サイトの方式

 日本は価格は別にして、精度や技術的には世界のトップクラスと誇れる弓具を多く製造、販売しています。しかし、それらの製品は本当にトップクラスの 「性能」 を有しているのでしょうか。例えば、サイトはどうでしょう。近年発売される製品を見ていると、高級機種といわれる高価格サイトに限って、どんどんネジの数が増えてきているようです。

 あなたは試合でサイト調整をしようとしたら、いくつのネジを緩めますか。しかし、それだけのネジを締めてもまだ緩んだり、動いてきたりしませんか。メーカーはネジを増やすことはサイトの性能(この場合は安定度)を向上させるためであり、ネジの数こそが性能の証のように説明します。本当にそうなのでしょうか?
 日本製のサイトのほとんどが「ラック&ピニオンと呼ばれるサイトバーの側面に溝を斜めに刻んだ方式です。確かにこれは精密機械に使われる、技術を要する加工です。ところが、その性能に反して外国のトップアーチャーたちがこの種のサイトを使っているのを見かける機会がどんどん減ってきています。特に高いエイミング精度と耐久性を要求されるコンパウンドアーチャーでは皆無です。また、最近(昔はありましたが)外国製のサイトでこの方式を採用するメーカーは皆無ともいえる状況です。日本だけが、いまだにこの種のサイトを生産し使用し続けているのです。
 実はこの「ラック&ピニオン」という方式は30年以上前にアメリカで考えられたものです。当時、もっとも精度の高いサイトでも単にレールの上をサイトブロックをスライドさせるだけだった頃に登場し、その精密さと安定度の高さからリカーブボウを中心に世界のアーチャーに愛用されるようになったのです。この時期、日本にアーチェリーが広まり出した時期と一致し、アーチャー同様いくつかのメーカー(当時はメーカーなどと呼べるようなものではありませんでしたが)はこのアメリカ製のサイトをコピー(模造)するところから出発しました。それがいつのまにか、世界のトップブランドのような扱いを受けるに至っていたのです。
 1970年代から80年代にかけてはそのような時期がありました。ところが、その間に本家アメリカではこの方式は姿を消し、90年代後半カーボンアローが主流となった今、アメリカ製の反撃が始まったのです。ひょっとしたら、「ラック&ピニオン」という方式はあれから30年、現在使われているカーボンアローや反発力の高いリムに対しては性能的にすでに遅れをとってしまったのではないでしょうか? そうでもなければ、あんなに多くのネジを必要とするはずがないと思いませんか。アーチャーの望みは、雨の中でも30秒前でも瞬時に簡単に動かせる操作性と、ネジ1本で完全に固定できる機能性と安全性です。これが満たされるなら、少々の重さやデザインのスリムさを犠牲にしてでもいいと考えているはずです。

 アーチェリーは非常に特殊な競技です。初心者も趣味のアーチャーも、使っている弓具はオリンピック選手とまったく同じ道具です。こんな競技がほかにあるでしょうか。特殊とはいってもオリンピック選手が自前の金で弓具を買っていると信じている人はまさかいないでしょう。彼らも当然性能や品質を求めます。しかし、だからといって彼らの使っている物が、すべてわれわれ一般アーチャーにも同様の恩恵与えてくれると考えるのは、大きな過ちです。
 初心者には初心者の、そして趣味のアーチャーには趣味の道具があってしかるべきです。今こそ個々のアーチャーが見極める眼をもって宣伝文句に躍らされることなく、本当に良い商品、必要な道具を見つけ育てていく時ではないでしょうか。無駄に金を使うことはあなた自身の損ばかりではなく、アーチェリーの世界全体にとってもマイナスの効果を生み出します。

 例えば最近あまり見かけなくなったこの種のサイト。ネジ1本で完全に固定でき、たとえ試合中にネジが折れたり壊れても試合続行が可能です。
 今一度、サイトに求められる最低限の「機能」「性能」について考えるのもいいでしょう。そうすればネジだらけのサイトや高価なカーボンサイトが、本当にアーチャーの求めるものなのかが見えてきます。重く、頑丈なサイトもそれ自体をスタビライザーと考えれば無駄な出費をせずに、より以上の「機能」「性能」を手に入れることができます。

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