風のはなし

 多くのアーチャーは「風」の存在自体がすべて的中精度の低下を導くものと勘違いして、冷静さを失い、低い得点を当然の結果と考えてしまいます。しかし風の基本的な部分さえ理解していれば、そんなに怖くはないのです。そうしないと、いつまでたっても当たりません。

 風は空気の流れです。それは「強さ」(風速)と「方向」によって変わってきます。
 例えば同じ強さの風でも、吹く方向が違えば状況はまったく異なります。とは言っても、実は「追い風 (↑)」や「向かい風 (↓)」は的中精度に対してまったく(ほとんど)影響を及ぼさないと理解するべきです。
 その話をする前に、追い風と向かい風では「どちらが矢飛びが悪い(悪く見える)」と思いますか?
 状況にもよるのですが、あえてどちらかと言えば「追い風」の方が見た目の矢飛びは悪いことが多いでしょう。なぜなら、矢はコマの原理によって飛翔の安定を得ます。ということは前方からの風(向かい風)によって矢は回転を得るわけですが、追い風は矢の回転を妨げる効果を与えるために、あえてどちらかと言えば前方からの風の方が追い風よりも矢飛びはキレイに見えます。しかし、この矢飛びとはあくまでも見た目の矢飛びであり、的中精度とはイコールのものではありません。

 このようにスパインが合っていない場合や、アーチャーの技術的問題ではなく外的条件によって矢が蛇行(この場合は「フィッシュテイル」と呼ばれるような魚が泳ぐような飛び方)したような場合、重要なのはその矢の「重心位置」がゴールドへ向かう弾道線から逸れていなければさほど問題はないということです。特に追い風の強風下ではこのような飛び方が起こることはよくあることです。(風がない時でも、矢飛びが悪いのに当たるというのは、この重心位置が描く弾道線がずれないからです。)
 しかし、どちらにしては「追い風」も「向かい風」も基本的には弾道線の偏移をもたらせません。もっと分かり易く言えば、「風が右から吹けば、矢は左に流れる」し、「左から吹けば右に流れる」のです。このことさえ知っていれば十分なのです。
 ただし、追い風や向かい風が的中位置に上下の変化をもたらすことがないとは言えません。これはどの位置でどんな風を矢が受けるかで異なるのですが、仮に矢が射程の3/5付近を過ぎて弾道の頂点から的に向かって降下を始めた頃に強い向かい風を受けると、矢は飛距離を伸ばし予想的中位置よりも上方に当たるでしょう。この逆の状況もあり得ることです。しかし現在のカーボンアローで通常の強さの弓を使うなら、このようなことが起こるのも90mにおけるよほどの強風の場合だけです。

 多くのアーチャーが注意しなければならないのは、風を自分の身体でのみ感じ判断していることです。これに反論するアーチャーでも、的の上の「旗」を視野に入れる程度です。確かに体感や旗は重要ではあるのですが、所詮は発射点(シューティングライン)と到達点(ターゲット)の最初と最後の状況にすぎません。
 我々がもっとも知りたい情報は矢の飛ぶであろう弾道線における風の状態なのです。そこでの風の方向と強さです。これを知るには経験も大事ですが、それを得るための注意を払うことがもっと重要です。何に注意をするのか。それは試合場にある利用できるすべての物です。的の上の旗だけではなく、矢が飛ぶであろう高さにある木立の動きやもっと上方にあるセンターポールの旗、そして試合場に敷き詰められた芝全体の流れ(動き)などです。それだけではありません。他のアーチャー(正しいシューティングができるレベルの選手でなければ意味がありませんが)の後ろに立ち、実際の矢の動き(流れ)を見極めるのも重要な仕事です。このようにして得たすべての状況を判断してシューティングは行われるべきなのです。
 もうひとつ重要なことがあります。もし風が吹くことで的中位置の変化が現れたり予想されたりする場合、アーチャーはその原因がシュート時のアーチャー(自分)によってもたらされた結果なのか、それとも飛翔中の矢に対する外的物理的影響によってもたらされたものなのかをはっきり区別する必要があります。実際、近年のカーボンアロー使用による条件下で単に飛んでいる矢の飛翔方向を変える物理的要因(風だけでなく、雨や温度や湿度の変化も含めて)はそう見当たるものではありません。ほとんどがそれらを予測した結果による精神的圧力(プレッシャーや焦りなど)を含めた技術的問題に起因しているのがほとんどなのです。一般のアーチャーが経験することは少ないかもしれませんが、例えば強風下でのシューティングマシンによる矢飛びなどを見れば、いかに的中精度の低下や矢飛びの悪さがアーチャー自身によって作り出されているかが分かるはずです。実際に今のカーボンアローで、それ自体が飛翔中に風を受けて方向を変えることは稀であり、もしそうであっても的中位置の変化はアーチャーが考えるほど大きいものではないのです。

 仮に飛翔中の矢が風によって偏移(流される)するとして、右()からの横風によってそのアーチャーの矢が本来10点に的中するところが実際には9時の1点に的中したとします。この同じ条件(シューティングや風速)で風の方向だけが右前方45° からの斜め風に変化したとすれば、的中位置は9時のオンライン6点です。これは右後方45° からの斜め風でも同じことです。

 これはあくまでも理論上のことであり、実際には経験や先の条件を参考にアーチャー自身が判断をくださなければなりません。しかし、矢の斜め風による偏差量は横風の1/2であることは知識として持っていて決して損はない事実でしょう。そしてこれが分かっていれば、右前方30°や右後方60°の風であっても、あるいは左からの風であったとしても恐くはないのです。

 風の中でも「本当に」当てられるかは経験なのです。そしてこの経験を得るには知識を持って何度も何度もトライし失敗し、そこから学んだことの積み重ねがどれだけあるかなのです。
 とは言っても、2分で3本射つという状況の中で、風を見て判断して次のシュートを考える・・・・というような時間的余裕がないのも事実です(哀しいかな)。と言うことは、アーチャーにとって必要な能力とは、「風を読み」「風を判断する」こと以外に、それを踏まえていかに「一定の条件下でシュートできる技能を身に付ける」かが重要な要素となってきます。そのためには、やはり「速く射てる」ことは大切なポイントです。
 風はたえず一定の風速、風向を保ち続けるということは稀なのです。風は間断的、断続的に吹くものです。これを風には「息」があると言います。つまりアーチャーはこの息を見極めて、無風を選んで射つだけでなく、風が一定の条件下にある時期を選んでシュートする能力もトップになるには不可欠の要素なのです。

copyright (c) 2010 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery