オーバードローレスト

 リカーブボウの場合、プランジャー(プレッシャーポイント)の位置を動かす時にはルール上の制限を受けます。しかし、なぜかその規定はターゲット方向には無制限に認めながら、逆のアーチャー方向(手前側)にはたったの「40ミリ」しか認めていません。(コンパウンドの場合は60ミリ) 理由は道具等の問題ではなく、単に安全上の配慮からと考えられます。短い矢を使うと的中精度もさることながら、矢がレストから落ちて手を傷つけたり、前で射つアーチャーを射ってしまう可能性が高まります。安全対策からの配慮です。
競技規則205条−3 プレッシャーポイントは、弓のハンドルのスロート部(ピボットポイント)から4cm後方(内側)以内の位置とする。

 それでも、なぜオーバードローレストと呼ばれるような、矢の乗る位置がアーチャー側に移動した道具や、それに類するチューニングが行われるのか。元々の出発点はハンティングあるいはコンパウンドボウと考えられます。なぜなら、基本的には短い矢(シャフト)は長い矢より的中精度のうえからは劣ります。しかし、ハンティングそして近年の3D競技では多くの場合、アルミシャフトを使用します。
 その時、特に高ポンドであればあるほど硬いスパインの矢を使用する必然から矢の重量が重くなってしまいます。ブロードヘッドの矢じりを使えばなおさらです。そのため通常の長さの矢ではサイト位置が下がり、ハンティングや距離の表示のない競技においては距離の読み間違いが大きく的面に表れてしまいます。そのため、少しでもシャフトを短くすることで、矢の重さを軽くしようとしているのです。そうすれば少しのミスは高ポンドコンパウンドであれば的内には矢を留めてくれるのです。
 しかし、現実問題としてリカーブボウの世界では短い矢がメリットを生み出すことは少ないでしょう。
 まず、重量においてはカーボンアローの出現で多少の長さの違いは、重量の違いに反映されることはなくなりました。例えば昔アルミアロー最後の頃、世界大会やオリンピックにおいても強風の試合では距離の異なる長距離はともかくとして、男女とも同じ距離の50mでは女子の選手が男子を上回る状況が生まれていました。それもとてつもない強風において、とてつもない高得点です。理由はカーボンアローのない状況で、軽く細いアルミアローが現在のカーボンアローと同じ条件を作り出した結果です。しかし、それも昔の話です。
 では、次に考えられるメリットは何でしょう。あるとすれば、スパイン調整のためです。しかし、この場合はレストの位置(矢の乗る位置)ではなく、クッションプランジャーのチップ位置自体が手前になければ意味がありません。しかし、その場合でも結果的にはストリングハイト位置からレストまでの距離が極端に短くなります。レストを25ミリ手前に動かすことは、ノックがノッキングポイントから離れてレストを通過するまでの距離が、ストリングハイトを1インチ下げたのと同じ結果になります。
 これはカーボンアローのアーチャーズパラドックスからの復元ストロークからみて、よほど適切なスパインの矢と安定したシューティングテクニックを持たないとレストでのトラブルが的中精度に大きく影響するのは必至です。(コンパウンドにおいてはこの問題は道具によって解消することが可能です)
 このように、短い矢あるいはオーバードローレストはリカーブボウにおいてはあまり適したチューニング方法とはいえないでしょう。ただし、レスト部分の出っ張りをなくす手段としてレストを手前に格納してしまうことは、非常に適切なやり方ではあります。

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