競技者規定第5条には、同条2項に違反した場合には、会員資格を取り消さねばならないと規定されている(乙第5号証)。
そこで、その条項から資格停止や、出場停止の処分権限が導かれるのか、規定文言上問題となる。
しかし、違反の程度や違反の与える影響も様々であることに鑑みれば、資格停止の措置を採ることを排除し、いかなる場合でも一律に取り消さなければならないものとする趣旨とは、到底考えられない。
また、会員資格が問題となる場合、会員資格が無くなれば、出場資格もなくなる関係上、同条項には出場を不許可とする権限も含むものと解釈すべきである。
更に、会員の資格に関する判断は、理事会に付託された権限であり、理事会決議事項であることは当然であるにしても、出場不許可処分は、一般的な資格判断に及ばないものであること、個々の大会出場に限っての判断であり、全ア連の常務に関する事項であると考えられることからして、これを常務理事会において判断しても何ら問題はないと考える。
5、申立人からの事情聴取に関して、
全ア連としては、京都府アーチェリー連盟を経由して申立人からの回答(乙第4号証)が送付されてきたので、本人の弁明は聴取済みであると考えている。よって、手続き的公正さを欠くものではない。
第3、調停に関する全ア連の意向
全ア連としては、申立人が上記の手段等により、その削除に努力すれば、資格停止を今後とも継続する意思はないので、早急に申立人に善処願いたいところである。
なお、申立人は、販売済みで、占有を離れているので、削除は困難である旨主張しているが、申立人自身が主張(乙第4号証)するように「個人として自分が使う弓およびそれに賛同する個人に対し弓を制作するアドバイス」であり「個人としての活動範囲」内のものであれば、弓具の所有者の協力が困難であるとは思われない。
疎 明 資 料
乙第1号証 競技者資格のご確認について(静岡県ア連)
乙第2号証 亀井孝登録会員につき問い合わせの事項(全ア連)
乙第3号証 亀井孝の問い合わせの件について(京都府ア連)
乙第4号証 無題(申立人の回答書)
乙第5号証 競技者規定
乙第6号証の1、2
雑誌「アーチェリー」
乙第7号証 http://www2s.biglobe.ne.jp/~archery/のトップページ
乙第8号証の1〜9 http://www.a-chery.com/
乙第9号証 申立本人からの連絡文
添 付 資 料
1、上記疎明資料 各1通
2、委任状 1通
以上
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