サイトピンが止まらない

 押し手が震える話ではありません。物理的にサイトのピンが止まらない話です。
 その前に、最近の弓具はワインのようです。2002年ヤマハ亡き後、「何年物のサイトは良い」とか「何年のリムは良くない」的に道具の出来不出来、良し悪しが年度によって出てきているように感じます。その最大の原因は、ヤマハが撤退してからの世界のアーチェリー界に「スタンダード」と呼べる「品質基準」「性能評価」がなくなったためです。それが証拠に弓にしても付属品にしても、近年「定番」と呼べるものがなくなってきたでしょう。そして定番以前に、同じ商品が続かないのです。リムにしてもハンドルにしても、サイトにしても毎年モデルが変わっています。長く生き残る名機と呼べるモデルや機構や構造は、ヤマハが残したものの後には存在していません。毎年モデルチェンジとマイナーチェンジ、廃番商品の繰り返しです。それも良くなっているならいいのですが、単に悪い部分があったので改善と改良を繰り返し、値段だけが上がっていくのです。こんなことはヤマハが生きていた時にはなかったことです。なぜならそこに品質なり精度の基準があったために、それをクリアできない製品は商品として世には出せなかったのです。ところがどうでしょう、近年特に日本の市場は製品の実験場と試作品の処分場と化しています。技術もノウハウもないメーカーがロクにテストもしない、とりあえずは作ってみた製品やコピー商品を平気で高い値段で売っています。何でもありの上得意様なのです、日本のアーチェリー市場は、、、、と書くと、いろいろなところから、いろいろなことを言われたり、されたりするのですが、それはさて置きサイトの話。

 2004年のサイトは不作です。とはいえ、すべてがそうでもないでしょうし、少なくとも自分の使っている道具が良ければそれで問題がないのがこの世界です。
 そこでサイトの方式については以前に書きましたが、今回皆さんに確認してもらいたいのはサイトレール上でのサイトピンの固定ではなく、サイトレールが固定されているエクステンションバーの精度と品質の問題です。
 何はともあれ、ちょっと自分のサイトバーを持って上下左右に揺らしてみてください。本当に止まっていますか。ガタガタしませんか? 止まっているならそれで結構です。問題はありません。しかし残念なことに今年いくつかのサイトをお願いして触らせてもらうと、止まっていない(止まらない)ものが結構あるのです。それがエクステンションベースのネジがしっかりとハンドルに締め込まれていない、等の初歩的なミスが原因ならいいのです。しかし、ベースが止まっているのに、ベースとエクステンションバーがちゃんと固定しきれないものが世の中にたくさんあるのです。困ったことです。サイトとは照準器であり、これが固定できないとエイミングの意味が失われてしまいます。
 サイトのエクステンション(バー)という道具がアーチェリーの世界に商品として登場したのは、1972年のミュンヘンオリンピックでのジョン・ウィリアムスからです。それは同時にテイクダウンボウの登場でもありました。しかし実際にはアメリカのPAA(Professional Archery Association)ではインドアでエクステンションを使用することは当たり前であり、ジョン・ウィリアムスによってそれがFITA(アウトドア)に持ち込まれただけの話ではあるのです。とはいえ、今では当たり前のように技術に関係なく、初心者でもそれをいっぱいまで伸ばして使う道具として定着してしまったエクステンションです。
 ところがサイトレール上のサイトブロックの動かし方には薀蓄があっても、なぜかエクステンションバーについての精度や性能についてはあまり語られません。(語りたくないのかもしれません。) そして近年、特にカーボンエクステンションバーなる高価な製品が世に出るにいたってから、この種の問題が増えたようにも思われます。しかしあまり問題視はされません。サイトの本質にかかわる問題であるにもかかわらず、です。
 では、止まればそれで良いのか? なのですが、実はもうひとつ不可欠な精度(性能)があります。ここでは「復元性」と呼びましょう。例えば同じエクステンションの長さでそれを使用する場合、毎回(毎日)同じ場所にサイトピンが固定されないといけないのです。このことに注意を払うアーチャーは少ないでしょうが。分かりやすくいえば、毎回弓を組み立てて例えば50mのサイトを取り付けてシューティングラインをまたぐ時、サイトピンはハンドルに対していつも同じ位置に復元されなければなりません。50mのサイトはいつもハンドルに対して同じ空間に保持されるべきなのです。しかし残念なことにエクステンションのロックつまみの締め方や弓を保持する方向によって微妙に異なるサイトがあるのです。しかしその誤差を多くのアーチャーは、自分の技術的誤差と理解してくれます。
 この誤差(復元性)はエクステンションバーを出し入れした時にも重要な精度となります。70mしか射たないアーチャーには無関係ですが、長距離と短距離で仮にエクステンションの長さを変更するアーチャーにおいては、サイトピンの位置はサイトバーによって担保されたとしても、サイトバーの位置がエクステンションベースからスライドされる本来の位置から大きく異なっている場合もあるのです。これを確認するにはサイトピンをセンターショット(ストリング)に重ねて、どの長さにおいてもピンが左右に移動しないことです。ただしこれはハンドルの仕様やハンドルのセンターショットを正確にチューニングしているかも前提にはなります。
 しかしこの重大問題さえも善良なアーチャーは自分の技術的問題として解決してくれるのです。これほどのメーカーにとっての幸せはありません。
 ということで、あなたのサイトが豊作年のサイトであるか、そして良く熟成されているかを明日レンジに行った時に手と目で確認してみてください。新しいから、値段が高いから良いというものでは決してありません、ワインもアーチェリーもです。

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