「X10」と「ピンポイント」と「リング」

 「120グレイン」「68インチ」「38ポンド」「27インチ」、どこかにも書きましたが、これらはすべて「ヤード・ポンド法」で定められた重さや長さの単位です。そしてなぜかアーチェリーをする人がこれらの単位に違和感を覚えないのは(本当はむちゃくちゃ違和感を覚えているのでしょうが、仕方なしに)、これらが弓や矢といった道具に使われているからです。「68インチ-38ポンド」の弓を、「173センチ-17.2キロ」の弓とは決して呼びません。
 にもかかわらず、試合は70メートルであったり、50・30メートル。インドア競技は18メートルです。シューティングラインの前にあるのは3メートルラインで、的の直径は122センチや80センチ、的の高さはゴールドの中心が地面から130センチ。これらはすべて「メートル法」です。
 不思議な競技ですよね?! 勝手な想像ですが、アーチェリーの発祥がイギリスであり、それが後にアメリカに伝わった。競技としては、イギリスから生まれたが、道具を生産する中心はその後アメリカに移って、アメリカを中心に道具のスタンダード(標準)が生まれた。と思っていたのですが、正確にはイギリスはロビンフッド国ではあっても、競技はヨーロッパを中心に確立されたといった方がいいのかもしれません。ちなみに、2011年に名称が変更されて、現在は「WA」(World Archery Federation)となりましたが、それまでの「FITA」という名称は「Federation Internationale de Tir a l'Arc」の頭文字をとったもので、フランス語です。
 しかしともかく、1990年代まで道具の中心はアメリカでした。そこに入っていったのが日本のメーカーです。その頃、韓国製や韓国のメーカーは皆無です。そして一時競技において半分近くまでシェアを獲得する日本製の弓でしたが、日本では1959年からヤード・ポンド法はもとより尺貫法も禁止され、日本製品にはメートル法での表示が義務付けられます。そこで苦肉の策として、ヤマハやニシザワはインチは「”」、ポンドは「#」という記号で暗にそれを表記しました。「68”-38#」の弓は作られ、そうリムに書かれていても、インチやポンドとルビもふらなければ、正式にそのような記載もしていませんでした。
 そこで、「120グレイン」は何グラム? どれくらいの重さ? と聞かれると、違和感を覚えていないアーチャーでも、答えられないでしょう。
 120グレイン=7.7758692 グラム です。1グレイン=0.06479891 グラム です。なおさら分かりませんが、「Grain」(グレインあるいはグレーン)は、「穀物」という意味があることからも分かるように、元々は「大麦」の一粒からできた単位です。1グレイン=米粒1個 ぐらいと思えば分かりやすいでしょうか。1円玉が1グラム、500円玉が7グラムです。シャフトの先に米粒120個か500円玉1枚が貼り付いている感じです。
 と、ここまでが前振りで、ここから前回の話に戻ります。
 
 X10用(コンパウンド用の「プロツアー」も共通です)の高精度、高品質の「ピンポイント」を作るのですが、X10はACEに比べて細いためにポイント先端部を鉛筆のような尖った形状にすると重さが確保できません(軽くなってしまいます)。それでも重さを確保するとなれば、素材を変えないなら軸部分(シャフトの中に入る部分)を伸ばすしか方法がありません。これによってスパインが硬くなると思われるかもしれませんが、実際にはレスト(プランジャー)位置より前の部分であり、個人的には硬さは気にならないのですが、硬さ以上に問題になるのは「FOC」です。矢全体の中の重心の位置です。重いポイントを使う目的は、矢の総重量を上げることもそうですが、それ以上に矢を「トップヘビー」にしようという意図があります。最近、インドアで大口径シャフトを使うコンパウンドアーチャーが「180グレイン」といった極端に重いポイントを使い出したのは、総重量を上げることよりもトップヘビーを目的としたチューニングです。
 そんなことを考えると、市販品で最も重い120グレイン以上の重さでも使え、なおかつトップヘビーが可能な方法を考えて思いついたのが、この方法です。ポイント本体に装備する「ポイントリング」を作りました。
 最初、ポイント本体で最大140グレインを考えたのですが、長すぎることとそれに伴って素材と加工費が結構掛かることが分かりました。そして「5グレイン刻み」の溝も、溝を切ることでの軽量化になってしまいました。
 そこで、ポイント自体はフルレングス(軸をまったく折らない状態)で「130グレイン」として、溝も「10グレイン刻み」で最後に5グレインの溝が入って「85グレイン」までのブレイクオフタイプを基本としました。そこに最初10グレインのリングを1個追加することで「140グレイン」ですが、、、そんな試作の中でまたまた思いついたのが「5グレイン」リングです。これだとブレイクオフに組み合わせれば、全体を「5グレイン刻み」にすることができます。もちろんフルに1個装備すれば「135グレイン」、2個装備すれば「140グレイン」、3個装備すれば「145グレイン」、4個装備すれば「150グレイン」です。コンパウンドでの実射テストの過程で「4個」までの装備を確認しました。
 また、リカーブではよほどの技術がないと分からない範疇ですが、コンパウンドではこのアイデアで大きく「FOC」を変化させられることも分かりました。同じ重さでもリングを組み合わせることで先端部分の長さは変わりますが(1リング=4ミリ)、よりトップヘビーやFOCを調整することができるのです。
 
X-10 Protour 47 AMO 26.1/8"
ポイント グレイン(重さ) 組み合わせ F.O.C.
EASTON タングステン 120 フルレングス 14.88%
PS10-P ポイント 128 フルレングス 15.03%
リング2個 1段ブレイクオフ 15.48%
リング4個 2段ブレイクオフ 16.69%
 
 ということで、VAP・ACE用の「PS-Pポイント」に引き続いて完成したのが、このX10用「PS10Pポイント」です。もちろん製作は精度と品質では世界一の新潟県燕市です。選択肢の少ない中にあってX10が最高の矢などとは決して思っていませんが、多くのアーチャーはそれしかなく、それを信じて使っていることから考えて、ポイントだけでも選択肢とチューニングの幅を多少でも広げることは悪くはないでしょう。競技用に使うマイアローなら、より自分に合った高性能チューニングはいかがですか?!
 
 ※上記データはテスト段階でのものです。現在、最終仕様が決定して、製作に掛かっています。今しばらく、お待ちください。。。。
 
 ちなみに、10グレイン(リング2個)は米粒33個でした。やっぱり大麦の方がコシヒカリより大きいようです。。。

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