ストリングハイト

 「ストリングハイト」はブレスハイト(Bracing Height)とも呼ばれ、一般には弓のグリップの底(ピボットポイントと呼ばれるもっとも深い位置)から、張られたストリングまでの最短距離の長さで表します。(アーチャーによってインチで言う場合もあれば、ミリで表す場合もあります。) この長さが変わることは、発射時の矢とストリングの接触時間が変わることであり、弓が矢に与えるエネルギー左右する重要な要素となります。またドローイングからフルドロー時の弓の特性( f-x 曲線)を変化させ、アーチャーのシューティング感覚にも影響をおよぼします。
 ところで、矢とストリングの接触時間ですが、目で見ることはできませんが実際にはストリングはストリングハイト位置よりも、約1インチからそれ以上にグリップに近づいた位置まで接触し続け矢を押し出しています。ストリングハイトの位置が、矢の離れる位置ではありません。

 ストリングハイトがアーチャーにとって大きな意味を持つのは、それがもっとも簡単かつ大きくシューティング感覚や的中精度に影響を与えるチューニング方法だからです。例えば、矢の的中精度や矢飛びに影響を与えるチューニングの手段にはストリングの太さ(ストランド数や原糸の種類)やクッションプランジャーの出し入れや硬さを変える方法もあります。しかしそれらを含めた他の方法は簡単とは言い難く、試合の場面で実際に行えるかを考えると容易ではないでしょう。
 ところがストリングハイトの変更(調整)は新たな道具や新しい状況を必要とせずに、1本のストリングの捩り数を変えるだけで、簡単に矢に与えるエネルギーを変えることができるのです。

 アーチャーが自分の弓のストリングハイトを決定(変更)する時、それは3つの観点から考える必要があります。
 
  1)弓の基本設計からのアプローチ  
  2)矢の飛びと的中性能からのアプローチ  
  3)アーチャーのシューティング感覚からのアプローチ  
     
 ただし、ここではストリングの太さ(デニール数やストランド数)や素材といった他の要素は無視(一定である前提)して話を進めます。(しかし現実には、プランジャーの出し入れの位置(センターショット位置)やプランジャーの硬さ、ティラーハイト等々多くの要素をも含めながらアーチャーはより小さいグルーピングを求めるのですが・・・・)
 
1) 弓の基本性能からストリングハイトを考える時、それは使用する弓の長さによってある程度の幅(許容範囲)が決められます。最近の弓は一般的には9インチ(約23.5cm)前後で使用されますが、これは「 f -x 曲線 」を元に弓のメーカーが設計段階で設定しているもので、インドア競技のような特別な状況下を除いては必然的に自分の弓の長さと標準的なストリングハイトが決まってきます。しかし、メーカーが推奨するストリングハイトの幅はあくまで一般的な値であり、それを超えたからといってリムが折損したりするというものではありません。
 
2) 弓の長さが決まり使用する矢も決まっているなら、後は一般に行われるアーチャーの「チューニング」と呼ばれる作業です。例えばこの中には「ベアシャフトチューニング」なども含まれるのですが、一般的にはアーチャーの経験と感を頼りにした矢の飛び方と的面上でのグルーピングの状況から判断されることが多いでしょう。
 しかし、これらのチューニングは 1)の常識的な範囲を考えれば標準的な位置から動かせるのは特別なセッティングをしない限りは1インチ強(3cm程度)です。そこでアーチャーは許容範囲の中で矢に与えるエネルギーを調整します。
 
3) このシューティング感覚を意識するアーチャーは少なく、またその感覚を理解できるのはあるレベル以上のアーチャーということにもなりますが、実際の使用では非常に大きな意味を持ってきます。
 例えばアーチャーが「エイミング時の安定感」や「リリースのし易さ」等に意識を集中するなら、1/2インチの変更がこれらの感覚に影響を及ぼしていることが分るでしょう。しかし、そんなチューニングが許されるのも矢がきれいに飛んでいる前提があってこそであり、矢の選択自体(スパインの選定)に無理があれば 1)2)を優先させるしかありません。

 ストリングハイトは矢飛びや的中精度、そしてアーチャーのシューティング技術に大きな影響を及ぼします。そのため、アーチャーは絶えずストリングハイトに注意を払う必要があります。しかしストリングハイトはストリングの素材や太さだけでなく、気温や湿度、弓の強さによっても変化していきます。そのためアーチャーは、弓を組み立てた時にだけフィストメルゲージで確認するのではなく、練習や試合の合間や弓を片付ける前にも必ず自分の弓の状態を知るようにしなければなりません。

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